2021年1月19日にオンライン開催された「日本型デジタル社会実現に向けたオール・ジャパンサミット」(主催:一般社団法人スマートシティ・インスティテュート)。プログラムの中から、本稿では「スマートシティの最終目的としてのWell-Being」と題したセッションの概要をお伝えする。なお、講演の動画は「日経チャンネル」で閲覧できる。

「スマートシティの最終目的としてのWell-Being」
オンラインで開催された「スマートシティの最終目的としてのWell-Being」の模様
【登壇者】
・慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授 前野隆司氏(画像左下)
・京都大学 こころの未来研究センター 教授 内田由紀子氏(右上)
・コード・フォー・ジャパン 代表理事 関治之氏(右下)
・<司会>スマートシティ・インスティテュート 理事 南雲岳彦氏(左上)

 このセッションの司会を務めたスマートシティ・インスティテュート理事の南雲岳彦氏は、冒頭で「(スマートシティの)最終ゴールはウェルビーイングだろう。人間の世界として、どういう幸せなまちをつくっていけばいいのか――。そういった点を議論したい」と、今回の議論の方向性を示した。

幸せの4つの因子を「まち」に当てはめてみる
――慶應義塾大学大学院・前野教授

 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授は、「ウェルビーイングは『良好な状態』と訳される。身体(健康)・心(幸せ)・社会(福祉)を包み込む概念だ」と説明した。さらに、前野氏が「幸福学」の研究の中で導き出した心の状態についての「幸せの4つの因子」(①自己実現と成長、②つながりと感謝、③前向きと楽観、④独立と自分らしさ)について、それぞれの因子を「まちの在り方」に当てはめ、次のように語った。

(セッションにおける前野氏の発表資料より)
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 「幸せなまちとは、①一人一人がやりがいを持って、②多様なつながりがあり、皆が感謝し利他的に助け合っているまちであること。そして③「自分たちの力でなんとかするんだ」という前向きで楽観的に生きるまちであり、④一人一人が個性を生かしているまちであるということになるだろう」(前野氏)。

「地域の中での幸福感」とは――京都大学・内田教授

 文化心理学、社会心理学を専門として対人関係の重要性や幸福感などを研究してきた京都大学こころの未来研究センターの内田由紀子教授は、「地域の幸福は、文化の中にある価値感に育まれている。そして、文化が生まれる単位としては、もちろん『国』も一つの単位だが、まちや企業といったもっと小さなコミュニティも、いろいろな形で文化の価値を共有している」と語り、「そのまちや企業の中でどういったウェルビーイングをもとめるのか。コミュニティ間の共通性と、地域や企業による差異の両方を考える必要がある」と指摘した。

 内田氏は、地域における幸福の重要な要素を特定したいと考え、測定指標をつくって調査を行っているという。これまでの調査からは、「地域の中で暮らしている人の実感としての幸福感」「地域内の社会関係資本(地域の中での信頼関係など)」「向社会的行動(ささいなことでも地域のために何か提案をすること)」の3つの要素は強く結びついており、循環的で密接な関連があることが分かったと説明した。

(セッションにおける内田氏の発表資料より)
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 続けて内田氏は、地域との一体感と異質・多様性への寛容さとの関連について、「地域の中で信頼関係がしっかりできていると、人々の地域に対する愛着や一体感が強い。逆に、移住者など外から来た人に対しても『うちのことが気に入って来てくれたんだな』と多様性を受け入れる傾向が強い」と説明。こうした異質・多様性への寛容さが、向社会性行動につながり、ひいては多世代共創につながっていくことを図示した。

「DIY都市」における多用な市民参加――Code for Japan・関代表理事

 Code for Japan代表理事で、政府CIO補佐官を務める関治之氏は、「私はもともとITエンジニアで、ITという技術を使って地域を良くしたいと考えて活動をしてきた。ただ、『自動運転や遠隔医療、ドローンなどが普及して世の中が便利になる』といった未来像については、『便利=幸せ、ということではないのでは?』と疑問を感じた」という。

