神戸電鉄・鈴蘭台駅と直結した公民連携による再開発施設「BELLST(ベルスト)鈴蘭台・北区役所」。商業店舗と神戸市北区役所が入居している地上7階建てのビルだ。神戸市は、特定建築者として施設整備をすることを前提とした「事業協力者」を募集し、計画の初期段階から民間の知恵を導入することで、身の丈に合った複合施設を整備した。

 2018年9月にオープンした「BELLST(ベルスト)鈴蘭台・北区役所」は、神戸電鉄・鈴蘭台駅と直結した公民連携による再開発施設だ。1階から3階には商業店舗を中心とした民間施設が、4階から7階には神戸市北区役所が入居している。再開発ビルと駅前広場、周辺道路を一体的に整備し、3階は駅と、1階はバス・タクシーの発着所と接続している。駅舎は神戸電鉄がこの事業と並行して整備した。2020年3月には広場などの外構部も完成し、グランドオープンとなる。

9月上旬時点の外観。再開発ビルは昨年9月にオープンしている。駅前広場は工事中だ(写真:日経BP総研)
9月上旬時点の外観。再開発ビルは昨年9月にオープンしている。駅前広場は工事中だ(写真:日経BP総研)
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全体の完成イメージと配置図(資料:神戸市)
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全体の完成イメージと配置図(資料:神戸市)
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全体の完成イメージと配置図(資料:神戸市)
エスカレーターを4階に上がると北区役所入り口だ(写真:日経BP総研)
エスカレーターを4階に上がると北区役所入り口だ(写真:日経BP総研)
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鈴蘭台駅改札を出ると、「BELLST鈴蘭台・北区役所」3階と直結している(写真:日経BP総研)
鈴蘭台駅改札を出ると、「BELLST鈴蘭台・北区役所」3階と直結している(写真:日経BP総研)
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「BELLST鈴蘭台・北区役所」施設概要
【事業名称】鈴蘭台駅前地区第二種市街地再開発事業
【所在地】兵庫県神戸市北区鈴蘭台北町1丁目
【敷地面積】約4470m2(交通広場のピロティ部分約1300m2を含む)
【建築面積】約3720m2
【延床面積】約2万1820m2
【構造・規模】鉄骨造7階建て
【用途】商業・業務施設(1階~3階)、公益施設(4階~7階・北区役所)、駐車場
【駐車場台数】119台【大型バイク台数】15台【駐輪場台数】96台
【総事業費】157億円(神戸市所管事業含む)
再開発ビルと周辺の東西断面図。神戸電鉄の鈴蘭台駅舎を橋上化し、再開発ビルの3階と直結(資料:神戸市)
再開発ビルと周辺の東西断面図。神戸電鉄の鈴蘭台駅舎を橋上化し、再開発ビルの3階と直結(資料:神戸市)
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 神戸市では、特定建築者制度を適用して施設整備を行った。この制度は、再開発事業において施行者(今回は神戸市)が自ら行うことが原則の施設建築を、公募した民間事業者に任せるというものだ。特定建築者には大和リースが選定されている。神戸市で第二種再開発事業に適用した特定建築者制度において、外郭団体ではなく民間事業者が担い手になったのはこの事業が初めてとなる。

 特定建築者制度を適用した背景を、神戸市都市局市街地整備部都市整備課の小渕康宏・鈴蘭台整備担当課長は次のように説明する。「ビルの最適な設計やテナントの誘致、にぎわいを生む仕掛けなどで民間の力を借りる必要があった。特に、再開発ビルの保留床の処分(売却など)は、市が不得手とする部分でもある。民間事業者が蓄えてきた知見やノウハウをぜひ利用したいところだった。一方で、用地の買収は民間よりも市が行うほうがスムーズだ。市で用地を買収して更地にした上で民間に任せるのが理に適ったやり方だと考えた」。

 「タイミングもよかった」と小渕氏は続ける。再開発の機運は、1995年の阪神・淡路大震災から数年が経ち、復興のメドがついた頃に高まった。時を同じくして1999年、都市再開発法の改正で、特定建築者制度が保留床のみの建物だけでなく、権利床を含む建物にも適用できるようになった。この事業でいえば、再開発区域の既存店舗などを再開発ビルに集積すると共に、その共同化ビルに特定建築者(民間)のノウハウを活用することが可能になったのである。

