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岡崎市、まちの資源フル活用で河川整備に臨む

愛知県岡崎市「おとがわプロジェクト」

山本 恵久【2017.11.24】

愛知県岡崎市は現在、乙川リバーフロント地区の整備が2015年にスタートしたのを機に、公民連携による「まちづくりデザイン事業」(通称:おとがわプロジェクト)を急ピッチで進める。

「wagamama house」の内観(写真:日経アーキテクチュア)
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リバーフロント整備をきっかけに
コンテンツの充実を急ピッチで

左手の建物に「wagamama house」が入る。月2回の朝市が立つ「二七市通り」に面する家具店だった場所をリノベーションして使っている(写真:日経アーキテクチュア)
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 集まる人材、都市戦略の持ち方などの面で、おとがわプロジェクトは注目に値する動きになっている。民間主導の公民連携プロジェクトとして先行事例となる岩手県紫波町の「オガール」などに学び、さらに、その発展形を探ろうとするものだ。

 一連の動きの中では、地元のNPO法人岡崎まち育てセンター・りたの山田高広氏と天野裕氏が大きな役割を果たしている。山田氏らが着目したのが、現在「リノベーションまちづくり」と総称される中にある、リノベーションスクールや、まちのトレジャーハンティングといった、遊休不動産や公共空間などの地域資源を利活用するための実践型の講座プログラムだ。

 おとがわプロジェクトの上位に位置付けられる乙川リバーフロント地区整備計画には、5カ年事業の区切りがある。地区面積137.6ヘクタールを対象とし、総事業費99億7000万円を見込む巨大開発として進む。

 それとは対照的ながら、16年10月、プロジェクトを象徴する小さな拠点「wagamama house(わがママ ハウス)」が生まれた。16年2月の第1回リノベーションスクール@岡崎の際の受講生の提案を、山田氏が設立した家守会社「三河家守舎」がプロデュースして練り直し、実現に導いた。子育て中の主婦(ママ)たちの働く場とするため、その主婦たちがオーナーシップを維持しつつ、過大とならない負担で参画できる事業スキームを考案。また工事費を抑えるため、地域を巻き込みながら全国を移り住んできた集団のパーリー建築がセルフリノベーションに関わり、小中学生なども参加して一部の工程を担った。

主婦の起業ニーズに応える

 wagamama houseの1階には、惣菜店「hokurani food(ホクラニ フード)」と菓子工房「SAPON(サポン)」が入居している。前者ではスクールの受講生(提案者)で、元は市内のぶどう農家で働き、後に料理教室の主宰を始めている中根利枝氏が店主を務める。

 フロア面積に余裕のあるビルのため、ポップアップビジネス(移動式の屋台などを使って期間限定で出店するビジネス)の担い手に対し、料理の仕込み用に一部レンタルするなどの増収策も取っている。利用者自体にも、将来の起業を思い描く主婦が多く、広く巻き込んでシェアビジネスの場として育てる方向にある。

乙川リバーフロント(RF)地区における都市戦略策定のスキーム
都市戦略を策定する中で、どのエリアで、どんなリーディングプロジェクトを起こすかを、「デザイン会議」と「トレジャーハンティング」を通じて提案していった。特に後者は、「民意の反映」を考慮しながらエリアのビジョンを描き出す役割を担った(NPO法人岡崎まち育てセンター・りたの提供資料を基に作成)
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 リノベーションスクールの前段階に使う場合が多いプログラム「まちのトレジャーハンティング」を、全く別個に都市戦略のスキームの中に位置付けているのが、岡崎市の取り組みの特徴の一つだ(上の図を参照)。

 リノベーションスクールを運営するリノベリング社がメニュー化しているまちのトレジャーハンティングでは通常、チームに別れて“まち歩きワークショップ”を行い、担当エリアに眠る様々な資源(宝物)を探索。その成果報告と共に、将来に向けたエリアのビジョンを提案する。岡崎市では、エリア別のリーディングプロジェクトを市民と共に定める目的で同プログラムを使い、都市戦略を策定する「デザイン会議」の機能を補っている。

“食”の担い手の育成も

 トレジャーハンティングを開催した結果、「自分たちの暮らしをどうするかには市民の関心が非常に高いと分かった。一方、“観光”というキーワードは、ほとんど登場しなかった。現在のまちづくりも第一には、ほかの場所にない暮らしの価値をつくり出し、最後に観光に結び付けばよいのではないかと考えている」(山田氏)。

 こうして生まれた事業が一つ軌道に乗ったら、あふれた需要を受け止める別のコンテンツを周囲に迅速に用意したい。しかし、一つずつ店舗をプロデュースするのでは手間も時間もかかって追い付かない。個々のプロデュースよりもインキュベートの仕組みをつくる方が早いと判断した山田氏は前出リノベリング社に相談し、「セントラルキッチン」構想を温めている。

