2020年1月24日、北九州市はNTTドコモと5G時代をにらんだ連携協定を締結した。連携協定により、同市はビッグデータによるまちづくり推進を目指す。関連して同日夜、小倉城天守閣を会場に、市、NTTドコモ、地元スタートアップ企業が語り合うイベント「5G×北九州 近未来の最前線 ミートアップ」が開催された。

ビッグデータを解析し観光振興策立案に役立てる

 「5G×北九州 近未来の最前線 ミートアップ」では、連携協定によるまちづくりの取り組みの説明、5Gによって期待できる未来の地域産業の姿などが語られた。

 連携協定による最初の取り組みは、全国初となる官民データ連携の実証実験だ。北九州市が保有する観光施設などの利用情報データと、NTTドコモの携帯電話の位置情報・顧客属性を掛け合わせて解析する。目的は「EBPM(Evidence Based Policy Making)」、すなわち「証拠データに基づく政策立案」だ。2019年2月〜20年2月の約1年分のデータを対象に、2月〜3月に解析を実施、市の観光振興政策の立案に役立てる。

ビッグデータ活用などにより、観光振興などでEBPMを目指す。(北九州市の投影資料より)
ビッグデータ活用などにより、観光振興などでEBPMを目指す。(北九州市の投影資料より)
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 また、20年夏頃には、JR小倉駅周辺に、遠隔ミーティングができるコワーキングスペースが民間団体によって開設される予定だ。NTTドコモの協力により、5Gが実現するxR(VR=仮想現実、AR=拡張現実、MR=複合現実などの総称)を活用し、リモートワークとリフレッシュを兼ねた「ワーケーション」を提供する。市は広報協力やイベント共催などで支援。市外からの来訪者を増やし、将来の移住・定住につなげる狙いだ。

ワーケーション来訪者が増えるような環境を5Gの活用などで整備し、関係人口拡大を狙う(北九州市の投影資料より)
ワーケーション来訪者が増えるような環境を5Gの活用などで整備し、関係人口拡大を狙う(北九州市の投影資料より)
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 さらに、小倉城では「xR」活用による実証イベントを開催する。宮本武蔵と佐々木小次郎の「巌流島の決闘」をリアルに体感できる再現プログラムなどを予定している。

北九州市企画調整局の安永真一郎氏(写真:萩原詩子)
北九州市企画調整局の安永真一郎氏(写真:萩原詩子)

 北九州市企画調整局地方創生推進室 特区・国際人材担当課長の安永真一郎氏は「5G時代ならではのコンテンツが勝負。歴史的・文化的資源を最先端技術で活用していく」と語る。

 市民や経済界の情報リテラシー向上にも取り組む。「技術革新によって、われわれを取り巻く環境も、経済のルールも激変している。そのことを個人や企業が認識し、行動を変えていく機会を提供したい」と安永氏。IoTやAI、5Gなどをテーマとした勉強やセミナー、アイデアソンを実施する計画だ。

連携協定による北九州市とNTTドコモの取り組み(NTTドコモの投影資料より)
連携協定による北九州市とNTTドコモの取り組み(NTTドコモの投影資料より)
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ドコモは20年春に5G商用サービス開始、北九州市と連携

NTTドコモの本高祥一氏(写真:萩原詩子)
NTTドコモの本高祥一氏(写真:萩原詩子)

 基調講演には、NTTドコモ法人ビジネス本部 法人ビジネス戦略部長の本高祥一氏が登壇。「5G時代のビジネス創出に向けた取り組み」を語った。

 「5Gは4Gの20倍という“高速・大容量”が注目されるが、それは特徴の一つに過ぎない。“低遅延”、すなわちタイムロスがないこと、デバイスの“多数接続”という特徴もある。5G単独で何かができるわけではなく、人体に例えれば頭脳に相当するAI、手足に相当するIoTとの組み合わせが必須で、これをつなぐ神経系統が4Gから5Gに変わると考えればよい」

 総務省は、5G普及の優先順位を、4Gまでの人口カバー率から「事業展開の可能性」に転換する方針を示している。「つまり、都市・地方を問わず、必要とされる場所から適切な機能を展開していくということ。5Gの低遅延性は遠隔医療や自動運転において特に重要だ。僻地の病院や技術革新が求められる農地など、社会課題を抱える地域から始めていく」と本高氏。NTTドコモは、2020年春の5G商用サービス開始を目指す。

 本高氏は、九州でのNTTドコモの5Gの取り組み(実証)事例として、熊本県阿蘇市における給電ドローンによる4K映像伝送、ハウステンボス(長崎県佐世保市)でのロボットガイドや車いす自動運転の実証実験、沖縄でのMRによる歴史的建造物の再現体験コンテンツ配信を紹介。給電ドローンは長時間連続飛行が可能で、高精細の映像を伝送することにより、災害時の被害把握や負傷者・不明者の捜索に役立つ。

