「事業協力者」を公募、初期段階から民間事業者の意見を取り入れる

 今回の事業で神戸市は、特定建築者を公募・選定する事業であることを明記したうえで、事業協力者を募集した。市は2011年7月、都市計画決定に先立って事業協力者を公募、9月の都市計画決定後、10月に大和リースと竹中工務店のグループを選んだ。

 事業協力者は、公募では無償で事業計画などについて提案を行うなどの業務を担うことになっていた。無償とはいえ、計画段階から主体的にプロジェクトに関わることで多くの情報を得ることで、特定建築者の公募の際には優位に立つことができる。「特定建築者を見据え、プレーヤー目線で設計段階から協議ができるのはありがたいと思った」と大和リース神戸支店の角一吉昭支店長は振り返る。

 大和リースらが事業協力者として提案したことは、現地の市場性をみて、身の丈に合った建物にすることだったという。「プロジェクトの初期段階から民間事業者が入ることで、全体のコストを考えながら事業継続性の高い提案ができる」(角一支店長)。無理のない、事業として持続可能性の高い提案が寄せられるのであれば、施行者(神戸市)にとってもメリットは大きいといえる。

 その後、事業協力者の意見を織り込んで再開発ビルなどの基本設計が進んでいった(基本設計者はアール・アイ・エー)。2013年3月に事業計画が決定、さらに2014年4月、市は特定建築者を公募し、同年7月に大和リースが選定されている。

 そもそも大和リースは、この事業の安定性を高く評価していた。新たに生まれた保留床の多くを市が庁舎用に買い取ることが決まっているため、買い手や借り手を新たに見つける必要のある保留床の面積が小さいからだ。今回は神戸市が保留床を買い取って区役所が入居する。「保留床の約7割が区役所で埋まるので、事業性に不安はなかった」(角一支店長)という。

 現在、ビルの保留床はすべて処分済みであり、ビル内の空きテナントは権利床の一部のみ(権利者がリーシングを検討中)となっている。

 リーシング面だけでなく、建築設計や意匠面でも民間ならではの提案がなされている。神戸市都市局市街地整備部都市整備課の前原綾子・鈴蘭台駅前整備係長は、「駅直結の区役所は全国でもまれな例で、利用者の利便性が大きく向上した。また、当初計画ではデッキで接続する予定だった駅ビルと駐車場棟を、直接連なる形で整備したことも来館者の利便性を高めた。これは事業者の提案だ」と話す。

 意匠についても「内壁にしつらえた左官作品は、第一人者の挾土秀平氏、久住有生氏によるもので、特に印象的だ。駅からアクセスして目に入るところに、面積を取らずにこんなに良いものができるのかと感心した。役所にはない発想だ」(小渕担当課長)と高く評価する。

1階ピロティ部分の壁面部分にしつらえられた挾土秀平氏による左官作品「草笛」(写真:日経BP総研)
1階ピロティ部分の壁面部分にしつらえられた挾土秀平氏による左官作品「草笛」(写真:日経BP総研)
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3階の鈴蘭台駅に向かう通路壁面には、久住有生氏による左官作品「風土」が(写真:日経BP総研)
3階の鈴蘭台駅に向かう通路壁面には、久住有生氏による左官作品「風土」が(写真:日経BP総研)
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駅前に移転・オープンした北区役所(写真:2点とも日経BP総研)
駅前に移転・オープンした北区役所(写真:2点とも日経BP総研)
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 神戸市北区は、人口約21万6000人(2019年10月末時点)。同区は北区役所と北神区役所の2区役所体制で住民サービスを展開しているので、北区役所がカバーする範囲は、人口十数万人規模ということになる。つまり、この再開発ビルの事例は、同様規模の自治体であれば、駅前商業施設と公共施設の複合化は十分可能性があることを示唆しているといえないだろうか。

右は神戸市都市局市街地整備部都市整備課の前原綾子鈴蘭台駅前整備係長、左は小渕康宏鈴蘭台整備担当課長(写真:赤坂麻実)
右は神戸市都市局市街地整備部都市整備課の前原綾子鈴蘭台駅前整備係長、左は小渕康宏鈴蘭台整備担当課長(写真:赤坂麻実)