東京都豊島区は、池袋駅周辺の4つの大きな公園の整備(関連記事)を進める一方で、住宅街に点在する小さな公園の活性化にも力を入れている。これまで十分に活用されていなかった小規模公園を地域コミュニケーションの場として再生させるために、地元に本社を置く良品計画と連携。近隣住民とともに公園の使い方やルールの検討も含め、2つのモデル公園のリニューアルを行った。

「小規模公園活用プロジェクト」のモデル公園の1つ、西巣鴨二丁目公園のリニューアル・オープン日(2019年12月14日)の様子。隣接する集会室「区民ひろば西巣鴨第一」のイベントとも重なり、親子連れを中心に多くの人が集まり賑わった(写真:日経BP総研)
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「小規模公園活用プロジェクト」のモデル公園の1つ、西巣鴨二丁目公園のリニューアル・オープン日(2019年12月14日)の様子。隣接する集会室「区民ひろば西巣鴨第一」のイベントとも重なり、親子連れを中心に多くの人が集まり賑わった(写真:日経BP総研)
「小規模公園活用プロジェクト」のモデル公園としてリニューアルした上り屋敷公園。シンボルツリーの周囲を木製のベンチをでぐるりと囲んだ。ゆっくり座ったり、寝転がったりしててくつろげるスペースが公園内に出来上がった(写真:日経BP総研)
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「小規模公園活用プロジェクト」のモデル公園としてリニューアルした上り屋敷公園。シンボルツリーの周囲を木製のベンチをでぐるりと囲んだ。ゆっくり座ったり、寝転がったりしててくつろげるスペースが公園内に出来上がった(写真:日経BP総研)

 「地元の人たちの身近な遊び場や憩いの場として、小さな公園に目を向けるべきだと考えた」――。こう語るのは豊島区マーケティングコミュニケーション専門監で「わたしらしく、暮らせるまち。」推進アドバイザーを務める宮田麻子氏だ。

 豊島区は、160カ所以上の公園・児童遊園を有している。その多くが小規模な公園・児童遊園だ。こうした小さな公園の活用に目を向けた「小規模公園活用プロジェクト」のモデル公園が2019年12月にリニューアルオープンした。西巣鴨二丁目公園と上り屋敷公園である。豊島区と良品計画(東京都豊島区)による、まちづくりに関するパートナーシップ協定*に基づく取り組みだ。

 モデル2公園では、木製のデッキや横になれるベンチなど、もっと公園でくつろげるようにするための整備を最小限の範囲で実施した。オープニング・イベントでは、地元住民による紙芝居上演(上り屋敷公園)や、子供たちが「食品ロス」を考えながらメニューをつくったスティックチョコパン屋さんの屋台(西巣鴨二丁目公園)なども出店し、場を盛り上げた。使用した組み立て式の屋台は公園の倉庫に収納し、必要な場面でいつでも使うことができるようになっている。

 移動車両(パークトラック)もやって来て、コーヒーなどのドリンクやパンなどの軽食の販売や、図書館の本の貸し出しが行われた。車両はダイハツ工業の協力により開発された特注品だ。

上り屋敷公園の石積みに沿って設置されたベンチ
上り屋敷公園の石積みに沿って設置されたベンチ
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西巣鴨二丁目公園でも、上り屋敷公園と同様、シンボルツリーの周囲にベンチを設置した
西巣鴨二丁目公園でも、上り屋敷公園と同様、シンボルツリーの周囲にベンチを設置した
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(写真:2点とも日経BP総研)
(写真:日経BP総研)
(写真:日経BP総研)
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(写真:豊島区)
(写真:豊島区)
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西巣鴨二丁目公園では、隣接する集会室「区民ひろば西巣鴨第一」との間をウッドデッキでつなぎ、公園、集会室それぞれを訪れた住民の交流を促す。以前(右上写真)は植栽などで境界がはっきり分かれていた。
(写真:日経BP総研)
(写真:日経BP総研)
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(写真:豊島区)
(写真:豊島区)
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左は地元の人たちによる紙芝居上演(上り屋敷公園)、右は子供が運営する屋台「スティックチョコパン屋」(西巣鴨二丁目公園)。組み立て式の屋台は、普段は公園の倉庫に収納する(左写真:日経BP総研、右写真:豊島区)
パークトラック。カフェやクッキーなどの販売のほか、区立図書館から積んできた児童書も陳列。公園内で自由に読むことができる(西巣鴨二丁目公園 写真:日経BP総研)
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パークトラック。カフェやクッキーなどの販売のほか、区立図書館から積んできた児童書も陳列。公園内で自由に読むことができる(西巣鴨二丁目公園 写真:日経BP総研)
* FFパートナーシップ協定。FFとはFemale/Family Friendlyの略で、「女性やファミリーにやさしい」を意味する。子育て支援、健康増進、働き方改革、防災など分野ごとに行っていた様々な公民連携・協働を包括する形で、パートナーシップ協定を企業や大学と締結するもの。豊島区と良品計画は2017年11月にこの協定を締結した。

