プロポーザルには3社の応募を得て、KNT関西を選定した。KNT関西は前述のVRスコープのほか、多言語に対応するコンシェルジュの場内への配置、多言語対応ガイドによる外国人対象ガイドツアーの定期的な実施などのインバウンド対策を提案した。「企画力を高く評価した。さらに、旅行会社が持つ集客のアイデアにも期待している」(春井副所長)。姫路市は、1年の来城者150万人という想定に応じた年間委託費約1億7000万円でKNT関西と3年契約した。

案内サインの少なさを「人」と「事前情報」でカバー

 KNT関西はこれまでに、大阪府内の和泉市や堺市の観光案内所、レンタサイクル所の運営管理で行政と連携した経験を持つ。姫路市では、2014年1月から2015年1月にかけて姫路城南に設置された「ひめじの黒田官兵衛 大河ドラマ館」の運営に携わった。

 とはいえ、姫路城のように大規模な歴史資産の管理運営は初めてだ。また、アルバイトを含めて40人から60人というスタッフの人件費負担は少なくない。自主事業で収入を見込めるものの、国有の文化財であるため制約が厳しい。大きな収益は得にくいと考えられた。

 「自社の強みを生かせる業務なのか、当初は応募を躊躇する気持ちもあった。でも事前に姫路城を見学し、来場者が喜ぶ仕組みづくりやリピーターの確保に向けて自分たちだからこそできる取り組みがあると確信した」と細川部長は振り返る。

近畿日本ツーリスト関西の細川比呂志・関西地域交流部長(右)とプロジェクトを担当する関西地域交流部の諏訪芳美氏(左)(写真:日経BP総研)
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 旅行会社である同社の強みは、訪日客のニーズや動向を把握していることだ。来場者を満足させてリピーターへとつなげていく集客の仕組みを構築するには何が大切か。まず注目したのが、城まわりのきめ細やかな案内の強化だった。

 国有の文化財である姫路城は、そもそも観光客に親切なつくりにはなっていない。建物内外のあちこちに段差があり、案内サインも少ない。もちろん、天守にエレベーターはない。「文化庁が管轄しており、管理運営では建物の保護や景観の保持が最優先される。現状の建物に穴を開けたり釘を打ったりすることはできず、看板を置くような現状変更にも国の許可が必要」(春井副所長)という厳しい条件が課せられている。自主事業でも、造形物やサイン看板などは原則許可しない。

 こうした条件の下、KNT関西が試みているのは人手を使った案内の充実だ。見学動線が分かりにくい場所へ案内スタッフを配置し、迷っている人をできるだけ円滑に案内誘導していく。以前からある姫路市シルバー人材センターの観光ガイドに加え、ピンク色のコスチュームを着た多言語対応のコンシェルジュを配置した。外国語による従来のツアーガイドはボランティアによる不定期対応だったが、1日3回予定の定期ツアーも年度中に開始する予定だ。

 情報発信も強化する。方向性は2つある。「基本情報を事前に伝えることと、天守が現存している本物の城ならではの奥深い良さを伝えること。この2つを満たせば、多少不便なところがあっても来場者の満足度を高め、リピーターの確保へと結び付けられる」と、プロジェクトを担当する近畿日本ツーリスト関西・関西地域交流部の諏訪芳美氏は指摘する。

 姫路城は新幹線が停車するJR姫路駅から徒歩15分ほどの距離に位置し、全体を見学するには2~3時間かかる。ところが、数十分後に発車する新幹線のチケットを持って訪れたり、天守にエレベーターがあると思っていたりする観光客は少なくないという。「あらかじめ城の状況を知っていれば、実際に訪れたときの不満や物足りなさを感じずに済む」(諏訪氏)。

 魅力発信の深化のために導入した仕掛けが、7月から販売する姫路城VRスコープと、9月から開始した日本語を含む5カ国語によるスマホの音声ガイドだ。

 ウェブサイトも刷新した。新サイト「姫路城便覧」では、従来の来場者用情報に加え、VRスコープと音声ガイドの案内窓口を設置。さらに、英語・中国語・韓国語・フランス語に対応したチャットボットを導入した。KNT関西が提供している旅館用のシステムを活用した、AIによる自動回答システムだ。日本語の想定問答や必要に応じてオペレーターが行う対応を参照しつつ、AIが質問者への回答を学習していく。電子決済できるかどうか、ホテル案内の場所はあるかといった質問の内容を集約し、来場者の潜在的なニーズや不満を把握する狙いもある。これらの情報は、姫路城だけでなく姫路市全体の観光政策にも反映させていく。

 現状分析の面では、外国人客の計測方法も改善の余地がある。従来はパンフレットを持ち去る数で国や人数を推量していたのに対し、入城客のスマホが対応している言語でカウントするシステムを提案している。