 こうして、特定建築者制度の活用が決まった。事業計画書「神戸国際港都建設事業鈴蘭台駅前地区第二種市街地再開発事業 事業計画書(第2回変更)」によると、総事業費(157億2800万円)は、公共施設管理者負担金 61億8600万円、市街地再開発事業費補助金45億900万円、保留床処分金50億3300万円で賄う。事業期間は2013年3月22日から2020年3月31日までだ。なお、大和リースは保留床を一括取得し、管理・運営も担う。保留床として整備した区庁舎部分は、市が20年間の割賦で事業者から購入するというスキームとなっている。

事業スキームの概要(資料:大和リース)
事業スキームの概要(資料:大和リース)

まちの課題を再開発でまとめて解決へ

 神戸市北区の南部に位置する鈴蘭台地区は、かつてニュータウンの開発でファミリー層を中心に人口を増やしていった地区だが、現在は高齢者が多く人口も減少傾向にある。とはいえ、今でも公共施設が集まる北区の玄関口ともいえる地域であり、北区役所の最寄駅である神戸電鉄・鈴蘭台駅は、北区の主要駅の1つだ。

 そして、鈴蘭台駅周辺整備は長年にわたって地元の懸案事項だった。以前の駅前は動線が整理されておらず、歩行者と路線バスやクルマが錯綜しており、安全上の課題があったことから、幹線道路による駅前へのアクセス改善や、土地の高度利用が望まれていた。1980年から地元住民らがまちづくりを議論してきたという経緯がある。

 一方、旧北区役所庁舎は、駅に近いとはいえ、高低差が25メートルの坂の上に建っていたため、特に高齢者や小さな子ども連れの市民は歩いてアクセスしにくく、駐車場は常に満車状態になっていた。老朽化(1973年竣工)や耐震性不足、バリアフリー未対応など、施設維持の課題も抱えていた。

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再開発前の鈴蘭台駅前の様子。人とクルマが錯綜するなど、安全上の課題があった(写真:神戸市)
再開発前の鈴蘭台駅前の様子。人とクルマが錯綜するなど、安全上の課題があった(写真:神戸市)
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区役所以外の公共施設は今も坂を上ったところに位置する(左写真)。上写真は旧・北区役所(写真:2点とも日経BP総研)
区役所以外の公共施設は今も坂を上ったところに位置する(左写真)。上写真は旧・北区役所(写真:2点とも日経BP総研)
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 そこで、市は道路整備、再開発、区役所の移転整備を一体的に行うこととし、2008年度に用地買収などを開始した。2011年9月には「鈴蘭台駅前地区第二種市街地再開発事業」が都市計画決定。再開発ビルは公益施設(区役所)と商業・業務施設を集積し、鈴蘭台駅と直結することとした。駅前の車の流れも“交通整理”して、ビルの1階のピロティ部分をバス・タクシーの乗降スペースとし、別途、歩行者空間も確保した。

ビルの1階のピロティ部分をバス・タクシーの乗降スペースとし、別途、歩行者空間も確保(写真:2点とも日経BP総研)
ビルの1階のピロティ部分をバス・タクシーの乗降スペースとし、別途、歩行者空間も確保(写真:2点とも日経BP総研)
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「事業協力者」を公募、初期段階から民間事業者の意見を取り入れる

 今回の事業で神戸市は、特定建築者を公募・選定する事業であることを明記したうえで、事業協力者を募集した。市は2011年7月、都市計画決定に先立って事業協力者を公募、9月の都市計画決定後、10月に大和リースと竹中工務店のグループを選んだ。

 事業協力者は、公募では無償で事業計画などについて提案を行うなどの業務を担うことになっていた。無償とはいえ、計画段階から主体的にプロジェクトに関わることで多くの情報を得ることで、特定建築者の公募の際には優位に立つことができる。「特定建築者を見据え、プレーヤー目線で設計段階から協議ができるのはありがたいと思った」と大和リース神戸支店の角一吉昭支店長は振り返る。

