「メガソーラービジネス」2019年10月15日付の記事より

農業地帯に1MWのパネル

 熊本県北部に位置する合志(こうし)市は、近年、熊本市のベットタウンとして新市街地が開発されて人口が増える一方、北部は、阿蘇山の火山灰が降り積もった「黒ボク」と呼ばれる腐植土に覆われ、農業や畜産業も盛んだ。

 なかでも合志川の南側エリアは、県内有数の穀倉地帯になっており、広大な農地が広がる。そんな田畑に囲まれた一角に、出力約1MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「合志農業活力プロジェクト太陽光発電所」がある(図1)。

図1●田園地帯にある「合志農業活力プロジェクト太陽光発電所」
(出所:日経BP)
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 2014年3月に稼働し、固定価格買取制度(FIT)を利用して、36円/kWhで売電している。カナディアン・ソーラー製の太陽光パネル3920枚を、南北方向1本脚のシンプルな杭基礎で設置した。基礎・架台システムは独シュレッター製、パワーコンディショナー(PCS)は、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した。

 いまでこそ、南北1本脚の杭基礎が増えているものの、FITが始まって間もない当時、安定感のある「南北2本脚」が主流で、不安定なイメージのある「1本脚」の杭基礎は珍しかった。こうした先駆的なメガソーラー設計を採用したのは、EPC(設計・調達・施工)をドイツ企業と日本企業の合弁であるjuwi自然電力(東京都文京区)が担ったからだ。

 メガソーラーのEPCサービスで世界的に実績の多いドイツ・juwi(ユーイ)の設計ノウハウを活用し、地耐力などを入念に調査した上で施工した。稼働から5年半、その間、勢力の強い台風や大きな地震も経験したが、今のところまったく問題ないという(図2)。

図2●独シュレッター製の南北方向1本脚の杭基礎を採用した
(出所:日経BP)
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 ただ、周辺で農業や畜産業が盛んなこともあり、パネル表面の汚れが目立つという。そこで、昨年10月に全パネルを清掃した。事前に一部を試験的に清掃し、約5%の発電量の増加効果があり、費用対効果が期待できることから実施した。タンクに水を入れてサイトに運び込み、柔らかいモップで表面を洗い流していったという(図3)。

図3●カナディアン・ソーラー製のパネル、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製のPCSを採用した
(出所:日経BP)
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合志市と包括提携協定

 発電事業の主体はSPC(特定目的会社)・合志農業活力プロジェクト合同会社で、再生可能エネルギー事業を手掛ける自然電力(福岡市)グループの自然電力ファーム(鹿児島県西之表市)と、総合製粉メーカーの熊本製粉(熊本市)、そして合志市の3者が出資した。

 このような出資構成になったのは、発電所名にもなっている「合志農業活力プロジェクト」と関係している。

 このプロジェクトは、2013年1月に自然電力と合志市が包括提携協定を結び、再エネを導入しつつ、その売電収入を地域に還元する仕組みを検討し始めたことが発端だ。市の遊休地にメガソーラーを建設し、売電収入の一部を農業の活性化に生かすという計画が、農林水産省の「地域還元型再生可能エネルギーモデル早期確立事業」の無利子融資対象事業に選ばれたことで、3者のSPCを主体にしたプロジェクトが動き出した(図4)。

図4●合志市と自然電力との間で包括連携協定を締結した
(出所:自然電力)
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 具体的には、メガソーラーの収益を使い、「守りの農業」、「攻めの農業」と名付けた、2タイプの農業振興事業に対して支援する。

 「守りの農業」では、メガソーラー事業の主体であるSPC・合志農業活力プロジェクト合同会社の売電収入のうち、毎年5%を合志土地改良区と西合志土地改良区に寄付し、用水路など農業インフラの整備・改善に活用する。これは年間に約260万円になる。

 また、「攻めの農業」では、SPCの出資母体である、自然電力ファームと熊本製粉、そして合志市のそれぞれが、受け取った配当から一部を一般社団法人・合志農業活力基金に寄付して集約し、地域の農業を活性化するような新たな試みに活用する(図5)。

図5●「合志農業活力プロジェクト」のスキーム図
(出所:自然電力)
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農業水利施設などを整備

 「攻めの農業」では、SPC出資者の3者が地域での新たなチャレンジに関してヒアリングなどを経て協議しながら、毎年、支援する還元事業を選定する仕組みだ。場合によっては、3者自体も積極的に関与しつつ、連携して取り組んでいるという。還元する額は、毎年、500万~600万円になるという。

 「守りの農業」で、どんな農業インフラを整備していくかは、2つの土地改良区に委ねている。これまでに、農業水利施設など維持管理事業などに助成してきた。具体的には、洪水調整池の草刈り・伐採や法面の整備、分水工減圧弁のオーバーホール、農地周囲の準排水幹線路の浚渫などだ。

 こうした地道な農業インフラの改善は、農業生産性の向上につながるとともに、極端気象が増える中、自然災害による被害を抑制する効果も大きい(図6、図7)。

図6●農地周囲の準排水幹線路の整備例(工事前)
(出所:合志市)
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図7●農地周囲の準排水幹線路の整備例(竣工後)
(出所:合志市)
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地域の野菜で「コールドプレスジュース」

 「攻めの農業」に関しては、これまで大きく以下の3つの事業に取り組んできた。(1)地域の農産物の販路拡大を支援する、いわゆる「6次産業化」の支援事業、(2)農業や酪農に関わる新技術の研究開発への支援、(3)新規農業従事者への支援――。

