内閣府は、成果連動型民間委託契約方式による事業(PFS: Pay for Success)の普及を目指し、2020年2月3日に都内で「PFSセミナー」を開催した。同セミナーの後半では、PFS事業を実施中の自治体担当者らによるパネルディスカッションが行われた。PFSの普及促進は2019年6月に政府が閣議決定しており、医療・健康、介護、再犯防止の3つを重点分野として2022年度までのアクションプランを2019年度中に策定することが決まっている。

堺市の介護予防事業、民間のアイデアで男性高齢者呼び込む

PFSは、成果に応じて支払額が変動する民間委託契約。成果指標と支払い条件をあらかじめ設定し、目標達成の度合いなどを評価して支払額を決める。パネルディスカッションでは全国に先駆けてPFSに取り組んでいる堺市、岡山市、福岡市が成果指標や支払い条件の設定方法などを語った。

パネルディスカッションの様子(写真:赤坂 麻実)
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 堺市が取り組むのは、要介護認定を受けていない前期高齢者を対象とした介護予防事業「あ・し・たプロジェクト」だ。「歩く、しゃべる、食べる」の3つを軸に、ウォーキングやパンづくり、木工の講座などの健康増進や社会参加につながるイベントを実施している。

堺市 健康福祉局長寿社会部地域包括ケア推進課の花家薫課長補佐(写真:赤坂 麻実)

 事業費は最大5434万円(うち1000万円が効果検証費用)。原資に介護保険の特別会計を利用しており、市の一般財源からは3年間で600万円を計上する。委託先は阪急阪神ホールディングス、ライフデザイン阪急阪神による事業グループ。介護給付金の縮減効果は約1億2000万円と想定している。

 成果指標は、総参加人数、継続的に参加している人の数、要介護状態になるのを遅らせることができたと推計された人の数の3つ。参加した人の実数や社会参加状況のほか、要支援・要介護リスク評価尺度や主観的な健康観なども用いて評価する。全事業費の40%を固定支払い分とし、残る60%を成果に連動させた。

■「あ・し・たプロジェクト」の支払い条件
(資料:堺市)
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 堺市健康福祉局長寿社会部地域包括ケア推進課の花家薫課長補佐は、説得力ある成果指標の設定や客観的な評価方法の確立が難しいと語った。「もともと元気な方に関して、将来予測に基づいて、要介護認定の改善や軽度化などの効果を算出するのは難しい。国などがビッグデータを用いて標準化した指標があれば、導入しやすかっただろうと思う。また、導入意義を市の財政当局に説明するのも難しかった。先行事例がなく、論点の整理や資料作成など、すべて手探り状態だった」。

 それでも、PFS導入の手ごたえをすでに実感しているという。「市が直接手がけるとマンネリ化しがちな介護予防の事業を、民間企業のアイデア、ノウハウで集客性あるものにしてもらった。元タカラジェンヌが教えるボイストレーニングなど、市では思いつかない多様なアイデアがある。おかげで、これまでは少なかった男性参加者の姿がイベント会場に多く見られた。高齢者の自主的な健康づくりにつながり、社会保障費を縮減できる確実な方法だと思う」(同)。

岡山市の健康ポイント事業、地元のヘルスケア産業が活性化

 岡山市は、PFSの一種で事業資金を民間から調達するSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)を導入し、35歳以上の市民・在勤者を対象に、健康ポイント事業「おかやまケンコー大作戦」に取り組んでいる。市内の150以上の店舗がポイント対象店となり、フィットネスジムの利用、ヘルシーなお弁当の購入、カルチャークラブ受講などに対してポイントを付与。ポイントは商品券などと交換できる。個人のほか、企業やグループでの参加も受け付け、成績上位の企業には健康経営の助成を行う。

岡山市 保健福祉局保健福祉部保健管理課健康寿命延伸室の矢吹大輔副主査(写真:赤坂 麻実)

 事業費は最大3億7000万円。プラスソーシャルインベストメントがSIBのファンド取扱者となり、地元企業や市民など23社・65人から合計3000万円を調達した。サービス提供事業者は、フィットネスジムやスーパーなどの地元企業13社。事業全体を管理する中間支援組織のPS瀬戸内、出資者である中国銀行や社会変革推進財団、サービス提供事業者などで「事業運営会議」を組織し、事業内容や出資金の配分などを協議している。

 事業成果の評価は、3年間に年1回ずつと最終評価の4回行うこととし、各年で異なる成果指標を設定した。1年目(2020年度)は参加登録者数、2年目は生活習慣改善の意識、3年目は週2回以上の継続者数、最終評価は健康状態の改善率(参加した当初、BMIが25以上の肥満だった人のうち、25未満になった人の割合など)。