 大和リースらが事業協力者として提案したことは、現地の市場性をみて、身の丈に合った建物にすることだったという。「プロジェクトの初期段階から民間事業者が入ることで、全体のコストを考えながら事業継続性の高い提案ができる」(角一支店長)。無理のない、事業として持続可能性の高い提案が寄せられるのであれば、施行者(神戸市)にとってもメリットは大きいといえる。

 その後、事業協力者の意見を織り込んで再開発ビルなどの基本設計が進んでいった(基本設計者はアール・アイ・エー)。2013年3月に事業計画が決定、さらに2014年4月、市は特定建築者を公募し、同年7月に大和リースが選定されている。

 そもそも大和リースは、この事業の安定性を高く評価していた。新たに生まれた保留床の多くを市が庁舎用に買い取ることが決まっているため、買い手や借り手を新たに見つける必要のある保留床の面積が小さいからだ。今回は神戸市が保留床を買い取って区役所が入居する。「保留床の約7割が区役所で埋まるので、事業性に不安はなかった」(角一支店長)という。

 現在、ビルの保留床はすべて処分済みであり、ビル内の空きテナントは権利床の一部のみ(権利者がリーシングを検討中)となっている。

 リーシング面だけでなく、建築設計や意匠面でも民間ならではの提案がなされている。神戸市都市局市街地整備部都市整備課の前原綾子・鈴蘭台駅前整備係長は、「駅直結の区役所は全国でもまれな例で、利用者の利便性が大きく向上した。また、当初計画ではデッキで接続する予定だった駅ビルと駐車場棟を、直接連なる形で整備したことも来館者の利便性を高めた。これは事業者の提案だ」と話す。

 意匠についても「内壁にしつらえた左官作品は、第一人者の挾土秀平氏、久住有生氏によるもので、特に印象的だ。駅からアクセスして目に入るところに、面積を取らずにこんなに良いものができるのかと感心した。役所にはない発想だ」(小渕担当課長)と高く評価する。

1階ピロティ部分の壁面部分にしつらえられた挾土秀平氏による左官作品「草笛」(写真:日経BP総研)
1階ピロティ部分の壁面部分にしつらえられた挾土秀平氏による左官作品「草笛」(写真:日経BP総研)
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3階の鈴蘭台駅に向かう通路壁面には、久住有生氏による左官作品「風土」が(写真:日経BP総研)
3階の鈴蘭台駅に向かう通路壁面には、久住有生氏による左官作品「風土」が(写真:日経BP総研)
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駅前に移転・オープンした北区役所(写真:2点とも日経BP総研)
駅前に移転・オープンした北区役所(写真:2点とも日経BP総研)
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 神戸市北区は、人口約21万6000人(2019年10月末時点)。同区は北区役所と北神区役所の2区役所体制で住民サービスを展開しているので、北区役所がカバーする範囲は、人口十数万人規模ということになる。つまり、この再開発ビルの事例は、同様規模の自治体であれば、駅前商業施設と公共施設の複合化は十分可能性があることを示唆しているといえないだろうか。

右は神戸市都市局市街地整備部都市整備課の前原綾子鈴蘭台駅前整備係長、左は小渕康宏鈴蘭台整備担当課長(写真:赤坂麻実)
右は神戸市都市局市街地整備部都市整備課の前原綾子鈴蘭台駅前整備係長、左は小渕康宏鈴蘭台整備担当課長(写真:赤坂麻実)

周辺店舗のプロ技講座やブックストリートなど地域活性策も

 特定建築者となった大和リースは、地域の活性化施策にも力を入れている。「鈴蘭台駅前元気UPプロジェクト」として、2014年に関係各社・団体(大和リース神戸支店、JA兵庫六甲小部支店、神戸電鉄、神戸鈴蘭台郵便局、神戸市都市局、神戸市北区役所)と実行委員会を立ち上げ、周辺の店舗や住民が参加できるようなイベントや活動を運営してきた。

