都市再生推進法人の二子玉川エリアマネジメンツが、2021年10月から11月にかけて多摩川の河川敷でアウトドアオフィスの社会実験を行った。河川空間オープン化の指定を受けた試みは、コロナ禍でクローズアップされた「自由な働き方」の提案にもつながる。河川敷活用のプロジェクト「Mizube Fun Base(ミズベファンベース)」の一環だ。

 東急電鉄田園都市線二子玉川駅を降りて5分ほど歩くと、一級河川・多摩川の河川敷にたどり着く。2021年秋の午後、この河川敷の一画に仮設のアウトドアオフィスが登場した。ここでは、焚き火を囲んでミーティングができる。暮れなずむ広い空と、川を吹き抜ける風、火のはぜる音。屋内の会議室とは一線を画した風景がここにはそろっている。

アウトドアオフィスの様子。焚き火を囲んでのミーティング風景。取材日は新しい水辺の活用の可能性を切り開くための官民一体協働プロジェクト「ミズベリング」の事務局メンバーが集まり、オンライン参加者も含めて定例会議を実施していた(写真:日経BP 総合研究所)
アウトドアオフィスの様子。焚き火を囲んでのミーティング風景。取材日は新しい水辺の活用の可能性を切り開くための官民一体協働プロジェクト「ミズベリング」の事務局メンバーが集まり、オンライン参加者も含めて定例会議を実施していた(写真:日経BP 総合研究所)
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 アウトドアオフィスは、都市再生推進法人の二子玉川エリアマネジメンツ(東京・世田谷)が2021年7月から11月まで実施した社会実験のまちづくりプロジェクト「Mizube Fun Base(ミズベファンベース)」の第3弾*になる。アウトドアオフィスの実施期間は、2021年10月から11月末まで。河川敷では焚き火を行うことに主眼を置くため、開設時間は平日の15 時から17時までの2時間に設定している。焚き火を囲む丸いテーブルのほか、通常の会議用の長方形のテーブル席も用意している。

「Mizube Fun Base」の実施場所(資料:二子玉川エリアマネジメンツ)
「Mizube Fun Base」の実施場所(資料:二子玉川エリアマネジメンツ)
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アウトドアオフィス利用者は焚き火に使う薪割り体験もできる(写真:日経BP 総合研究所)
アウトドアオフィス利用者は焚き火に使う薪割り体験もできる(写真:日経BP 総合研究所)
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長方形のテーブル席も用意。「ミズベリング」事務局メンバーはまずはこちらで会議をしてから焚き火会議へと移っていった(写真:日経BP 総合研究所)
長方形のテーブル席も用意。「ミズベリング」事務局メンバーはまずはこちらで会議をしてから焚き火会議へと移っていった(写真:日経BP 総合研究所)
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 アウトドアオフィスを企画運営する二子玉川エリアマネジメンツは、地域で公民連携のまちづくりを進める一般社団法人だ。地元の町会、東急、玉川高島屋ショッピングセンターを運営する東神開発で構成。2015年4月の設立以降(法人化は2019年1月)、アドバイザーの世田谷区と連携して二子玉川駅周辺地域で持続的なまちづくりを目指した活動を進めてきた。2020年2月には世田谷区から都市再生推進法人の指定を受けている。

 「焚き火には人を惹きつける魅力がある。一緒に火を囲んでいると心がほぐれ、同じ場を共有する人たちの間に会話が生まれる。コロナ禍で会社や大学で直接的なコミュニケーションを取りにくい状況のなか、対面の良さを生かした柔軟な働き方に対する提案になればいいと考えた」――。二子玉川エリアマネジメンツ事務局の内野洋介氏は狙いを話す。

 利用の予約が入るごとに事務局のスタッフ3人が現場に入り、座席や焚き火の設営から会議時の対応、利用者アンケートの配布と回収、撤収までを担う。利用料は5人までの1セットで税込み8000円とし、2セットまで対応する。得た収益は、河川・公園空間の環境整備費用に還元していく。11月半ば時点では、会期中に9日分の予約が入っていた。

* 第1弾としてフードトラックによる飲食サービス、第2弾として利用者の企画した催事などを実施する「スペースレンタル」を実施した。

都市再生整備計画を基に「河川空間オープン化」制度を活用

 多摩川の河川敷に広がる世田谷区立兵庫島公園では、2016年11月の社会実験「二子玉川水辺キッチンカープロジェクト」を手始めに、飲食・音楽・自然を楽しむワークショップ他を集めた「TAMAGAWA BREW」などのイベントを多数開いている。ただ、国の直轄地との一体利用、河川法に基づく規定などもあり、管轄する行政機関は複数に及んでいるため、イベントごとに許可を得るのは手間がかかっていた。そこで今回は、公的な位置付けの下、より包括的で継続的な取り組みを行うために河川空間オープン化(都市・地域再生等利用区域制度)の制度を利用している。

河川敷に広がる世田谷区立兵庫島公園とアウトドアオフィスの敷地(写真:守山 久子)
河川敷に広がる世田谷区立兵庫島公園とアウトドアオフィスの敷地(写真:守山 久子)
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二子玉川エリアマネジメンツ事務局のメンバー。右から岩上雅則氏、内野洋介氏、三木裕子氏、小林直子氏(写真:日経BP 総合研究所)
二子玉川エリアマネジメンツ事務局のメンバー。右から岩上雅則氏、内野洋介氏、三木裕子氏、小林直子氏(写真:日経BP 総合研究所)
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 国土交通省が進める河川空間のオープン化は、一般には営利活動のできない河川敷空間において、営業活動を行う事業者などの利用を認める仕組みだ。地域で合意を図ることを前提とし、市町村などが策定する都市再生整備計画はその一例になる。

