学校や保護者に教育的観点からeスポーツの魅力を理解してもらいたい

 今回のイベントは大会を開催することではなく、キャリア教育の一環として位置付けることが目的だった。そのため「学校側にもeスポーツを受け入れてもらうこと、単にゲームをやって終わりにしたくないという二点に注意を払い、構成を考えた」(山口氏)。

 自治体によるeスポーツイベントの開催や、ゲーム業界を対象とするキャリア教育を実施することには異論もあったが、当日は大阪市教育委員会や教員がオブザーバーとして配信会場のeZONeに立ち会った。

配信会場のe-ZONe(提供:大阪市生野区)
配信会場のe-ZONe(提供:大阪市生野区)
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 当日は3人のプロゲーマーが会場とオンラインで参加。終了後は、山口氏、教員、デジタルハーツの畑田氏も交えゲーム業界の仕事や職業観をテーマにトークセッションを行った。

 「参加したプロゲーマーは事務職や育児の傍ら副業でプロゲーマーとして活動している。こうしたパラレルキャリアであることも時流に合っている。稼ぐものと好きなものの両輪が仕事になるという新しい働き方を見せることもできた」(山口氏)。 参加した子供たちは時間管理術やゲームとの付き合い方を学ぶと同時に、大会を通して、現場の運営や実況中継のMCなど、大会に携わる人たちの姿を肌で感じることもできたようだ。

 一方、民間企業にとっても、行政が関わるメリットは大きい。なぜなら、行政は関わることで、「教育」的な観点からeスポーツをとらえることができるからだ。

 今回の企画に携わった、ロート製薬・未来社会デザイン室の荒木健史氏はこう話す。 「ゲームやeスポーツは、学業の妨げや生活習慣を気にする保護者も多いが、使い方さえ誤らなければ子供の多様な才能に光をあてることができる。だからこそ、eスポーツに教育的な観点からアプローチする必要がある。行政こそが教育の本丸。その意味でも教育に関連してeスポーツの大会を開いたのは非常に先進的な取り組み。行政が行うことでブレイクのきっかけになる。官だけでは無理だが、民間だけでも限界がある。互いに相関関係で補って上手く回していきたい」

 企画・運営を担当したスポーツタカハシの大川氏も「eスポーツの大会で、オブザーバーとはいえ教育委員会や学校教員など、教育現場の方が加わったのはおそらく初めて。教員の方と意見交換させてもらったことは非常にいい機会となった。ゲームもツールが悪いわけではない。バランスよく付き合うことの重要性をアピールしていきたい」と話す。    専属プロゲーマーを派遣し、トークセッションにも参加したデジタルハーツの畑田氏は、「ゲームに対するネガティブイメージを払拭したい。ゲームの上手な人は集中力が高い。この取り組みをきっかけに、ほかの自治体でもeスポーツに対する理解が深まり、ゲームなポジティブな面を認知してもらいたい」と期待を寄せる。

行政が関わる“前例”を作り、意識が変わるきっかけに

 今回、配信会場のeZONeでゲームに取り組む子供の姿を見守っていた保護者からはこんな声が聞かれた。「うちの子は勉強が苦手。が、この大会には非常に積極的で、事前にルールもしっかり読んで把握し、この日を楽しみにしていた」「普段、学校で褒められることが少ないが、この大会では一生懸命頑張り、表彰式の最後までしっかり見ていた」「ゲームか勉強かの二者択一になりがちだが、時間管理やゲームから得られる知識もあると知った」。また、参加した子供たちからは「好きなことを懸命にやると仕事になることがわかった」「プロゲーマーの話を聞いて、時間管理をすることが大事だと感じた」「勉強かゲームか、ではなく、うまくバランスを取ることが大切だと思った」といった声があがった。

 こうした声に山口氏も手ごたえを感じている。「こちらの意図することが保護者や子供にも伝わり、うれしく思った。ゲームはコミュニケーションツールであり、知識を培い、集中力を鍛えることもできるもの。プロはゲームと上手く付き合っている。子供たちもただ配信元や作り手に踊らされるのではなく、使い方もきっちり学び、ゲームを仕事にして活躍できる場があることを知ってほしい」(山口氏)。

 今後、ゲームやSNSなどデジタルツールから逃れることはできない。むしろ、間違いなくデジタルとの関係性は深くなっていく。保護者も親もデジタルリタラシーが今後重要になってくるだろう。山口氏はこう話す。「行政や学校現場で受け入れにくい分野だが、今回、こうしてキャリア教育の一環としてeスポーツの大会を開催したことが1つの転換期になればいい。これが前例になり、教育現場やほかの自治体がeスポーツを受け入れていくようになれば、役目を果たしたと思っています」