SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、政府は国を挙げて取り組みを進めようとしており、SDGsに取り組む自治体が急速に増えている。そうした動きを受け、PPP(公民連携)を中心に行政コンサルティングを手掛けるブレインファームは、2021年1月26日に自治体職員向けのオンラインセミナーを開催。その中で同社代表取締役の新谷聡美氏が、SDGsの推進に向けて設立した一般社団法人、「地域未来づくり研究所」の代表理事として、環境省と内閣府のSDGs関連施策について、両者の違いや活用方法を解説した。

 「環境省版・内閣府版/2つのSDGsの違いと地方自治体が推進するコツ」と題するこの講演で新谷氏はまず、行政課題を解決するこれからの手法の一つとして、公民連携(PPP)とSDGsを組み合わせる“PPP×SDGs”が重要になり、その推進に向け、啓発活動や研究開発といった「収益性を前提としない取り組みも必要になる」と地域未来づくり研究所を設立した背景を述べた。

新谷聡美氏(ブレインファーム代表取締役、一般社団法人地域未来づくり研究所代表理事)(写真提供:ブレインファーム)

 続いて、SDGsには17の目標、その目標に紐付いた169のターゲット、進捗を図るために設けた232のグローバル指標があるといった基本知識を解説したあと、自治体や地方創生におけるSDGs達成に向けた取り組みの現状を解説した。

 政府は、首相を本部長とするSDGs推進本部を2016年に設置し、SDGs実施方針として「8つの優先課題」を策定。毎年更新する「SDGsアクションプラン」にも「SDGsを原動力とした地方創生」が盛り込まれるようになっている。

 併せて、内閣府は第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において、SDGsを原動力とした地方創生の推進を明言。SDGsの達成に向けた取り組みを行う自治体の割合を高める目標を掲げている。2019年度は13%で、2020年度は39.7%に達する見込みだが、2024年度には60%に増やす計画だ。

政府が策定した「8つの優先課題」(出所:地域未来づくり研究所)
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環境省と内閣府がそれぞれ役立つ情報を提供

 では、自治体はSDGsにどのように取り組めばよいだろうか。新谷氏は、環境省が提供する「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」(以下、“環境省版”)、そして、内閣府が提供する「地方創生に向けたSDGsの推進について」をはじめとする各種関連資料(以下、“内閣府版”)を活用することを推奨。「自治体は、“環境省版”と内閣府版”をうまく組み合わせることによって、地域課題や行政課題に対応したSDGsをより効果的に推進することができる。ぜひ両方を活用してほしい」と新谷氏は語った。

地元企業のSDGs推進支援に役立つ“環境省版”

 “環境省版”の特徴を新谷氏は3つ挙げた。「①民間企業(特に中小企業)がSDGsに取り組むためのガイドとなっている」「②中小企業による取り組みを啓蒙するために、SDGsの説明だけではなく、経営上のメリットが説かれている」「③取り組み手順や事例がわかりやすく説明されているが、マッピングやラベリングに陥りやすい危険性もある」である。

“環境省版”SDGsの3つの特徴(出所:地域未来づくり研究所)
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 民間企業向けのガイドとして構成されたのは、SDGsの達成には民間セクターとの連携が重要であるためだと新谷氏は解説する。具体的には、中小企業を含めた民間企業がSDGsの達成に取り組むモチベーションを上げるように、企業がSDGsに取り組む経営上のメリットを説いている。「経済産業省でもなく、中小企業庁でもなく、環境省が経営上のメリットについて解説する点が興味深い」と新谷氏は講演で指摘した。

 中小企業がSDGsの推進に取り組む経営上のメリットとしては、「企業イメージの向上」「社会の課題への対応」「生存戦略になる」「新たな事業機会の創出」の4つが挙げられている。例えば、「企業イメージの向上」によって、多様性に富んだ人材確保につながるという経営上のメリットがあるとする。

 このように、“環境省版”は直接、自治体に向けたものではないが、自治体が地元企業のSDGs推進を支援する際に役立つ。また、“環境省版”では中小企業の視点に立って、SDGsに取り組む際の課題やメリットを示すだけでなく、「PDCAサイクルによるSDGsの取り組み手順」といった進め方についても踏み込んで解説している。

 一方、留意点としては、SDGsにおける17の目標や169のターゲットを企業の活動に当てはめるマッピング、ラベリングだけに陥りやすいことが挙げられるという。“環境省版”には、主な企業活動をSDGsの目標に紐付ける早見表が載っている。便利だが、「SDGsのラベルを貼ってから、SDGsの達成に向けた活動をもっとよくすることが重要だ」と新谷氏は指摘した。

“内閣府版”は「総合戦略」との連動などが特徴

 “内閣府版”は自治体が直接参考にしやすいもので、新谷氏によると3つの特徴がある。「①総合戦略(まち・ひと・しごと創生総合戦略)と連動しているため、人口減少への対応と地域の活性化が中核に据えられている」「②登録・認証制度やSDGs金融など、地域の中業企業等を動かす仕組みが規定されている」「③モデル化できる特徴的な事業がクローズアップされる傾向にあり、真の地域課題の解決に役立てるには工夫が必要」といった点だ。

“内閣府版”の3つの特徴(出所:地域未来づくり研究所)
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 まず、第2期「総合戦略」は、「政策体系」に「地方創生SDGsの実現などの持続可能なまちづくり」を盛り込み、SDGsの実現を通じて、地方創生を推進することをより明確化している。そのための取り組みを幅広くまとめるとともに、前述したように、SDGsの達成に向けた取り組みを行う自治体の割合を2024年度は60%にする目標を掲げた。

 “内閣府版”では、専門部会の資料も公開されているが、自治体が地方創生SDGsの達成度を評価するとき参考になるものが少なくないと新谷氏は解説する。

 例えば、地方創生SDGs金融調査・研究会が提供する「地方創生SDGs取組達成度評価項目一覧」では、169の全ターゲットについて達成度の評価を自治体が行えるように、「地方創生SDGsの取組達成度評価」の案が示されている。

 また、自治体SDGs推進評価・調査検討会が提供する「地方創生SDGsローカル指標リスト」では、232の全グローバル指標を日本語に翻訳するとともに、日本の地方創生SDGsにおける進み具合を評価できるように「ローカル指標」を定義。そのローカル指標の計算に使うデータソースまでを示している。

「地方創生SDGsの取組達成度評価」「ローカル指標」の例(出所:地域未来づくり研究所)
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 「こうした評価項目、ローカル指標を参考にして、具体的な施策を練ることで、漏れがなく効果的なものすることができる」と新谷氏は指摘する。

「SDGs未来都市」に選ばれることだけを目標にしない

 内閣府による地方創生SDGsの取り組みとしては、「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」の選定といった施策もよく知られている。SDGs未来都市については2020年度までに93自治体が選ばれた。

 新谷代表理事は、SDGs未来都市に選定されることは良いことではあるが、「SDGs未来都市や自治体SDGsモデル事業の選定だけを目標にしてしまうと、SDGsを推進しても各地域の特性を生かした成果が生まれてこない可能性がある」と懸念を示した。

 そして新谷氏は、「誰一人取り残さない」など、SDGsのスローガンを示して講演を結んだ。

変更履歴
1ページ目の最初の段落に地域未来づくり研究所の設立経緯についての情報を追加しました。 [2021/2/17 8:30]

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/020400258/