 農業生産者(1次産業)が農産物を使った商品開発・製造(2次産業)を手掛け、販売ルート(3次産業)を開拓する、農業の「6次産業化」は、農産品の付加価値を高め、農業従事者の所得を増やす新たな手法として注目されている。

 「合志農業活力プロジェクト」の「攻めの農業」では、まず合志市で生産した野菜を使った「コールドプレスジュース」の開発・販売に取り組んだ(図8)。

図8●企画・製品化した「コールドプレスジュース」
(出所:自然電力)
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 自然電力は2015年8月に「コールドプレスジュース」の製造・デリバリー店展開など、農産物の生産・加工・販売を手掛けるイージェイ(東京都文京区)に出資した。「コールドプレス」とは、野菜や果物を熱の発生を抑えながら圧搾・抽出する技術で、この手法で製造したジュースやスープは、素材の持つ栄養素や酵素を摂取できるなどの特徴がある。

 合志市の生産者直売所からイージェイが、ニンジンやトマト、ナガネギ、ユズ胡椒などを仕入れ、都内にあるコールドプレスジュースやスープを販売する2店舗で、これらの食材を使ったメニューを販売した。同プロジェクトでは、2016年度以降も、継続して新商品の開発に取り組んでいる。

特産の「甘草」を地ビールに応用

 次に取り組んだのが、合志市特産の農産物を活用した地ビールの商品化だ。

 2018年3月28日、熊本市東区の飲食店「KAEN」で、新作ビール「HALO KUMAMOTO BEER(ハロークマモトビール)」の発表会が開催された(図9)。

図9●熊本市内のレストランで新作ビールを発表
(出所:合志市)
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 発表された新作ビールは、合志市で栽培に取り組む「甘草(かんぞう=英名リコシス)」をフレーバーに用いたビール。甘草は、古代から世界各地で薬草や甘味料として広く用いられてきた歴史あるハーブという。これを香味に使った「リコリスビール」は、海外では定番とされているが、国産の甘草を用いた商品は珍しいという。

 同ビールは、330ml入りでアルコール分は6%。発表会を開催した飲食店「KAEN」で製造している。同店は、奥にタンクや醸造に使う器具を備えたマイクロブルワリー(小規模ビール醸造所)でもあり、合志農業活力基金と連携して、新ビールを約500本製造した(図10)。

図10●レストラン内にあるビール醸造設備
(出所:合志市)
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 発表会では、自然電力ファームと熊本製粉、合志市の幹部などが出席。濵田善也副市長は、「おひさまと同じ色に輝くビールができたことは、大きな成果。これからも合志農業活力プロジェクトで様々な支援をしていくことができればと思う」などと挨拶した。

 試飲のために振る舞われた新作ビールは、「苦味が少なく、後味に甘草の風味が残ってさっぱりとした味わい」などと好評だった。

 自然電力ファームは、自然電力グループの再エネ発電所がある日本各地の農産物を生かした食品を、農家と連携して企画・製造していくことを目指し、そのための食品ブランド「HALO JAPAN FOOD(ハロージャパンフード)」を立ち上げた。「HALO KUMAMOTO BEER」は、その第一弾となった(図11、図12)。

図11●太陽光の売電収入で新作ビール「HALO KUMAMOTO BEER」の商品開発を支援
(出所:日経BP)
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図12●自然電力グループは「HALO JAPAN FOOD」ブランドで地域の特産品を使った商品開発に取り組む
(出所:日経BP)
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新品種の開発を支援

 このほか、「合志農業活力プロジェクト」の「攻めの農業」では、熊本製粉が主体となって取り組んでいるコメの新品種などの開発事業を支援している。

 例えば、九州大学が開発し、熊本製粉が合志市内の農家と共同で生産に取り組む「WE(ウイ)米」は、難消化性でビタミンを多く含み、糖尿病患者への有用性や生活習慣病の予防効果があるとされている。

 また、新規農業従事者への支援では、農業への異業種参入を目指す企業や、農業を目指す農家の子息などを対象とした研修会の開催を支援した。

 近年では、公共事業の減少で、地方建設会社による農業への参入意欲が高まっているという。また、親が農家でも、いったんは企業などに務めたものの、生まれた土地に戻って農業を始めようとする人が増えているという。こうした企業や若い世代に対して、就農に必要な知識習得の場を提供することで新たな担い手の育成につながる。

 「合志農業活力プロジェクト」では、メガソーラー事業の収入を原資に、こうした「攻め」と「守り」、そして、「人づくり」から「農業インフラ」「新商品開発」などの多角的な農業支援を継続的に行うことで、農業の活性化に貢献することを目指している。

●施設の概要
名称合志農業活力プロジェクト太陽光発電所
住所熊本県合志市上庄1738
出力約1MW
年間予想発電量約145万kWh
発電事業者SPC(特定目的会社)・合志農業活力プロジェクト合同会社(自然電力ファーム・熊本製粉・合志市による出資)
アセットマネジメント自然電力
土地所有者合志市
EPC(設計・調達・建設)サービスjuwi自然電力
O&M(運用・保守)サービスjuwi自然電力オペレーション
太陽光パネルカナディアン・ソーラー製(255W/枚)・3920枚
パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)
基礎・架台独シュレッター製
売電単価36円/kWh
竣工日2014年3月

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/111800126/