大田区と東急は、東急池上線池上駅周辺エリアのまちづくりで連携している。2019年3月に連携協定を締結し(関連記事)、「リノベーションまちづくり」の手法による空き家と事業者のマッチングなどを共同で推進してきた。また、公園の改修整備に向けた市民ワークショップや、地域の商店主向けの事業承継サポートなど、建物のリノベーション以外の連携事業も広がりを見せるなど、取り組みは多岐にわたる。

大田区と東急のなれそめは、2017年3月の「リノベーションスクール@東急池上線」がきっかけだ。参加者が沿線に実在する空き家のリノベーションプランを考え、オーナーに提案する2泊3日の合宿イベントで、東急が主催し、大田区が後援した。リノベーションスクールは東急の若手有志の発案。スクール開催の方針が決まってから候補地を検討し、池上駅周辺エリアを選んだ。
このイベントがきっかけで、東急と大田区は勉強会を開き、まちづくりの必要性や、駅を中心とした総合的なまちづくりについて、両者で検討を重ねるようになった。2019年3月に「地域力を活かした公民連携によるまちづくりの推進に関する基本協定」を締結。池上駅周辺をモデル地区としてリノベーションに取り組むこととした。
東急がモデル地区に選んだ池上エリアは、日蓮宗の大本山、池上本門寺の門前町として知られる。住宅と工場が共存するエリアだ。同エリアを選んだのは、商店街には活気が残る一方、空き家率が高かったこと、同社による池上駅の駅舎建て替えと駅ビル開発が決まっていたことなどが理由だ。
まちづくりを考える勉強会を発展させて協定締結
東急ビル運営事業部運営第二グループ池上エリアリノベーションプロジェクト担当リーダーの磯辺陽介氏は池上エリアについて「空き家率が高いとはいえ、商業系は借り手が見つけられるエリアだ」と評価する。ただし、借り手が見つけやすいエリアならではの、まちづくりの難しさもあるという。
「借り手を見つけやすいだけに、不動産オーナーが金銭条件のみで折り合った事業者に空き家を貸す事態が続けば、結果として資金力のあるチェーン店の出店が増える。本来、地域には小商いの店やチェーン店、大型商業施設など多様な選択肢が存在して、必要なものが地域住民に選ばれて残っていくのが健全な形のはず。それがチェーン店ばかりになってしまうと街の個性が薄れ、いつか(街に住む人や訪れる人が)引いてしまう時が来る。そのときはチェーン店も撤退し、後には何も残らない。今、手を打たなければ将来、街が行きづまる」(磯辺氏)
この危機意識を地域住民と共有し、まちづくりへの参画を促すことが、「池上エリアリノベーションプロジェクト」を推進する狙いの一つだという。
東急沿線開発事業部開発第一グループ大田区担当城南センターの矢島義宏課長補佐は「リノベーションスクールのような取り組みは一度で根付くようなものではない。我々には沿線開発をする役割があるし、こうしてここに拠点も持っているので、じっくり腰を据えて地域の方々の意識改革に取り組んでいきたい」と語る。