高精細な映像と走行型カメラの遠隔操作をローカル5Gで実現

 一般にローカル5Gは4Gと比べて通信速度が10倍以上、遅延は10分の1、同時接続台数は10倍と、高速・大容量の通信ができる。農地などの敷地、工場や病院の建物に限定したローカル5Gは今後、利用地域の拡大が期待されている。

研究所のモニターに映し出されたトマトの様子(モニター映像を撮影)(写真:長坂 邦宏)
研究所のモニターに映し出されたトマトの様子(モニター映像を撮影)(写真:長坂 邦宏)
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 「高精細な映像をトマト栽培の現場から送ることと、遅延なく走行型カメラを操作すること。この2点がローカル5Gを活用しなければ実現できませんでした」とNTTアグリテクノロジー社長の酒井氏は話す。

 今回のトマト収穫は2シーズン目。現在の株は8月半ばに植えたもので、約3カ月で収穫したトマトを若葉小学校に提供した。1シーズン目から順調に収穫を行い、地元のJAに卸したり、NTT東日本本社ビル内の無人型スマートストア(実証試験中)で販売したり、地域のこども食堂へ提供したりしてきた。

 トマト栽培スタッフの服部氏は、「JAさんから『あれ、おいしかったよ』と言われた時は『よし、やった』と思いました。今回のように生徒さんたちが食べてくださるのは『うれしい』の一言に尽きます」と感慨深げに話す。

 NTT東日本の経営企画部営業戦略推進室主査、川嶋光氏によれば、「施設園芸(ハウス栽培)としてはパプリカやナスなどもターゲットに入ってきます。このハウスはトマト栽培用に最適設定されていますが、他の栽培にも対応できます」とのこと。NTT東日本は山梨県中央市にある大規模なファーム「ベジアイシティ山梨中央」でもリーフレタスの本格栽培を行っている。

 酒井氏は日本の農業に危機感を募らせている。

 「日本の農業の担い手は2015年から2030年までの間に40%減ると言われています。担い手が加速度的に減少していく産業なんですね。すでに待ったなしの状況。地域全体でどうするか、新しい農業技術を実装するための仕組みを地域につくっていかなければいけません。私たちは自分たちの手で栽培し、自治体の指導を受けながら自らチャレンジしていこうと考えています」

 NTTアグリテクノロジーは、現在進める実証実験の成果を見て、栽培現場を調布市内の別の場所に広げたり、野菜の種類を増やしたすることなどにより、収益事業として育てていきたいと考えている。

 今後はさらに新技術を導入する計画もある。遠隔操縦ドローンによる全体の生育状況の効率的な把握、人工知能(AI)を活用した着花促進剤噴霧の効率化などを計画しているという。ロボットやドローンを使えば省人化でき、少ないスタッフでも対応できる。

 問題は新技術の導入でコスト高になる点だが、各種機器やロボティクスをシェアリングするモデルをつくり上げるなどしてのコストダウンも考えられそうだという。

 農業の厳しい現実を克服しようとすれば、ブレイクスルーとなるイノベーションは不可欠だ。それを支えるのはデジタル技術やロボット技術、新しいモビリティだが、生産現場に密着してこそ斬新な課題解決力が見いだされるはずだ。

訂正履歴
取材時に調布市立若葉小学校に個人名掲載の許諾を得ていましたが、個人情報保護の観点から一部記事中の個人情報を非掲載としました。[2022/1/5 16:30]