始まったばかりの愛知県有料道路コンセッション事業。公社が事前予測した料金収入から6%の上振れまでが民間の取り分となる。パーキングエリアなどの新設工事はコンストラクション・マネジメント方式や原価開示方式で発注。維持管理の効率化も利益確保の鍵を握る。

写真1■ 知多半島道路にある既存の阿久比(あぐい)下りPA。道路を挟んだ向かい側に上り線のPAを新設するとともに、任意事業としてリゾート施設「愛知多の大地」を整備する計画だ。これら施設の売り上げはSPCの収入となる。SPCは約50人体制。うち公社からの出向者が7人を占める(写真:日経コンストラクション)
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 名古屋市内から中部国際空港に向かう全長20.9kmの知多半島道路。田園地帯を抜ける上下各2車線の有料道路だ。「ご利用ありがとうございます」。料金所の職員の顔ぶれはいつもと同じだが、10月1日を境に変わったことが二つある。

 一つは通行料金。平日朝夕の通勤時間帯が3割引きとなった。運営権者の選定時に、公社が条件として示したものだ。民間はこの額を上限に通行料金を弾力的に設定できる。

 もう一つの変化は、職員に料金徴収業務を委託する発注者だ。従来の愛知県道路公社から愛知道路コンセッション(愛知県半田市)に切り替わった。同社は前田建設工業が50%、森トラストが30%、大和リースが10%、料金徴収などを手掛けるセントラルハイウェイ(同)が8%、大和ハウス工業が2%それぞれ出資する特別目的会社(SPC)だ。

 SPCは10月1日、1377億円を公社に支払うのと引き換えに、知多半島道路を含む8路線、計72.5kmの運営を開始。道路コンセッション事業の第一号となった。

 運営期間は、道路整備特別措置法に基づく建設費や改築費などの償還期間に応じて、路線ごとに異なる。1日10万台が通る知多4路線(知多半島道路、南知多道路、知多横断道路、中部国際空港連絡道路)が最も長く、2046年までの30年間だ。

 運営権対価1377億円のうち、SPCは150億円を一時金として支払い、残りは運営期間に応じて分割で支払う。対価を受け取った公社は、建設費の償還などに充てる。

 運営権者の選定には、前田建設工業グループのほか、オリックスを代表とするグループなども参加。同グループには大林組と八千代エンジニヤリング、オリエンタルコンサルタンツなどが加わった。ほかに熊谷組や日本工営、国際航業、東急建設、長大なども複数のグループに分かれて応募した模様だ。

 愛知県や公社は、国の出資を受けた中日本高速道路会社などの参加を認めなかった。「民営化の趣旨に適さない」と判断したからだ。

 公社が事前に示した運営権対価の最低価格は1219億7700万円。前田建設工業グループの提案は最低価格を157億円上回ったほか、次点となったオリックスグループの提案額よりも100億円ほど高かった。

独自の「バリューアップ提案」

 SPCは道路の維持管理や料金徴収のほか、公社が定めたパーキングエリア(PA)2カ所の新設といった改築業務を担う(図2)。改築業務の費用は公社が負担する。

図2 ■ 愛知県有料道路運営事業における主な業務内容
*1 改築費用の上限は約149億円。公社はコストプラスマネジメントフィーにインセンティブフィーを加えた額を民間に支払う
*2 新設パーキングエリアの用地は、要求水準書に示す範囲で公社が取得して所有。民間は賃料を支払う
愛知県道路公社の公表資料などをもとに日経コンストラクションが作成
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 SPCはコンストラクション・マネジャーと契約したうえ、専門工事会社などを入札で選定。公社は工事原価とマネジメントフィーをSPCに支払う。工事原価を削減した場合は、削減額の50%をインセンティブフィーとして上乗せする。

 さらに、SPCは任意事業として、新設するPAの隣接地に食と安らぎをテーマにしたリゾート施設「愛知多の大地」の整備を提案した。大和リースが中心となって、22年の開業を目指す(写真1、図1)。地域の活性化に貢献するとともに、観光需要の発掘で通行料の増収も狙う。

図1 ■ リゾート施設「愛知多の大地」の完成予想図
新設する阿久比上りPAの隣接地に任意事業として整備する。敷地面積は10万m2、想定事業費は35億円で、宿泊施設やレストランなどを設ける計画。土地は現在、農地となっており、取得や転用がうまく進むかどうかが事業のポイントになる(資料:愛知道路コンセッション)
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 中部国際空港の空港島には、県が19年に開設する国際展示場の隣に外資系ホテルを誘致する計画だ。こちらはホテル運営の経験が豊富な森トラストが手掛ける。

 通行料収入は官民の配分ルールが決まっている。公社が事前に予測した料金収入に対して±6%の範囲であればSPCの帰属、負担となり、±6%を超える増収や減収は公社の帰属、負担となる仕組みだ。SPCは大儲けできない代わりに、大損するリスクを回避できる。

 これに対して、前田建設工業は運営権者の選定時に、公社の推定を上回る料金収入が見込めると独自に予測(図3)。SPCの取り分を増やせるのであれば、運営権対価を1543億円に引き上げられるとする「バリューアップ提案」も提出した。

図3 ■ 知多4路線の料金収入予測
前田建設工業グループの資料をもとに日経コンストラクションが作成。公社は黒字経営を続けてきた。通行料収入などは14年度決算で総額178億円。一方、道路の維持管理費や一般管理費の費用は67億円だった
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 「地元の観光協会などと連携したり、工事の時間帯を工夫して渋滞の発生を最小限に抑えたりすることで、交通量を伸ばせるはずだ」とSPCの東山基(もとい)社長は期待する。この提案は選定時の評価には反映されなかったものの、交通量の実績次第では今後の協議事項となっている。

 公社は道路の維持管理の要求水準として、路線に応じて1日1~9回の舗装の日常点検などを求めている。わだち掘れやひび割れ率などから評価するMCI(舗装の維持管理指数)が自動車専用道路で5未満になった場合や、ポットホールが生じた場合などは、民間の費用負担で修繕工事を実施しなければならない。

 効率的な維持管理はコンセッション事業の利益確保に不可欠だ。前田建設工業は、西日本高速グループなどが開発した「コンクリートひび割れ点検システム(AutoCIMA)」や帳票類の電子化による情報基盤の整備を提案。高精度な劣化予測と予防保全に役立てる(図4)。

図4 ■効率的な維持管理に向けた取り組み
前田建設工業グループの資料をもとに日経コンストラクションが作成
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工事発注は原価開示方式で
前田建設工業 常務執行役員 岐部 一誠氏

前田建設工業 常務執行役員 岐部 一誠氏(写真:日経コンストラクション)
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 運営権対価はリスクとリターンを官民でどのようにシェアするかで決まってくる。連立方程式を解くようなものだ。事業者として期待するリターンはIRR(内部収益率)ベースで7%を一つの目安にしている。

 2016年6月に優先交渉権者に選ばれたものの、8月に実施契約を締結するまでの2カ月間が一番大変だった。リスク分担を契約書にどう落とし込むのか詰めなければならないからだ。従来のPFI事業とは大きく異なる。

 道路を民営化したからといって維持管理のサービスレベルが大きく変わることはないだろう。官ではリスクを取れない任意事業の提案に力を入れた。

 工事の発注は原価開示(オープンブック)方式を採用し、適切な利益をみんなでシェアしたい。発注に要するコストを下げる工夫も必要だろう。(談)

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/110100002/