「Beyond Health」2019年10月25日付の記事より

横浜市(神奈川県)が、TikTokと組んだ乳がん啓発プロジェクトに乗りだした。堅いイメージのある自治体と、若者世代を中心に世界中で高い人気を誇るショートムービープラットフォームという異色のコラボレーションだ。そこには、「楽しみながら自然に医療の話題に接してほしい」との切実な思いがあった――。

 乳がんは、早期発見により治癒する可能性が高まる。一方で、罹患率が上昇する40~50代の女性は家庭や仕事で多忙な時期を過ごしており、どうしても検診への足が遠のいてしまっているのが実情だ。

 横浜市では無料の乳がんの検診クーポンをダイレクトメールで送付するなど、より直接的な働きかけを行ってきた。それでも検診率が低いままとの現状があり、頭を悩ませていたという。そこで繰り出した新たな策が、TikTokとのコラボによる「#胸キュンチェック」と呼ぶプロジェクトだ。

左から、横浜市 副市長の荒木田百合氏、オリジナルダンスを担当したモデルのサラ・コールディ氏、TikTokを運営するByteDance 執行役員 公共政策本部長 山口琢也氏(写真:小口 正貴、以下同)
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 このプロジェクトへの思いを、福祉分野を担当する横浜市 副市長の荒木田百合氏は次のように語る。

「今回、より医療を身近に感じてもらうためにTikTokと連携協定を結んだ。ダンスして楽しみながら自然と医療の話題に接して、関心を持ってもらいたい。医療分野に限らず、TikTokとの連携協定は自治体では全国初。まずはTikTokを使ったオリジナルダンス、楽曲を用いた乳がんに関する啓発プロジェクトをスタートする。毎年10月の乳がん月間にあわせ、少しでも多くの人にダンスを見てもらい、乳がんへの関心を促進していく」。

 現在TikTokは世界150カ国まで拡大しており、日本に進出してちょうど2年を迎えた。これまでに数多のメディアや企業とコラボを重ねてきたが、最近ではCSR活動の一環として「TikTok for Good」を開始したり、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)と提携してグローバルハッシュタグチャレンジを展開したりするなど、社会貢献にも力を入れている。

 TikTokを運営するByteDance 執行役員 公共政策本部長 山口琢也氏は連携の経緯について、「日本の社会課題にきちんとコミットしていきたいというTikTokの思いにも合致する。TikTokとしてぜひ協力したいと考えた」と説明する。非常に強い伝播力がTikTokの持ち味だとし、「行政機関、さらに医療の広報という難しい分野にTikTokで掛け算しながら貢献したい」(同氏)。

家族からの啓発への期待も

 今回、TikTokを使ったオリジナルダンスを担当したのは、モデルのサラ・コールディ氏。同氏はTikTokでハイクオリティな動画が人気を集めており、37万人のフォロワーを擁するインフルエンサーでもある。

オリジナルダンスを担当したモデルのサラ・コールディ氏
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 コールディ氏は振り付けについて「髪型、ネイル、胸のチェックを採り入れた。普段のおしゃれと同じ思いで、月に1回、乳がんを気にしてほしい」と説明。わずか15秒間の中にそれらの要素を凝縮し、肩肘張らずに楽しめるダンスとなっている(横浜市の「#胸キュンチェック」プロジェクトのページ)。

 荒木田氏は「もちろん検診にも行ってもらいたいが、家でのセルフチェックが非常に大事。このダンスなら自分の指を使って胸を横、縦にくるりんと触るだけ。しかも1カ月に1回でいい。後ろ向きにやるのではなく、胸をときめかせ、楽しく踊りながらチェックしてもらえれば」と語る。

 「お母さん世代に向けて、私たちの世代から問いかけることで、気づいてもらえたり、検診に行ったりする人もたくさんいるはず。TikTokのダンスがきっかけで乳がんに関する会話が広がり、苦しい思いをする人が減っていけばいいなと思う」とコールディ氏。

 40~50代とTikTokのダンスは縁遠いかもしれないが、自分の子ども世代が笑顔で伝えれば、恥ずかしさも薄れてセルフチェックが進むはず――「#胸キュンチェック」には、そうした家族からの啓発への期待も込めている。(小口 正貴=スプール)

女性アイドルグループSKE48の元メンバー・矢方美紀氏が語る


同年代の人たちに乳がんという病気の理解を
「#胸キュンチェック」プロジェクトに協力する一人が、若くして乳がん手術を経験した女性アイドルグループSKE48の元メンバーである矢方美紀氏。同氏がプロジェクトへの思いを語った。
(増田 克善=Beyond Health)


自らの経験を交えて語る矢方美紀氏(写真:加藤 康)
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 2018年1月に左胸にしこりがあり、乳がんのステージ1と検査で判明しました。詳細な検査でリンパ節に転移しているステージ2bと診断され、同年4月に左乳房全摘出とリンパ節切除手術を受けました。手術でステージ3aだと判明し、抗がん剤治療と放射線治療を実施。現在もホルモン療法を続けています。

 幸い仕事に復帰することができ、タレント業と並行して講演活動などを通して乳がんの啓発活動も行っています。20代で乳がんを発症したのは希なケースですが、自分が発信することによって、同年代の人たちが乳がんという病気をあらためて理解してくれたらと思うからです。また、講演を聞きにきてくれる母親世代が、自分の娘さんたちと乳がんについて話し合う機会が増えたらという思いもあります。

 今回の、自治体とTikTokの取り組みは、すごいコラボレーションだと思いました。TikTokは私たちや、もっと若い世代がはまっているツール。若い人の身近なものだからこそ影響力があり、TikTokを知らない年代に対してメッセージを届けることができると思います。(談)

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/102800123/