○○できない公園から○○できる公園へ

 もう一つ、モデル2公園の大きな特徴は、これまで公園内各所に立てられていた「禁止看板」がまったく目立たなくなっていることだ。「禁止ではなく、できるを伝えるサイン」が公園入口の目立つ場所に立てられて、禁止事項は1カ所にまとめられた。公園内の看板はこの2つに集約している。

上写真は「禁止ではなく、できるを伝えるサイン」。右は禁止事項、注意事項をまとめたサイン。公園内の看板はこの2つに集約した
上写真は「禁止ではなく、できるを伝えるサイン」。右は禁止事項、注意事項をまとめたサイン。公園内の看板はこの2つに集約した
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(いずれも上り屋敷公園 写真:日経BP総研)
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(いずれも上り屋敷公園 写真:日経BP総研)
リニューアル前の上り屋敷公園。禁止看板などが無秩序に林立していた(写真:豊島区)
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リニューアル前の上り屋敷公園。禁止看板などが無秩序に林立していた(写真:豊島区)
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リニューアル前の上り屋敷公園。禁止看板などが無秩序に林立していた(写真:豊島区)
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リニューアル前の上り屋敷公園。禁止看板などが無秩序に林立していた(写真:豊島区)

 サインは、公園内で可能な活動内容を増やしていけるデザインとなっている。現状では、上り屋敷公園では、「くつろぐ」「遊ぶ」「集う」の3つが表示されている。フラットな長いベンチでくつろぎ、柔らかいボールなら未就学児は遊ぶことができる。地元住民による屋台が出店したり、パークトラックがやって来たりなどして、人々が集う――。そんな公園の姿を映し出している。住民による花壇づくりが行われた西巣鴨二丁目公園では、この3つに「育てる」という表示板が加わる。

 新しくなったモデル2公園の空間やサイン、ベンチやデッキ、屋台などのデザインは良品計画がトータルで監修している。

「禁止ではなく、できるを伝えるサイン」の部分拡大。「できること」についての表示は、住民で話し合って追加していくことができる。「育てる」は、住民が花壇の世話をしている西巣鴨二丁目公園独自の表示だ(写真:日経BP総研)
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「禁止ではなく、できるを伝えるサイン」の部分拡大。「できること」についての表示は、住民で話し合って追加していくことができる。「育てる」は、住民が花壇の世話をしている西巣鴨二丁目公園独自の表示だ(写真:日経BP総研)
■「公園でできること」の例
写真左から住民がつくった花壇(西巣鴨二丁目公園)、簡易卓球台でのピンポン、防災かまどでの焼きマシュマロは子供たちに大人気だ(上り屋敷公園)(写真:3点とも日経BP総研)
■「公園でできること」の例
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■「公園でできること」の例
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■「公園でできること」の例
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住民との「井戸端かいぎ」で公園を育てる

 モデル2公園のリニューアルオープンの日、両公園では、町会長から小学生まで参加した、地元住民による「井戸端かいぎ」が開催された。「水鉄砲で水の掛け合いがしたい」「夜に怖い話の会をやりたい」「野菜を育ててみんなで食べたい」――。新しくなった公園で何をしたいかをテーマに、様々な意見が飛び交った。西巣鴨二丁目公園では、地元住民主体で、今後の会議の継続についての話し合いも具体的に進み始めている。

井戸端かいぎの様子(左が上り屋敷公園、右が西巣鴨二丁目公園)。小学生から町会長まで「公園でやりたいこと」を語り合った(写真:2点とも日経BP総研)
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井戸端かいぎの様子(左が上り屋敷公園、右が西巣鴨二丁目公園)。小学生から町会長まで「公園でやりたいこと」を語り合った(写真:2点とも日経BP総研)
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井戸端かいぎの様子(左が上り屋敷公園、右が西巣鴨二丁目公園)。小学生から町会長まで「公園でやりたいこと」を語り合った(写真:2点とも日経BP総研)
出た意見はグラフィック・レコーディング(イラストを多用した議事録)の手法を用いてその場で整理(写真:日経BP総研)
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出た意見はグラフィック・レコーディング(イラストを多用した議事録)の手法を用いてその場で整理(写真:日経BP総研)