 関氏は、「こうした未来像では、テクノロジーの進化が「お客様」「消費者」の感覚で活用されることによって、よいまちが出来上がっていくということになっている。だが、それだけは地域の豊かさを逆に殺しかねないのではないか」と懸念する。そうではなく、自ら手を動かすことが大事だ考えた関氏らがCode for Japanで提唱・展開しているのが「DIY都市プロジェクト」(DIY=Do It Yourselfの略)だ。ここでは、①幸せなまちの在り方のKPI化、②市民参加型のまちづくり推進、③複数自治体が相乗りできるDIYのためのツールセットをつくることに取り組んでいるという。

 関氏は、バルセロナなど海外で多く活用されているオープンソースの参加型民主主義のツール「Decidim(デシディム)」を日本語化して活用していく取り組みを紹介。既にデシディムを活用している兵庫県加古川では、地元の高校生など10代の参加者が約4割、スマホからのアクセスが6割を超えるなど、これまでのやり方ではリーチできなかった市民も積極的に議論に参加している状況を紹介した。さらに「オフラインのワークショップの内容もデシディムのプラットフォーム上に載せていくことがきる。デジタルが苦手な人たちも含め、多様な人たちに参加してもらうことで、住民の政策リテラシーは上がっていくだろう」と関氏は、参加型のまちづくりに期待を寄せる。

(セッションにおける関氏の発表資料より)
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「地域の幸せ」を見出す指標とは

 セッションの後半は、スマートシティ・インスティテュートが検討を進めている「Liveabe Well-Being City(リバブル・ウェルビーイング・シティ)指標」を含め、幸福なまちづくりの指標の在り方について議論が進められた。南雲氏はウェルビーイングなスマートシティの指標の在り方として、「人間中心主義」「市民参加」「世界的な枠組みとの整合的な枠組み」といった方向性を示し、「適切な範囲で見たときの地域にはそれぞれ個性がある。均質化するのではなく個性を我がまちの魅力として、互いの良さを認めて学び合える道具としてつかってもらえるような指標が必要だ」と概観した。

(セッションにおける南雲氏の発表資料より)
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 スマートシティ・インスティテュートと連携して幸せなまちの在り方のKPI化を検討している関氏は、「ポジティブな市民が増えると、行政側もチャレンジがしやすくなり、おそらくイノベーションも進んでいく」と、市民参加につながる指標づくりの重要性を強調した。

 前野氏は、「便利な街」と「幸せ」は、意外と直接的にはつながってこないのではないかと指摘。そこで、「幸せ」の意味をもう少し分解し、「向社会行動」「社会関係資本」「やりがい」といった幸せに寄与する中間的なパラメーターを設定することを提言した。前野教授は「『自ら地域社会のために何かチャレンジすることができる』という幸福度の因子と、『地域にコミュニティセンターがある』ということには、正の相関を持つ可能性が高い」といった例を挙げながら中間因子の必要性を示唆した。

 内田氏は「個人と社会(ミクロとマクロ)の問題が重要になる」と語る。「ある人たちだけは幸せで、別のある人たちはそうではない」といったまちの状況があっても、そのことは「個人としての幸せ」の平均値から読み取ることはできない。内田氏は、指標づくりに際しては「お互いに幸せが伝播するようなマクロ状態とは、どのような状態なのかを考えなくてはいけない」と指摘した。ただし、そうしたマクロな状態の指標が規範となることで、「そうしなくていけない」という形で個人の行動を縛る形になってしまうのもよくないと補足した。

 また、調査に適正な規模について問われた内田氏は、「100世帯くらい集落、いわば『自治会』の規模だと、地域に参加していることが意識されやすい。市町村合併で大きな市になった自治体は、隣接する旧市町村間でコミュニティの性質がまったく異なるケースもある」と指摘。続けて、「(まちの幸せに関する調査は)行政区で単純にくくらずにやや小さい区分で見た方が、そこで暮らしている個人の感覚にはフィットしやすいと思う」(内田氏)とコメントした。

 セッションではそのほか、国際的な指標では市民の宗教や自然環境に対する考え方や、政治参加の度合いも幸福度の要因として含まれること、それらの因子に関する日本と諸外国との受け止め方の違いなどに関する意見も交わされた。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/022500261/