社内・庁内で部署横断的に公民連携

池上エリアリノベーションプロジェクトのウェブサイト

 エリアリノベーションプロジェクトに触発されるように、地域にはさまざまな活動や事業が生まれた。例えば、SANDOの開設によって商店会の若手事業者の交流が活発化。有志で商店会のマップを制作した。さらに、その活動を踏まえて、マップ制作メンバーの中から数人が商店会の一部門に役員として就任した。

 こうした熱意ある若手事業主に向けて、区と東急は、地域の持続的な発展に役立つ情報をインプットできる勉強会を開催した。有識者の講演を聴いた後に参加者同士で意見交換をして理解を深める内容だ。

 リノベーションだけにとどまらず、池上本門寺に隣接する区立本門寺公園の将来活用を検討するワークショップも区と東急で開催した。数年内の改修が予定される本門寺公園について、魅力や改修整備で期待することなど、地域住民で話し合う場を設けた。大田区の主管は都市基盤整備部。企画経営部が窓口となって東急との共同開催を実現した。

 さらには、池上エリアの商店主向けに、事業承継の検討を支援する活動も始めた。「大田区はものづくりの街として知られ、町工場が多い。工業に関して、技術を顕彰するなど事業承継が進みやすくなるような仕組みを充実させてきた一方、商業に関しては十分なサポートを提供できてはいなかった」と市川係長。M&Aによる狭義の事業承継だけでなく、余力を残して事業を終了する廃業や継業といった選択肢について、区と東急で勉強会を開いた。

 東急の磯辺氏は「事業を正しく終わらせれば、そこに新しい事業者が入ってきて、街の新陳代謝が促進される。商店主も元気なうちに引退できるので、これまでと違った役割で地域に貢献することもできる」と狙いを説明する。こちらは、区の産業経済部産業振興課が主管だ。

 大田区企画経営部企画課政策・企画担当主任で公民連携デスクの大黒洋平氏は「東急とのエリアリノベーションプロジェクトのおかげで、庁内には『区の課題に対して、民間と連携できそうなことがあれば相談してみよう』というムードが広がってきている。(池上エリアに限らず)公民連携が選択肢として定着したのはよかった」と話す。今後は、観光業での連携も視野に入っており、既に区の観光国際都市部と東急で協議が始まっているという。

 大田区と東急グループの連携実績はほかにもある。2020年2月には、区の「保育サービスアドバイザー」が子育ての相談に応じるイベントを、東急池上線久が原駅前の東急ストア久が原店で開催した。市川係長は「相談者は区役所に開館時間中に来られる方ばかりではないので、相談者の生活動線上での出張相談会を企画した。東急とは、狭義のまちづくりの範囲にとどまらず連携できている」と話す。

互いの得意なことで相手の不得意を補い合う

写真は左から東急の大森氏、大田区の市川氏、東急の磯辺氏、矢島氏、大田区の大黒氏(写真:赤坂 麻実)

 幅広い領域での公民連携の取り組みに、大田区と東急はそれぞれに手ごたえを感じている。

 東急の磯辺氏は「実務の執行は民間のスピード感を生かして我々がやる。プロジェクトが動くときに“街の顔役”に話を通すなど、地域住民への浸透を図るのは区の役割。そういった部分について、(日頃から地域によりきめ細かく接している)区にフォローしてもらえるのはありがたい」と話す。東急沿線開発事業部事業推進グループ事業推進担当の大森文彦主事は、「協定ありきではなく、協定を結んで何をしたいのか、行政と我々事業者で意識合わせをすることが大切だ」と振り返る。

 大田区の大黒主任は、「行政だけでできることは技術的にもスピードにも限界がある。東急とは、個別の契約ごとの連携ではなく、対話を続けながら連携できているので心強い。民間企業ならではの企画の面白さを街の人々に感じてもらい、乗り気になって街のことを考えてもらえたらありがたい」と期待を寄せる。

 市川係長も「今、地域資源を活用したまちづくりに取り組んでいれば、後あと効いてくるのではないかと期待している。地元が自発的に動き出して、この取り組みに続いてくれれば、池上エリアをモデルとして、区内の他のエリアにも展開していけそうだ」と話す。具体的には、2020年9月に勝海舟記念館が開業した洗足池エリアなどを視野に入れている。

 東急はこれまで様々な形で沿線のまちづくりに取り組んできた。田園都市線沿線では、横浜市青葉区では市と共同で資金を出し合って『次世代郊外まちづくりプロジェクト』に取り組んでいる。二子玉川では世田谷区と連携しながら都市再生推進法人を設立してエリアマネジメントに取り組んできた。「街の性質に合わせた公民連携の形を今後も探っていきたい」と東急の大森氏が語るように、池上エリアは、これまでの同社の沿線まちづくりとはまた違ったパターンでの取り組みといえるだろう。

訂正履歴
記事中の1ページ目の「リノベーションに取り組む」を「エリアリノベーションに取り組む」に、「拠点(城南センター)」を「拠点」に、4ページ目の「リノベーションプロジェクト」「エリアリノベーションプロジェクト」に、東急の大黒氏を大森氏に修正しました。お詫び申し上げます。また、大田区の市川市と大黒氏の肩書に公民連携デスクを追加しました。 [2020/12/04 14:10]