「日経デジタルヘルス」2018年12月11日付の記事より

 公的医療データや生体情報などのビッグデータを解析することで疾患を予見し、個人の生活の質向上につなげる――。 2016~2018年度を実施期間とする内閣府のImPACTプログラム(革新的研究開発推進プログラム)「社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォーム」が、11月21日に開催された「2018年度シンポジウム」(主催・内閣府、科学技術振興機構)で3年間の成果を報告した。

ImPACTプログラム「社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォーム」2018年度シンポジウムの様子
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 ImPACTプログラムは、現状のビッグデータ処理をはるかにしのぐ「超ビッグデータプラットフォーム」を構築し、国や地域の公的医療データ、家庭での計測データを活用した健康寿命延伸と医療費削減に役立てる「ヘルスセキュリティ」の実現と、工場群をネットワーク化したときのサイバー攻撃を防ぎながら生産性と利益向上を支援する「ファクトリセキュリティ」の社会応用を目的として、それぞれ開発を進めてきた。

 プログラム・マネージャーを務める原田博司・京都大学大学院教授は、「医療に関しては、基本的にすべてのデータを時系列化し、個人のクオリティー・オブ・ライフ(生活の質)を向上させようという狙いがあり、患者本人だけではなく家族や社会全体のクオリティー・オブ・ライフ向上につなげていく」と全体説明の中で報告した。

 ヘルスセキュリティではまず、永井良三・自治医科大学学長が「心臓病統合ビッグデータの社会実装」をテーマに報告した。自治医科大学など6つの病院のカルテから約8000例のカテーテル治療を行った患者のデータを分析することで、使っている医療器具や処方箋の薬の数といった実態を見える化したという。さらに患者ごとに、どんな(疾患などの)イベントがいつごろ起きるかを予測できるとしている。「個別化や予見が可能になり、これを積み上げれば医療システムの制御に使える」(永井学長)とまとめた。

 続いて、苅尾七臣・自治医科大学医学部教授は、「ICT環境・血圧モニタリングシステムの構築から循環器疾患予見モデルへ」をテーマに報告した。「個人の環境や置かれてる環境、そこからの生体情報をより精緻に秒単位で時系列して、次に起こるイベントを予見し、ビッグデータを個人レベルでどう活用するかに取り組んだ」(苅尾教授)。そこで血圧に着目し、血圧を24時間測定するとともに気温や気圧もモニターできる血圧計を開発。500人ほどのデータを取得し、イベントを起こすリスクを予測できたとしている。「リアルタイムに環境情報や生体情報を取りながら、いつどこでイベントを起こすか、これをリアルタイムに予見し、主治医および患者さんに返していき、全国どこにいてもイベントのゼロを目指す」(苅尾教授)という。

地域医療政策の創出をテーマに報告

 満武巨裕・医療経済研究機構研究副部長/上席研究員は、「医療・介護ビッグデータ基盤と分析ツールを利用した地域医療政策の創出」をテーマに報告した。三重県の29市町および後期高齢者医療広域連合から地域の医療・介護・健診に関するビッグデータを取得・分析したところ、住民がどこの医療機関に行っているかや、特定の診療報酬点数の加算がどこの病院で使われてるかといったことを可視化できたという。「可視化ツールを保健所や地域医師会などに提供している。自治体からは出産・育児のデータや生活保護のデータも一緒に分析してくれないかという話が来ている」(満武副部長)と今後の取り組みへの期待を話した。

 康永秀生・自治医科大学特別特命教授(東京大学大学院教授)は、「ビッグデータを用いた医療の可視化と罹患・重症化リスク分析」をテーマに報告した。主に熊本県などからレセプトデータを集めて時系列化し、匿名化IDによって医療体制の可視化や個人レベルの重症化予測モデルの構築に取り組んだ。重症化予測モデルの構築の実用化にはまだ時間がかかるが、肺炎の重症患者をどの程度延命治療をすればいいかが予測できるようになるという。「この予測モデルを脳卒中や骨折、心不全などに広げていく」(康永特別特命教授)としている。

 最後に、橋本英樹・東京大学大学院教授が、「ビッグデータによる医療・介護需要将来予測とその社会実装」をテーマに報告した。シミュレータを開発し、国民生活基礎調査や人口動態統計、国勢調査の個票などなどを組み合わせ、心臓病や脳卒中など14の疾患や障害の状態や次に新しい病気が発生する確率を計算した。その結果、高齢者は増えるが、脳卒中と心臓病の患者数は減る。一方で、糖尿病は現在の予想よりもっと多くなるといった結果になった。「シミュレータの情報公開サイトを開設しており、政策効果だけではなく、新規技術を導入した場合のバジェットインパクトの計算などができると期待している」(橋本教授)という。

 シンポジウムには約240人が参加し、プロジェクトの成果報告に耳を傾けるとともに、携帯型自動血圧計などの実機やデモンストレーションなどの展示コーナーで説明員に熱心に質問していた。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/news/121100983/