5Gを活用したNTTドコモの取り組み例:阿蘇市で給電ドローンによる4K映像伝送を行った(NTTドコモの投影資料より)
5Gを活用したNTTドコモの取り組み例:阿蘇市で給電ドローンによる4K映像伝送を行った(NTTドコモの投影資料より)
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 NTTドコモは日本の人口の3分の2強をカバーする7000万人の会員を持ち、3万項目のデータ(利用者の許諾を得た上で、匿名性を担保したもの)を保有する。既に企業との連携では、タクシーの需要予測、飲食店の売り上げ予測などで成果を挙げている。自治体では初となる北九州市とのデータ連携を通じて「産官学で新しい価値を協創していきたい」と本高氏は語った。

ローカル5Gで地域の製造業復活の可能性

 本高氏は「ものづくりの町・北九州では、クローズドなネットワークであるローカル5Gが有効だ。これまでICTに取り残されがちだった製造業において、コストを抑えながら付加価値を高めるためのトリガーになるはずだ」という。

 「ローカル5G」とは、自治体や企業など通信事業者以外が自ら構築するネットワークで、インターネットにつながらない“独立性”、必要な場所・期間に対応できる“柔軟性”、通信障害などの影響を受けにくい“安定性”を特徴とする。機械の遠隔操作やテレワークなどへの活用が期待されている。

ローカル5Gの概要と用途例(資料:総務省「第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望」〔2019年6月〕より)
ローカル5Gの概要と用途例(資料:総務省「第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望」〔2019年6月〕より)
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 この日ファシリテーターを務めたコワーキングスペース秘密基地(北九州市小倉北区)代表の岡秀樹氏は次のように補足する。「これまで、ものづくり産業はICTと相性が悪かった。なぜなら、インターネットにつながると、国際特許などの高度な企業秘密が流出する恐れがあるからだ。しかし、ローカル5Gの登場で、セキュリティーの高い高速ネットワークが構築できるようになる」

左から、コワーキングスペース秘密基地代表・岡秀樹氏、本高氏、リョーワR-Vision事業部 事業部長・津田貴史氏、Houyou代表取締役社長・福岡広大氏、カラビナテクノロジー執行役員・森正和氏、CAVIN代表取締役社長/CEO・Yuya Roy Komatsu氏
左から、コワーキングスペース秘密基地代表・岡秀樹氏、本高氏、リョーワR-Vision事業部 事業部長・津田貴史氏、Houyou代表取締役社長・福岡広大氏、カラビナテクノロジー執行役員・森正和氏、CAVIN代表取締役社長/CEO・Yuya Roy Komatsu氏
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 地元企業からの期待も大きい。

 不良品を抽出するAI外観検査システムを供給するリョーワ(北九州市戸畑区)だ。同社R-Vision事業部 事業部長の津田貴史氏は「現在は工場の1ラインに1台ずつ、約800万円のAI 機器を設置しているが、ローカル5Gならサービスとして提供できるので、月額1万円程度で済むようになる」と語る。遅延がないので作業機械の遠隔操作も実用化できる。「産業構造ががらりと変わる可能性さえある」(津田氏)。

 IT事業やコワーキングスペースの運営を手掛けるHouyou(北九州市小倉北区)の代表取締役社長・福岡広大氏は、新たな事業として災害時の復旧・復興支援に取り組んでいる。ここ2〜3年、水害などが起きた場所にボランティアに赴き、実情を見てきたという福岡氏は「被災地では、衛生面や安全面から人手による作業が困難な場合がある。5Gとロボットやドローンを組み合わせれば、スムーズな復旧作業が可能になる」と語った。

 システム・アプリ開発やWebサイト制作のカラビナテクノロジー(福岡市中央区)執行役員の森正和氏は「ローカル5Gとインターネットを組み合わせることで、セキュリティーが重要なデータと、オープンなソースをミックスしたマーケティングプロダクトを提供できる」と語る。

 CAVIN(福岡市中央区)は、花農家と小売店が直接取引できるサイトを構築している。代表取締役社長/CEOのYuya Roy Komatsu氏は「花の会社がなぜ5G? と疑問に思われるかもしれないが、実は活用の場は多い」という。「まず、日本の優れた生産技術を、ウェアラブルデバイスを利用して東南アジアなどに輸出できる。そして物流。自動運転の実現には大いに期待している」。

 会場には、ARとVRを組み合わせたMR端末も用意され、議論の後に体験会も行われた。事前に体験したファシリテーターの岡氏は「5Gでは“空間の伝送”ができる。これまでのリモート会議は2Dの対面だったが、5Gなら異空間で直接出会うかのような体験ができる。情報量がまるで違う」と語る。カラビナテクノロジーの森氏は「5Gなら仕事も教育も、在宅のままで可能になる。時間の有効活用にもつながる」と指摘した。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/013100224/