八王子市は、2017年度から19年度に実施したSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)事業「大腸がん検診受診・精密検査受診率向上事業」の最終報告書を公表した。これは、同市と、事業を手掛けたキャンサースキャン(東京都品川区)、中間支援組織ケイスリー(東京都渋谷区)との共同執筆によるもの。併せて、今後、他の自治体も実施を検討する際に使える、「大腸がん検診支払い条件試算ツール」を公開した。

「大腸がん検診支払い条件試算ツール」画面(部分)(資料:八王子市)
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 事業は、大腸がん検診の受診勧奨と、精密検査の受診勧奨の2段階で実施した。まず17年度に、前年度の大腸がん検診未受診者から1万2162人を選定、過去の問診結果に基づいたオーダーメイドの受診勧奨を送付。さらに、検診で精密検査が必要と判定された全員(3119人)のうち、受診が確認できない人に対して、おのおのの検査結果を示して大腸がんリスクを訴える受診勧奨を送付した。

オーダーメイドの受診勧奨のサンプル(最終報告書概要版より)
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実施スケジュール(最終報告書より)
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 17年度の大腸がん検診については18年度に成果を測定。目標上限の19%を上回る26.8%を達成し、上限額の244万1000円が支払われた(関連記事)。精密検査については19年度に成果を測定。こちらは目標下限の79%を超える82.1%(目標上限値87.0%)で、達成度に応じた296万円(上限額488万円)が支払われている。3つ目の成果指標として早期がんの追加発見者数(1人以上)を設定したが、これは目標に達しなかった。以上の合計で、市の予算上限額976万2000円に対し、実際の支払いは540万1000円だった。

八王子市の予算計上(債務負担行為)と支払い額(最終報告書より)
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市は独自事業として受診勧奨を継続

 事業に用いた評価指標の根拠は、八王子市の12年6月から16年8月までの実医療費から算出した医療費削減効果で、1人当たり187万2514円としていた。しかし、19年度にキャンサースキャンが京都大学大学院医学研究科と精査したところ、大腸がん早期発見1人あたりの医療費削減効果は614万9000円に上っている。

 報告書では、これらの分析結果に基づいて上記の「大腸がん検診支払い条件試算ツール」を用いて今回の成果を計算し直すと約3914万4000円となることから、予算上限の約1000万円を支払っても「十分な医療費適正化効果があった」としている。

 成果指標の設定については課題も指摘された。大腸がん検診の成果指標には勧奨を行った人の受診率を用いたことについては、本来の目的に照らせば前年未受診者全員の受診率を用いる必要があると指摘。また、早期がんの発見者数は年度ごとの変動が大きく、成果指標には適さないとした。

 SIB事業の在り方などについても提言なされている。報告書では、事業者の資金力で対応できる程度の事業規模であれば、SIBによる資金調達は不要だとした。さらに、今回のように医療費削減効果が明らかな事業は、民間の資金を募るSIBではなく、広域行政(国や都)がPFS(Pay For Success:成果連動型民間委託契約方式)事業として実施することを要望している。

 大腸がん以外の他のがん検診への展開については、現状すぐに進められる段階にはないようだ。報告書では、受信者数やがん罹患例の発見の多さ、検診費用の点などから「他のがん検診が、必ずしも、大腸がんのように便益が出るかは不明」であるとした。ただし、他のがんについても「早期がん発見と進行がん発見の医療費の差分を確認し、事業を可視化していくことは重要」とその必要性を展望している。

SIB事業の推進体制(最終報告書より)
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 八王子市では、18年度以降も市の独自事業として前年度大腸がん検査未受診者への受診勧奨と精密検査未受診者への受診勧奨を続けている。18年度の大腸がん検査受診率は19.3%で、SIB事業の受診率には及ばなかったものの、目標上限の19%を上回った。勧奨経費は216万8215円だった。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/news/120701799/