 「米国ワシントンDCにあるユニオンキッチンを参考に、シェフなどのインキュベートのためのキッチン機能、そして複数台のポップアップキット(移動式屋台類)を格納する倉庫を兼用する場所を設けたい。単なる厨房貸しではなく、ビジネスモデルに関する意見交換を行い、様々なパートナーシップが生まれる場とする。また、レシピやパッケージ販売の提案などによって既存の飲食店や小売店の課題を解決する役割も担わせたい」(山田氏)。

 おとがわプロジェクトの中では今後も、「リノベーションまちづくりだけに完結させず、食とリノベーションまちづくり、交通とリノベーションまちづくりといった掛け合わせを試みながら進めたい」(同)という。

大小のリノベーションまちづくり その2公民連携によって横串を刺す

 岩手県紫波町と同様「大きいリノベーションまちづくりと小さいリノベーションまちづくり」を重ね合わせる考え方を、おとがわプロジェクトも取り入れている。

 「大きいリノベーション」は特に、道路、広場など新旧に関わらない公共空間の利活用と関係する。巨費を投じて人道橋、河川敷などを先行で整備中の岡崎市で、ハードの供用開始後、それらを市民が自ら有効に使いこなすためには「小さいリノベーション」との連携が大切になる。今年度中に市が策定する予定の「公民連携基本計画」が、その指針となる。

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公民連携まちづくりの焦点は、エリア内のポテンシャルのある公共空間を結んだ主要回遊動線(総延長は約3km)で、これを「QURUWA(クルワ)」と呼ぶ。左は、建設が進行中の人道橋。右は、人道橋と籠田公園を結ぶセントラルアベニュー(写真:日経アーキテクチュア)
市街地を代表する施設だった再開発ビル「岡崎シビコ」周辺。(写真:日経アーキテクチュア)(写真:日経アーキテクチュア)
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2008年開館の「岡崎市図書館交流プラザ りぶら(市立中央図書館ほか)」周辺で、写真手前(西側)に岡崎シビコがある(写真:日経アーキテクチュア)
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 市のデザイン会議には建築家の藤村龍至氏(RFA代表取締役)、山田氏のほか、リノベーションまちづくりの提唱者で紫波町「オガールプロジェクト」でデザイン会議の委員長を務める清水義次氏(アフタヌーンソサエティ代表取締役)、同プロジェクトのランドスケープを担当し、おとがわプロジェクトでもセントラルアベニューに関わる長谷川博己氏(オンサイト計画設計事務所代表取締役)、水都大阪をプロデュースしてきた泉英明氏(ハートビートプラン代表取締役)が参画。国内の公民連携まちづくりをリードする面々が顔をそろえている。

デザイン会議から藤村氏、清水氏、泉氏、そして内田康宏・岡崎市長が登壇した17年3月の「私たちのQURUWA戦略」フォーラムの様子(写真:日経アーキテクチュア)
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17年4月のリノベーションまちづくりサミット2017年に登壇したNPO法人岡崎まち育てセンター・りたの山田高広氏(写真中央)(写真:日経アーキテクチュア)
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 リバーフロント地区の要所である「太陽の城跡地」の傍らでは、かねてより検討の進んできたホテル計画が具体的になり始める。前出セントラルキッチン構想のような小さな事業を生み出す仕掛けを走らせながら、合わせて公共空間の存在価値を十分に発揮させる必要がある。そのためには今、「中規模や大規模の投資を受け持てる事業者を担い手として迎え、まちなかに育ち始めた“小商い”の担い手とマッチングさせる取り組みに踏み込ないといけない」(山田氏)。

大規模事業の担い手と小商いのマッチング

 「これまで僕らがフォローしてきたような、まちなかの人たちと、うまく協働できる相手はどこか。暮らしに対する価値観や、パブリックマインドの持ち方はどうか。それらを見極めながら、お互いの接点をつくり出す時期に来ている」と山田氏は語る。また、既存の主要な公共施設や空間には、従来からの指定管理者がいる。そうした指定管理者がエリア再生の視点を持ち、周囲の空間などまで合わせて面的にマネジメントするよう仕向けないとならない。これも今後の課題である、という。

 当初、2015年認定のかわまちづくりから始まったリバーフロント整備は、そのほかに、リノベーションまちづくり、歴史まちづくり、観光まちづくりといった、市が抱えている主要な施策を関係付けながら推進する動きになっている(下の図を参照)。16年認定の歴史まちづくりは10年間の期間に及ぶものとなるため、5カ年計画のリバーフロント地区整備計画の後を引き継ぐプラットフォームになる可能性がある、という。

おとがわプロジェクト/乙川リバーフロント(RF)地区における都市戦略相関図
エリア内の主要回遊動線を対象とする「QURUWA構想」の下、テーマ別のエリアビジョン、ロケーション別のアクションプラン、4つの主要まちづくりの施策を串刺しにするための公民連携基本計画の策定作業が進む(NPO法人岡崎まち育てセンター・りたの提供資料を基に作成)
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 こうした市が持つ各施策や、これまでの様々な活動の成果をまとめ上げて横串を刺し、リバーフロント地区整備計画には明示されていない公民連携まちづくりの目的や、そのプロセスを描き出すのが、策定作業中の公民連携基本計画の役割になる。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/110700042/