弘前市初のPFI事業、事業者はスターツグループ

 吉野町煉瓦倉庫を、美術館として活用しようという構想は、1993年ごろから弘前市で検討されていた。しかし、倉庫の買取交渉がまとまらず、市はいったん事業化を断念した。2002年以降には、弘前出身の芸術家である奈良美智氏が、この倉庫を活用し、3度にわたって美術展を開催。地元の人々も運営に参加し、大きな盛り上がりを見せると、倉庫を美術館へ転用しようという機運が再び高まった。なお、現在の美術館のエントランスに飾られている白い犬のオブジェは、このとき協力してくれた人々への感謝を込めて、奈良氏が市に寄贈した作品である。

 2015年には、所有者との合意がまとまり、市が倉庫を購入。2016年に倉庫を周辺の緑地とともに、文化芸術の創造・交流の拠点として、官民一体で整備していく方針が決まった。そして事業者を公募した結果、2017年にスターツを代表とする企業グループが優先交渉権者に選ばれた。

 その理由について弘前市では、「市内事業者の積極的な活用、『“集めて観せる”ではなく、“創って魅せる”』という従来の美術館とは異なる展示コンセプト、この土地の歴史的背景を踏まえた提案などを高く評価した」(同市美術館周辺活性化室の竹内良定主幹)という。

事業の実施体制(資料:弘前市)
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 改修・整備に当たっては、民間事業者のノウハウを幅広く活用するため、RO(改修・運営)方式によるPFI手法を採用した。市では事業立案の段階で、分離発注型の従来の公共事業と比較して、財政支出を7.8%削減できると試算した。弘前市にとってPFI事業を手がけることも、美術館を開設することも、どちらも初めてだった。

 具体的なスキームは、およそ以下の通りだ。事業者はレンガ倉庫の改修や緑地の整備を行い、完成後は15年にわたって維持管理・運営を手がける。市側は、サービス購入料として、施設整備費(上限25億2900万円)と運営・維持管理費(16億8100万円)を、事業者に支払う。また美術館の入館料も、条件に応じて一部または全部が、事業者の収入になる。

 一方、隣接するカフェ・ショップ棟は、独立採算性の付帯事業とした。隣接する市有地に期間20年の定期借地権を設定。事業者が自己資金で建物を建設・運営し、その売り上げによって利益を得る。

事業方式の区分(資料:弘前市)
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 事業者が決定した後も、3年以上にわたって官民一体での開業準備が続いた。そんななかで発生したのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。これにより当初予定していた2020年4月のオープンは延期となった。地元の人々のみを対象にした予約制のプレオープンを経て、ようやく7月にグランドオープンを迎えることになる。

 とはいえ、弘前さくらまつりや弘前ねぷたまつりといった地元の一大イベントも相次いで中止になり、同市を訪れる観光客は減少した。美術館では年間8万人の来客を目標に掲げたが、6月のプレオープンから12月半ばまでの入場者数は約2万5000人にとどまっており、目標達成は難しい状況だ。

 運営面でもコロナの影響がみられる。海外アーティストの来日が困難になり、計画していたトークイベントが一部できなくなってしまった。通常は制作者本人の立ち会いのもとで進める展示作業も、一部の海外アーティストに関しては、ビデオ会議システムを活用することで対応した。コロナの収束がなかなか見通せないなか、当面は試行錯誤の運営が続きそうだ。

「まずは感染症対策を徹底し、安全な運営を継続していくことが第一。そのうえで、展覧会の内容をより充実させるなどして、入場者の回復に努めていきたい」(前出の大澤氏)。


弘前市(ひろさきし)
青森県西部に位置する津軽地方の主要都市。江戸期には弘前藩の城下町として栄えた。人口16万8866人(2020年10月1日現在)。りんごの生産量は日本一で、全国の約2割を占める。市内の弘前公園は桜の名所として知られ、4月~5月の弘前さくらまつりには毎年多くの人が訪れるが、2020年は中止された