■健康ポイント事業「おかやまケンコー大作戦」の成果指標は段階的なものに
(資料:岡山市)
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 岡山市保健福祉局保健福祉部保健管理課健康寿命延伸室の矢吹大輔副主査は、PFSを実施する際のポイントとして支払い条件の「難易度」を挙げた。「簡単に達成できるようでは、PFSの導入効果である企業努力の最大化が見込めなくなる。その意味で、行政は厳しい支払い条件を求めている。一方で、出資者や事業者は達成しやすい条件を望んでいる。慎重に、中間支援組織から意見を聞きながら設定した」。

 矢吹氏は導入の手ごたえについて次のように語った。「市民の健康づくりという社会的事業に“オール岡山”の投資を呼び込めたことがよかった。また、地元企業が生活習慣病の改善メニューを提供することで、ヘルスケア産業の振興にもつながっている。毎月の事業運営会議は、参画企業同士のビジネスマッチングの場にもなっている」。

福岡市の適正服薬推進事業、見えないところにも民間の創意

 福岡市は、2019~2021年度にかけて、PFSを導入した適正服薬推進事業を実施している。国民健康保険の被保険者のうち、服薬リスクがある人に服薬情報に関する通知書を送付し、医療機関や薬局への相談を促すことで服薬リスクの解消を目指す。重複服薬(複数の医療機関で処方された同種の薬の服用)、多剤投与、併用禁忌(飲み合わせてはいけない薬の服用)などの服薬リスクを抱える約8000人が対象だ。3年間に4回、通知書を送って各回で効果を測定する。実施事業者はヘルススキャン、中間支援組織はケイスリーで、第三者評価を九州大学が行う。総事業費は3年間で最大5760万円。

福岡市 保健福祉局生活福祉部保険医療課の小陳直子係長(写真:赤坂 麻実)

 市ではPFS導入に向けたデータを収集するため、2018年度にモデル事業を実施した。重複、併用禁忌の服薬者2000人を抽出し、そのうち1000人に通知書を送付。未送付の1000人と比較し、効果を分析した。この結果、送付群と未送付群で改善割合に20~30パーセントポイント程度の差が出たほか、医薬品にかかる1カ月の医療費が1人当たり6400円ほど減少したという。

■PFS導入に向けたモデル事業でデータを収集
(資料:福岡市)
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 モデル事業の結果を受けて、本事業では重複服薬と併用禁忌それぞれの改善割合、および医薬品にかかる医療費の削減割合を成果指標とした。福岡市保健福祉局生活福祉部保険医療課の小陳直子係長は、「市ではこれまでにもジェネリック医薬品に関する通知などを行ってきたが、どれほどの効果があったのか、確かめる術がなかった。今回は成果指標を設定して効果が明確になったことが意義深い。極端にいえば、仮にこの方法で効果が上がらないとしても、効果が上がらないことが分かるのは収穫だ」と話す。

 通知書を送付するシンプルな事業にも、民間事業者ならではの創意工夫が発揮されているという。「この事業は、通知書を受け取った人の自主的な改善に加えて、通知書を持った人が医療機関を訪ねた際に、医療機関側が処方を見直すかどうかが成否のカギを握る。医師会や薬剤師会への説明資料は、事業者と協力し合ってつくった。実際の説明は市職員が担当するが、関係者に理解を得るためのポイント整理などでサポートを受けた」(同)。

SIBの活用でスタートアップも市の事業に参画可能に

 インパクト投資の普及に取り組む社会変革推進財団の仲村裕子インパクト・オフィサーは、PFSやSIBについて「導入の敷居が高いと感じられるかもしれないが、取り組む価値はある。成果目標の達成に向けて、事業者のより積極的な取り組みを促すことができる」と話した。

社会変革推進財団の仲村裕子インパクト・オフィサー(写真:赤坂 麻実)

 特にSIBを導入する利点として、新しいことを始められる可能性が広がるとした。「通常の委託事業では、委託料が事業者に入るのは事業完了後になるが、SIBなら先に資金が入る。企業としての(財務の)体力はあまりないが、アイデアや技術を持ったスタートアップなども市の事業に参画できるようになる」(同)。

 PFS/SIBの導入プロセスで重要なことは、適切な評価指標が設定できているかどうか、実際にその指標で測定が可能かどうかを十分に検討することだという。「PFSなら、自治体の財政部門に説明する際に非常に重要になってくる。SIBの場合も、投資家に説得力のある説明をしなければいけない。その際、出資者や出資を検討している人のリスク許容度や投資目的などを把握して説明に当たることが重要だ」(同)。

■PFS/SIBの検討プロセス
(資料:社会変革推進財団)
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(資料:社会変革推進財団)
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 社会変革推進財団は、日本財団とソーシャル・インベストメント・パートナーズが2018年に合併し、現在の名称になった。日本ではSIBが全国で20件前後(2019年8月時点)導入されており、社会変革推進財団はこのうち8件に資金提供や中間支援などで関わっている。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/021000226/