 20年2月に世田谷区から都市再生推進法人の指定を受けた二子玉川エリアマネジメンツは、二子玉川駅周辺エリアの都市再生整備計画の素案をまとめて区に提案した。区は同年10月に都市再生整備計画を策定し、多摩川を管轄する国土交通省関東地方整備局に河川空間オープン化に向けた要望書を提出した。2021年2月、関東地方整備局は、占用主体を二子玉川エリアマネジメンツとしたオープン化を認め、「(二子玉川駅周辺の)多摩川河川敷左岸と世田谷区立兵庫島公園の一部」のエリアを都市・地域再生等利用区画として指定した。

 とはいえ、アウトドアオフィスを実現するには、ほかにもまだ手続きが必要だった。

 浸水域に当たる河川敷を利用するので、河川法に基づく占用許可を受ける際には、使用するテントやテーブル、椅子などを規定時間内に撤去することが求められた。二子玉川エリアマネジメンツは、スタッフが90分で全ての備品を安全なエリアに運び出す手順やルートを設定した撤去計画書をまとめ、関東地方整備局に提出した。

 焚き火の使用に関する手続きもあった。兵庫島公園の占用者は世田谷区長だが、アウトドアオフィスに利用した四角形の敷地だけは例外的に国の直轄エリアになっている。区とも情報共有しながら、焚き火の使用に際して必要な届出を河川事務所と消防に提出した。また、東京都市大学の研究の一環であるということで、その他の細かい手続きや行政との調整も重ねて、アウトドアオフィスの開催にこぎ着けた。なお、この取り組みは二子玉川エリアマネジメンツと東京都市大学との共同研究として、アウトドアオフィス運営の実務内容や利用者へのアンケートなどを基に報告書をまとめる予定だ。

アウトドアオフィスの受付窓口となるテント。看板の横に見える杭は、Mizube Fun Base の敷地の境界を示している。杭で囲まれたエリアは国の直轄地だ(写真:日経BP 総合研究所)
アウトドアオフィスの受付窓口となるテント。看板の横に見える杭は、Mizube Fun Base の敷地の境界を示している。杭で囲まれたエリアは国の直轄地だ(写真:日経BP 総合研究所)
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丸いテーブルとデッキチェアの焚き火席を2組用意した。脇には消火器を備えている(写真左)。上は通常の会議用のテーブル席。長方形のテーブル2つを組み合わせた。出水時には受付テントやのぼりを含めた全ての装備を90分以内で運び出すことになっている(写真:2点とも日経BP 総合研究所)
丸いテーブルとデッキチェアの焚き火席を2組用意した。脇には消火器を備えている(写真左)。上は通常の会議用のテーブル席。長方形のテーブル2つを組み合わせた。出水時には受付テントやのぼりを含めた全ての装備を90分以内で運び出すことになっている(写真:2点とも日経BP 総合研究所)
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設営から撤収までスタッフ数人で対応

 設備面を考えると、今回の敷地はアウトドアオフィスに不向きだった。2019年の台風被害や護岸工事の影響で水道や電気のインフラがなくなり、インターネット環境もない。事務局スタッフは予約が入ると毎回、飲料やポータブル蓄電池などを持ち込んで利用者をサポートする。また、テントや椅子などを収納する倉庫が近くにないので、オフィスの利用がある日はスタッフが二子玉川駅の近くにある倉庫から運び出して対応している。

アウトドアオフィス用の椅子やテーブル、受付用のテントなどは、二子玉川エリアマネジメンツ事務局スタッフが二子玉川駅の近くにある倉庫から毎回リヤカーに積んで運び出す(写真:日経BP 総合研究所)
アウトドアオフィス用の椅子やテーブル、受付用のテントなどは、二子玉川エリアマネジメンツ事務局スタッフが二子玉川駅の近くにある倉庫から毎回リヤカーに積んで運び出す(写真:日経BP 総合研究所)
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事務局スタッフによる受付テント設営の様子(写真:日経BP 総合研究所)
事務局スタッフによる受付テント設営の様子(写真:日経BP 総合研究所)
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事務局では暖かい飲料の入ったポットも用意。風で紙コップが飛ばないよう金属製のホルダーに収めているのもアウトドアならではの工夫だ(写真:日経BP 総合研究所)
事務局では暖かい飲料の入ったポットも用意。風で紙コップが飛ばないよう金属製のホルダーに収めているのもアウトドアならではの工夫だ(写真:日経BP 総合研究所)
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事務局スタッフによる撤収の様子(写真:日経BP 総合研究所)
事務局スタッフによる撤収の様子(写真:日経BP 総合研究所)
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 今回のアウトドアオフィスの取り組みについて、内野氏は「手間も時間もかかるが、私たちの活動が水辺空間を幅広く利用できるようになるきっかけになればいい。今回の取り組みを通じ、多様な活用を進めるためには何が必要かを行政にも働きかけしていきたい」と語る。

 二子玉川エリアマネジメンツは、二子玉川駅まわりの広告スペース運営で得る収入もあり、アウトドアオフィスの事業単体で大きな収益を目指すわけではないという。ただ、「今回は焚き火利用の許可が予想以上にスムーズに進んだ。行政との相互理解が深まっていることを感じる」(内野氏)との手応えがある。まずは2024年度までの都市再生整備計画の期間で、活動の深化を図っていく。

訂正履歴
初出時文中で、焚き火に「許可」が必要としていましたが正しくは「届出」でした。また、研究報告書は東京都市大学のみでなく、主催団体と同大学の共同研究としてまとめられる予定です。お詫び申し上げます。記事は訂正済です。 [2021/12/9 16:30]

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/112500199/