 この井戸端かいぎは、リニューアル前から両公園でそれぞれ数回開催され、公園の在り方について検討を進めてきた。主な参加メンバーは地元住民、区の職員、良品計画の担当者だ。

多様な意見を集めるため、平日の夜にも「井戸端かいぎ」を開催した(写真:三上美絵)
多様な意見を集めるため、平日の夜にも「井戸端かいぎ」を開催した(写真:三上美絵)
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 多様な人の意見を聞くため、昼間の公園だけでなく平日の夜、午後7時から池袋駅近くのとしま産業振興プラザ(IKE-Biz)で、上り屋敷公園の井戸端かいぎを開いたこともある。公園周辺の住宅へチラシをポスティングしたりSNSで参加を呼びかけたりした結果、地元の商店主や会社帰りに直行したビジネスマン、主婦、ベビーカーを押した子ども連れの母親、大学生など、狙い通り属性も年齢も様々な人たちが集まった。当日は用意した30席では足りず、区の職員が慌てて椅子を追加するシーンも見られた。

 井戸端かいぎでは、会議開催と併せて、公園を訪れていた人を対象として「どう過ごしたいか」を問う投票を行ったりもしている。投票の結果、公園では「くつろぐ」ことのニーズが高いことが分かった。モデル2公園で採用されたデッキや仕切りのないベンチは、こうした声も反映したものだ。

 最近の公園のベンチは、人が横になれないように一人掛けの幅でひじ掛けを付けているものが多い。だが2公園では、あえて寝そべったりもできるフラットなものを採用している。それで問題が起こったら、また皆で話し合って対処すればよいという判断だ。

上り屋敷公園のシンボルツリーの周囲をでぐるりと囲んだ木製ベンチ。今回モデル2公園に設置したベンチやデッキは、「くつろぐ」ことを重視し、あえて仕切りを付けていない(写真:日経BP総研)
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上り屋敷公園のシンボルツリーの周囲をでぐるりと囲んだ木製ベンチ。今回モデル2公園に設置したベンチやデッキは、「くつろぐ」ことを重視し、あえて仕切りを付けていない(写真:日経BP総研)
リニューアル前のシンボルツリーの根元部分(上り屋敷公園 写真:豊島区)
リニューアル前のシンボルツリーの根元部分(上り屋敷公園 写真:豊島区)
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公園などで一般的に見られる「仕切りがあるので寝そべることができないベンチ」の例(写真:日経BP総研)
公園などで一般的に見られる「仕切りがあるので寝そべることができないベンチ」の例(写真:日経BP総研)
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 住民の声を取り入れて機能を減らした部分もある。上り屋敷公園の木を取り囲む丸いベンチは、当初は小さなステージにもなるような奥行のあるものにするプランだったが、「それはいらない」という住民の声によって、普通サイズの奥行きのベンチになったという。

良品計画ソーシャルグッド事業部の林巧スペースグッド担当課長(写真:北山宏一)
良品計画ソーシャルグッド事業部の林巧スペースグッド担当課長(写真:北山宏一)
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 この井戸端かいぎで、行政と住民の「つなぎ」の役割を果たしたのが、良品計画の担当者たちだ。住民と行政職員が対面すると、どうしても苦情や要望といった対立構造になってしまいがち。そこで、良品計画の担当者がファシリテートする形で会議に加わった。「行政と住民の間に我々が入ることで、前向きな議論がすすめられれば」と、良品計画ソーシャルグッド事業部の林巧スペースグッド担当課長は説明する。

小さな公園をパークトラックが巡回、まずは試運転

 パークトラックは、今回は「試運転」という位置付けだ。例えばカフェとして使用するなら、小さな公園でどの程度売り上げが見込めるのかといった、リアルな場での実証的な検証もさらに積み重ねる必要がある。将来的にはカフェだけでなく遊具やテントなど、公園で使える様々なモノを搭載して小さな公園を回る構想もある。

