「Beyond Health」2020年7月17日付の記事より

 宮城県仙台市は、「HealthTech(ヘルステック)推進事業 2020」のキックオフイベントを2020年7月14日に開催した。東北大学病院が洗い出した仙台市の健康課題や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を踏まえた5つの課題を対象にビジネスアイデアを募集する。優れたビジネスプランに対しては、2021年度の製品化・サービス化を支援していく。

 HealthTech推進事業は、ヘルスケア領域の課題をITで解決することを目指してフィリップス・ジャパンと協力し2019年度から実施している。2020年度は、新たに東北大学病院をパートナーに迎え、産学官の連携でヘルスケア関連の製品やサービスの開発を支援するオープンイノベーション環境を提供していくという。

「バイオデザイン」のノウハウを提供

 仙台市や東北地方は、全国に先駆けて高齢化が進展していることや、メタボリックシンドローム該当者が多いことから、「健康課題先進地である」と仙台市長の郡和子氏は位置づける。この課題を世界に先んじて解決し、国内外に通用するサービス創出を目指したイノベーションの取り組みがHealthTech推進事業だ。

宮城県仙台市 市長の郡和子氏(写真:キックオフイベントの画面キャプチャー)
宮城県仙台市 市長の郡和子氏(写真:キックオフイベントの画面キャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]

 2019年度は63社の企業から143人が参加し、多くのビジネスアイデアが生まれたという。今後はそのうちの6社に参加してもらいながら、製品化・サービス化を目指していく。

 2020年度に募集する5つのテーマは、具体的に(1)学童の塩分摂取、(2)特定健康診査・指導、(3)老々介護、(4)生活の習慣、(5)コロナ禍での介護現場への人の往来、である。応募締め切りは2020年8月11日17時としている。

5つの募集テーマ(出所:キックオフイベントの発表資料)
5つの募集テーマ(出所:キックオフイベントの発表資料)
[画像のクリックで拡大表示]

 応募企業のうち選考を通過した10社には、医療機器の開発手法である「バイオデザイン」の講座を通じた開発ノウハウを提供する。このほか、専門家によるアドバイスや東北大学病院などの医療現場を訪れる機会などを提供し、「企業のイノベーションを応援していきたい」と郡氏は話す。

5つのテーマの詳細は…

 今回の5つの応募テーマは、仙台で行う意義や社会に対するインパクトの大きさ、事業化に資するかなどを加味して決定したという。

 (1)の学童の塩分摂取については、文部科学省が年齢に応じた塩分の適正摂取量のガイドラインを公表している。しかし、適正基準値を超えた塩分を摂取している小中学生が多いというデータも公開されており、課題として設定した。単に適正値に数値を合わせるように塩分を減らすだけでは、濃い味付けに慣れている子供が食事を取らなくなってしまう恐れがあるため、おいしさや食事の進み具合を考慮したアイデアを求めるという。

 (2)の特定健康診査・指導では、メタボリックシンドロームの該当者が多い仙台市や宮城県特有の課題解決に挑む。実は、仙台市の特定健康診査の受診率は年々向上しており、全国平均と比較しても高いことが分かっている。一方、受診後の特定保健指導の終了率は全国平均と比較して低いという課題があるため、これをオープンイノベーションで解決していきたいとしている。

 (3)の老々介護は、あらゆる地域で課題になっているが、今回は、介護する側が自分らしく生活できるための策に焦点を当てるという。具体的には、介護する側の「住まいや生活環境」「家族以外との人間関係」「生きがいに関すること」などの悩みやストレスを軽減するアイデアを募集する。介護する人とされる人の双方の生活をテクノロジーで支援したい考えだ。

 (4)の生活の習慣では、特定健康診査のデータから、喫煙や運動、食事、飲酒などの、直したいけれど直せない生活習慣についての傾向を分析した。その結果、仙台市では「週3回以上就寝前に夕食を取る」人が多いことが分かったという。こうした仙台市ならではの生活習慣を改善するアイデアを募集する。

 (5)のコロナ禍での介護現場への人の往来については、COVID-19の影響で、多くの介護事業者が一時休業し、介護現場への人的資源や家族のアクセスが制限される事態となった。介護現場での安全性を担保しながら、介護者や家族がアクセスできるようにするため、ITの力を活用したアイデアで解決を目指していきたいとしている。

医療現場がイノベーションの拠点に

 2020年度から新たにHealthTech推進事業に参画した東北大学病院 病院長の冨永悌二氏は、「新しい医療は医療者だけでは作れない。企業や自治体と一緒になって創出していく必要がある」と意気込む。

東北大学病院 病院長の冨永悌二氏(写真:キックオフイベントの画面キャプチャー)
東北大学病院 病院長の冨永悌二氏(写真:キックオフイベントの画面キャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]

 東北大学病院は、かねて企業との連携を進めてきた。産学連携の取り組みの一つとして、東北大学病院臨床研究推進センターにバイオデザイン部門を設置し、企業で働く人が直接医療現場に入ってニーズを探索できる機会を設けている。過去5年で45社の企業を受け入れ、6件の新規事業と18件の特許出願につながった実績があるという。

 例えば、金属加工のめっき技術を持つ企業は、体温調節整水槽や排水まわり、感染制御チームなどの現場を見学し、医療機器の洗浄に着目。同社の技術を生かして、手術機器洗浄液を商品化した。「百聞は一見に如かず。企業の方に臨床現場を見てもらえたから製品化に至った」と冨永氏は振り返る。

 2020年からは、これまで病床として使っていた場所をテストベッドとして企業に提供し、製品化や実用化を支援する「OPEN BED Lab」を開設した(関連記事:あの東北大学病院が企業向けに病床を開放)。これは、フィンランドのオウル大学病院の取り組みを参考にしたといい、医療機関の内部に企業が入ることによって、産学連携で先進的に課題解決に取り組むことを狙う。企業にとっては、すぐそばで医療者が働いているため、評価やアドバイスを受けやすいなどのメリットがある。

フィリップス・ジャパン 代表取締役社長の堤浩幸氏(写真:キックオフイベントの画面キャプチャー)
フィリップス・ジャパン 代表取締役社長の堤浩幸氏(写真:キックオフイベントの画面キャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]

 こうした取り組みを受けて、当初からHealthTech推進事業に協力しているフィリップス・ジャパン 代表取締役社長の堤浩幸氏は、今後は医療機関の位置づけが変わると見る。医療機関が生活の中心かつイノベーションの拠点になるとし、「実際の医療現場に行ければ、机上の議論では分からないことが見えてくる。この環境を生かさなくてはいけない」と強調した。

 連携によって創出した製品やサービスを国外にも届けたい東北大学病院にとっては、フィリップス・ジャパンのようなグローバル企業と医療を作れることが「千載一遇のチャンス」(冨永氏)だとする。医療現場のニーズやアイデアを同社のグローバルな視点で検証したい考えだ。

(タイトル部のImage:キックオフイベントの画面キャプチャー)

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/news/072101636/