 駅ビルや周辺の店舗、銀行、医療機関などを200軒以上紹介するクーポン付きの無料ガイドブック「鈴蘭台のまち歩き」を配布したり、「鈴蘭台のまち学び」と題して、駅周辺の店舗も交えての講座を開催したりと、地域を盛り上げる活動を進めていった。「まち学び」では、無料で学べる様々なプロの技(例えば、コーヒーの美味しいいれ方や、夏の切り花を長持ちさせる方法など)の講座を一覧できるチラシも用意した。

クーポン付きガイドブック「鈴蘭台のまち歩き」(上)と「鈴蘭台のまち学び」のチラシ(右)(資料:神戸市)
クーポン付きガイドブック「鈴蘭台のまち歩き」(上)と「鈴蘭台のまち学び」のチラシ(右)(資料:神戸市)

 「SUZURANDAI BOOK STREET(鈴蘭台ブックストリート)」も地域主体のユニークな取り組みの一つだ。参加するカフェや雑貨店などが店頭に本棚を設置し、所蔵の本を貸し出すというもの。借りた本は参加拠点の本棚であればどこでも返却可能とするという取り組みだ。また、ベルスト鈴蘭台3階の「すずらん広場」には流行りの駅ピアノ(「ストリートピアノ」とも呼ばれる)も設置。誰でも弾けるようになっているほか、時にはここでライブイベントを行ったりもしている。

左写真は3階の「すずらん広場」。普段は休憩スペースだが、イベントにも使用する。誰でも自由に演奏できるピアノ(駅ピアノ)も置かれている。右は同広場に置かれているブックストリートの本棚(写真左:日経BP総研、右:大和リース)
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左写真は3階の「すずらん広場」。普段は休憩スペースだが、イベントにも使用する。誰でも自由に演奏できるピアノ(駅ピアノ)も置かれている。右は同広場に置かれているブックストリートの本棚(写真左:日経BP総研、右:大和リース)
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左写真は3階の「すずらん広場」。普段は休憩スペースだが、イベントにも使用する。誰でも自由に演奏できるピアノ(駅ピアノ)も置かれている。右は同広場に置かれているブックストリートの本棚(写真左:日経BP総研、右:大和リース)
音大出身の地元住民が、駅ピアノでコンサートを2カ月に1回程度開催している(写真:大和リース)
音大出身の地元住民が、駅ピアノでコンサートを2カ月に1回程度開催している(写真:大和リース)
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 大和リース神戸支店規格建築第二営業所の中塚徹営業所長は「元気UPプロジェクトに駅周辺の店舗が多数参加してくれていて頼もしい限りだ。ただ、区から助成金があるのは2019年度まで。2020年度以降の継続には原資が必要になる。2020年度以降は当社も実行委員会ではなくサポート役に立場が変わるが、地元の皆さんの活動を後押ししていきたい」と話す。

 現在は、地元の住民同士でプロジェクトの今後について意見を交わす会合が持たれているという。「会議は時間と場所だけを決めて、誰でも参加できるようになっている。プロジェクトを続けてほしいという声は多いので、地元で運営組織をつくれないか、検討を進めている」(中塚氏)という状況だ。

 一方、神戸市は、鈴蘭台エリアでの道路ネットワークの構築に引き続き取り組んでいく。特に、鈴蘭台幹線(駅前から北側の環状線と接するまでの540m)の整備(新設)を重点的に進める方針だ。

 また、鈴蘭台駅の北側には区役所の庁舎跡や、2018年に閉校した神戸市立兵庫商業高等学校の跡地があり、今後、活用の道を探っていく。商業高校跡地については2018年に現地見学会とサウンディング型市場調査を実施。サウンディングには5事業者が参加し、戸建て住宅やマンションといった住宅用途での活用を中心に提案があった。今後は「北区民まちづくり会議」との意見交換などを経て市が活用方針(案)をまとめる。

訂正履歴
初出時、ビル名称を「BELLST鈴蘭台」としていましたが正しくは「BELLST鈴蘭台・北区役所」でした。お詫び申し上げます。また、1ページ目の全体の完成イメージを最新のものに差し替えました。記事は修正済みです。 [2019/11/21 10:10]

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