カフェ店舗として活躍するパークトラック(上り屋敷公園 写真:日経BP総研)
カフェ店舗として活躍するパークトラック(上り屋敷公園 写真:日経BP総研)
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普段のパークトラック。天井を下げ、備品類を収納して移動する(写真:豊島区)
普段のパークトラック。天井を下げ、備品類を収納して移動する(写真:豊島区)
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 公園緑地課の藤井直氏は、「(アイデア段階だが)飲食提供などのサービスを清掃などの管理と抱き合せにできないかと考えている」と語る。小規模な公園の場合、1カ所ごとに指定管理者を設定するわけにはいかないが、飲食サービスの巡回のついでに掃除をしてもらえれば、というわけだ。

 一方で「販売行為をどこまで許すかは慎重に考えるべき。黒船的に地域外からの事業者を入れて、地域の商売をつぶすようなことになってはいけない」(宮田氏)といった懸念もある。「公園の利用率向上や利用者の満足度を上げることを優先するべき。販売は例えば腕試しとして小商いを始めたい地元の人や福祉事業者に限るなど、区としてのポリシーが必要だ」と宮田氏は続ける。

利用されていなかった小規模公園

「小規模公園活用プロジェクト」を立ち上げた豊島区マーケティングコミュニケーション専門監の宮田麻子氏(写真:北山宏一)
「小規模公園活用プロジェクト」を立ち上げた豊島区マーケティングコミュニケーション専門監の宮田麻子氏(写真:北山宏一)
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 豊島区の「小規模公園活用プロジェクト」は、いきなり今回の2公園リニューアルに至ったわけではない。

 「小さな公園に目を向けるべき」という問題意識の下、宮田氏らはまず小規模公園の現地調査を行った。すると、これらの小さな公園はあまり利用されていない実態が明らかになった。その理由について宮田氏は「一番のネックは、禁止事項が多過ぎることではないか」と指摘する。犬の散歩禁止、花火禁止、ボール遊び禁止…。看板に列記された禁止事項をすべて守ると、できることがほとんどないということにもなりかねない。

 管轄する都市整備部公園緑地課としても、小さな公園の維持管理は悩みのタネだった。「小規模公園は住宅に近接していることから、『若者がたむろしてうるさい』などの苦情が多く、迷惑施設とすら思われている面があった。点在しているため管理しづらく、整備する予算も少ない」(同課の藤井氏)。

 もう一度、住民たちに近所の公園を利用者してもらうにはどうすべきか。宮田氏は「住民同士でルール決めをすれば、いろいろなことができるようになる」と考えた。例えば、柔らかいボールなら使ってもよいことにしたり、月に1回だけ花火ができる日を定めたりしたらどうだろう。公園に来たいと思う人は増えるのではないか。

 そんな思いから、区は2017年度に社会実験などソフト面の検討を実施する費用として340万円を予算化し、「小規模公園活用プロジェクト」を立ち上げ、公園ごとに使い方の見直しを開始した。「“〇〇禁止”ではなく、“○○できる”を伝えること目標として」(宮田氏)、いくつかの小さな公園を使ったパイロット事業などを展開していった(豊島区の情報発信サイト「としまスコープ」の「都会の”小さな公園”を楽しむ実験、はじめました。」などを参照のこと)。

 2018年度には、まちづくり事業を手がけるコトラボ(現・パークフル)との協業により、区内164カ所の公園の実態調査を実施(関連記事)。この調査結果などから、上り屋敷公園、西巣鴨二丁目公園をモデル公園として2019年度、モデル公園の整備費として約3000万円を予算化。「小規模公園活用プロジェクト」は本格スタートを切ったのである。

 井戸端かいぎで話し合った内容をもとに、宮田氏らは公園の活用について、次の3つの方向性を打ち出した。

  1. 今あるものを活かし、できることを見出す(施設設備の整備は作りこみすぎず最小限に)
  2. 公園の特性と立地を活かし、地域のための場になるように見直す
  3. 活用の実践と実験を繰り返す

 手探りながらも、住民との直接対話の場づくりに乗り出した豊島区。このプロジェクトは、小規模な公園を数多く抱える他の自治体でも参考になりそうだ。宮田氏は「良品計画の持つ『場をデザインするノウハウ』を蓄積し、区として新たな合意形成の手法を見いだせればと考えている」と熱を込めて語った。

 今後、モデル2公園でどのように「3.活用の実践と実験を繰り返す」のか。そして、この3つのコンセプトを、他の小規模公園にどう展開していくのか。モデル2公園は“小規模”な公園としては広い部類に入る(上り屋敷公園:面積2982.68m2、西巣鴨二丁目公園:面積1357.83m2)。児童遊園のようなもっと小さな公園においては、どんなやり方が考えられるのか。現在進行形のこのプロジェクトに、引き続き注目してきたい。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/122600134/