レンタルオフィス、チャレンジショップから、アドバイザーによる相談やサポート、さらには創業スクールから起業家のPRまで――。茨城県取手市は、多面的に起業を支援するプロジェクト「起業家タウンMatch」を進めている。創業支援で実績の高い民間人材が推進役を担い、次々と支援策を繰り出している。

 JR取手駅西口や大型駐車場に直結した総合ショッピングビル「リボンとりで」。このビルの5階に、取手市創業支援事業プロジェクト「起業家タウンMatch」の中核拠点となる「Match-hako(マッチバコ)」が入居している。目指すのは、「起業支援の市民運動を起こし、起業で街を元気にする」ことだ。

 2016年2月にオープンした「Match-hako」は、起業支援サービスが充実したレンタルオフィスなどの機能を持つ施設だ。取手市が駅前商業ビル内の約380m2スペース(フロア全体の面積は約2000m2)を民間事業者から賃借して整備した。

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「Match-hako」が入居するリボンとりで。取手とうきゅうの跡地を再利用して民間企業が運営するビルだ。1階に食品スーパーの西友、3階に取手市役所 取手駅前窓口などが入居している。画像左手にJR常磐線、関東鉄道常総線が走る線路が見える(写真:稲垣 純也・特記以外すべて)

市民、事業者、行政が三位一体で起業を支援

 街を元気にする――。その目的が掲げられた背景には、都心回帰現象の影響や少子高齢化の進展など時代の流れとともに街の活気が衰えてきた状況がある。

 もともと取手市はJR常磐線の始発駅であり、東京まで40~50分という立地条件から、東京都心のベッドタウンとして発展してきた。バブル景気期には都内からの住み替え需要もあり、人口も右肩上がりだった。

 しかし1995年をピークに人口は減少傾向に推移。成長した子供が進学や就職、結婚などで取手を離れ、他の地域を生活拠点とするケースが増え、とくに20~30代の若年層の占める割合が小さくなってきている。

 さらに、商業の中心地である取手駅前も1990年頃に最盛期を迎えて大いに賑わったが、2007年には大型商業施設のカタクラショッピングプラザが、2010年には取手とうきゅうがそれぞれ閉店。廃業する中小企業も相次いだ。

 

Match-hakoのエントランス。画像左ののぼりを、プロジェクトに賛同する「Match-supporter(マッチ・サポーター)」(次ページ参照)の企業や店舗に立ててもらっている
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Match広域連携推進本部の吉田雅紀本部長。中小機構主催の創業・ベンチャー国民フォーラム(現・Japan Venture Awards)で2002年度に経済産業大臣賞を受賞するなど、起業支援で多くの実績を持つ
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 「自治体の活力の源泉は人口に、経済力の源泉は企業の数にあると考える。地域を活性化し、街を元気にしていくためには、起業する人の数を増やしていくことが重要」

 こう話すのは、Match広域連携推進本部の吉田雅紀本部長だ。吉田本部長は、中小企業診断士、ITコーディネーターの資格をもち、株式会社あきない総合研究所代表取締役を務める中小起業支援のプロフェッショナルである。Match広域連携推進本部とは、地元を中心とした行政、商工会、金融、大学で構成される組織で、取手市の創業支援事業プロジェクト「起業家タウンMatch」を運営するプラットフォームだ。

 吉田本部長は、2000年に大阪の中小企業支援機関「大阪産業創造館」、2003年に全国の主要都市を中心とする起業支援プロジェクト「ドリームゲート」を立ち上げた。いずれも成功を収めたが、「都市部に起業を集中させることで、結果的に地方における“起業の過疎化”を進めることになってしまったという反省がある」(吉田本部長)と語る。

 首都圏で起業しようと地元から出ていく人が増えれば、それに伴い税理士や経営コンサルタント、行政書士などの人材も流出していく。「自分の街で起業しようという人が増えない限り、人口も人材もどんどん過疎化する一方になる。そこで市民と事業者、行政が三位一体となって街ぐるみで起業を応援し、誰でも起業に挑戦できる環境と文化を作り上げるプロジェクトが必要だと考えた。これを"起業家タウン構想”と名付け、実現できる自治体を探していた」(吉田本部長)。

 そんな折、吉田本部長が知人に紹介されたのが取手市役所だった。当時の取手市は産業競争力強化法の施行に伴い、率先して創業支援を担わなくてはならない状況にあったが、「それまで創業支援事業を実施したことがなかったため、実績も手法もなかった。吉田氏の具体的な提案を受けたことが、当プロジェクト「起業家タウンMatch」発足のきっかけとなった」と取手市役所まちづくり振興部産業振興課産業活性化推進室の吉田卓也係長は説明する。

 2017年度には広域事業連携の一環として取手市と隣接する龍ケ崎市も同プロジェクトに加わり、連携して事業が進められている。