東武東上線・池袋駅の南改札前。人がせわしなく行きかうこの場所に、夕方になると人々が足を止め、行列や人だかりのできる一角がある。月・水・金の18時頃から営業している野菜の直売所だ。その日に収穫され地元では売れ残った農産物を、生産地から電車で都心へ運んで販売している。駅利用者にとっては新鮮な野菜が帰り道に安く手に入るとあって、出店のたびに行列ができるにぎわいぶりだ。食品ロスの削減を目指すこの取り組み「TABETEレスキュー直売所」について、埼玉県東松山市とコークッキング(東京都港区)に話を聞いた。

 「TABETEレスキュー直売所」は、東松山市とコークッキングが食品ロスという課題を共有したところから始まった。コークッキングは、料理人や飲食店の店舗運営、こども食堂の運営などの経験を持つ川越一磨氏が設立したスタートアップ。フードシェアリングのアプリ「TABETE」の提供などで知られる。TABETEは、飲食店で食品ロスが発生しそうになると、その情報を飲食店がアプリに掲載し、“食べ手”(消費者)がその情報を見て購入(アプリ上で決済)し、店頭で商品を受け取る仕組みだ。

月・水・金の夕方、池袋駅に2時間ほど出現する「TABETEレスキュー直売所」(写真:赤坂 麻実)
月・水・金の夕方、池袋駅に2時間ほど出現する「TABETEレスキュー直売所」(写真:赤坂 麻実)
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参加する直売所が増え、二回目の実証実験で黒字に

 コークッキングは2020年7月、東松山市も出資する東松山起業家サポートファンド(東松山起業家サポート投資事業有限責任組合)から出資を受け、それを機に、東松山市の農産物をTABETEアプリで取り扱って商品を配送する事業を市へ提案した。提案を受けた市は、地元で売れ残った農産物を鉄道で運んで直接販売する形を打診し、コークッキングが賛同して事業が始まった。

 市はJA埼玉中央と東武鉄道に事業への協力を要請し、2020年12月から4者で協議を開始。JA埼玉中央が所管する直売所から余り野菜を集め、東武東上線(Fライナー、TJライナー)上りの始発駅である森林公園駅で野菜を積み込み、終着駅の池袋駅で下ろして駅構内で販売するという事業の基本形が出来上がった。

左から東松山市役所環境産業部商工観光課の小島孝彦副課長、同部農政課生産振興室の熊沢篤司室長(写真:赤坂 麻実)
左から東松山市役所環境産業部商工観光課の小島孝彦副課長、同部農政課生産振興室の熊沢篤司室長(写真:赤坂 麻実)
コークッキング代表取締役CEOで食品ロスコンサルタントの川越一磨氏(写真:赤坂 麻実)
コークッキング代表取締役CEOで食品ロスコンサルタントの川越一磨氏(写真:赤坂 麻実)

 4者は2021年3月18日~31日に第1回実証実験を行った。このときは、いなほてらす(東松山農産物直売所)1カ所から売れ残った農産物を集めた。参加した(再販に同意した)農家は5~6人。容量90リットルのコンテナ最大12個分の野菜を毎回運ぶ計画だったが、実際には1度につき6個までに収まる量で推移したという。物量が少なかったために、この実験では採算が取れなかった。しかし、東松山市役所環境産業部商工観光課の小島孝彦副課長によれば「収益とは別の成果があった」という。

 「反響が非常に大きかった。行政の取り組みで、こんなに反響があるのは珍しい。メディアに多く取り上げられ、『今度はうちも参加したい』と(いなほてらす以外の)直売所から手が挙がった」という。また、収益は赤字でも、実証実験期間中に食品ロスを464kg削減できた。

 2021年6月21日~7月21日、今度は直売所の数を5カ所(東松山市、滑川町、鳩山町、嵐山町、小川町)に増やし、1度につき最大24コンテナ分の野菜を運搬・販売した。そうしたところ、事業は黒字になり、持続していけることが分かった。実験による食品ロス削減量は3717kgに上った。

 コークッキングの川越代表は事業の意義や持続性について次のように語る。「収益はもちろんマイナスではいけないので、赤字にならないよう運営していきたい。同時に、大事なことは、食品ロスについて多くの人に知ってもらうことだ。TABETEレスキュー直売所は、食品ロスがどのように生まれ、農家の皆さんがどういったことでお困りなのかといったストーリーをリアルに訴求できる場だと捉えている。加えて、当社のアプリの認知を高める役割にも期待している」