350株のトマト栽培を3人で受け持ち、年間25トンの収穫を目指す
具体的にはどんな農業技術の開発が行われているのか。それが分かるのがNTT東日本中央研修センタ(調布市)の敷地の一角に設けられた試験圃場、すなわちトマト栽培専用ハウスだ。500平方mほどのハウス内で350株のトマトが栽培されている。目指す収穫量は年間25トン。ハウスの温度、二酸化炭素濃度、湿度、日射量をセンシングし、コンピューターが最適な生育条件を判断してカーテンの開け締めなどを全自動で行う。ハウスとはいえ、太陽光利用型の「植物工場」と呼んでもよい。
栽培していたのは大玉トマト。ヤシガラを敷き詰めたところに栄養素を配合した養液を流して栽培する。養液で常に必要な養分が補給されるため、栄養が偏って生じる連作障害は起きない。これはトマト栽培で大きなメリットだ。
ハウス内にはローカル5Gのアンテナが1台置かれ、ほかに4Kカメラ、360度カメラ、走行型カメラがある。トマト栽培の世話をするのはNTTアグリテクノロジー栽培スタッフの服部三平氏をはじめ計3人だけ。
服部氏はIT関係の会社に勤務していた経験があるものの、農業は家庭菜園を楽しむ程度。専門的な知識があるわけではない。「スマート農業という言葉に引かれた」といい、2020年12月からここで働き始めた。
「これだけの規模のハウスを3人で面倒見るのは普通だったらできません。全コントロール型の設備だからできること。葉っぱの色がおかしいとか、株の成長が遅いなどと感じた時は、スマートグラスを使って専門家に意見を聞けるので、農業を全然やったことがない人でもできます」と服部氏はデジタル技術の威力について話す。
このハウスでは高解像度の4Kカメラとウエアラブル端末「スマートグラス」がキーデバイスだ。天井近くに設置された6台の4Kカメラで全体の生育状況を把握し、細かいところは走行型カメラでトマトに近づいて確認する。葉の下やトマトの裏側は走行型カメラでは分からないので、スマートグラスを装着した服部氏らがチェックする。スマートグラスの利点は両手が空くこと。トマトの裏側を見たり、葉をよけたりできる。スマートグラスでは、見たままの映像と音声を伝送できるのも特徴だ。
カメラやスマートグラスで得た映像は高速・大容量のローカル5Gによってアップロードされ、約20km離れた立川市の東京都農林総合研究センター内の研究所に送られる。そこには4Kモニターが設置され、映し出されたハウス内の映像を見ながらリアルタイムで専門家が技術指導する。効率的に技術指導を行って生産性を高めたり、指導を高品質化できたりするほか、1人の指導員によって複数の生産者の農業支援ができるようになった。