■【Q2】 そもそも「再公営化」の定義とは何か? 完全に公共直営に戻すことを言っているのか?

■【A2】 フランスでは、かねてより上下水道の料金収受(需要リスク)を民間に委ねる形の民間委託が盛んで、長い歴史がある。公民連携のスキームとしては、アフェルマージュという方式が最も一般的だ(下図「フランスにおける 公役務の委任(DSP)の類型」参照)

4類型いずれの方式も自治体が最終責任を負っている(資料:日本政策投資銀行、参考文献:EPEC(2012)「France PPP Units and Related Institutional Framework」、中村義孝〔2011〕「フランスの裁判制度(1)」立命館法学2011年1号〔335号〕)
4類型いずれの方式も自治体が最終責任を負っている(資料:日本政策投資銀行、参考文献:EPEC(2012)「France PPP Units and Related Institutional Framework」、中村義孝〔2011〕「フランスの裁判制度(1)」立命館法学2011年1号〔335号〕)
[画像のクリックで拡大表示]

 そして、今話題になっている「再公営化」という言葉についてだが、フランスで言う「再公営化」とは「料金収受(需要リスク)を公共へ移すこと」のみを言う。パリ市のケースも、下図のように「再公営化」とは言っても100%の直営ではなく、料金収受を公共に戻した上で、民間企業に一部業務委託がなされている(下図)。

(資料:日本政策投資銀行、2018年10月フランス現地ヒアリング、CLAIRパリ事務所資料をもとに作成)
(資料:日本政策投資銀行、2018年10月フランス現地ヒアリング、CLAIRパリ事務所資料をもとに作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 そもそもフランスには、水道事業において、そのすべてを民間に委ねる「水道の完全な民営化」という概念はない。「再公営化」される前のパリ市のケースも、もちろん完全に民営化されていたわけではない。あくまでも市が最終責任を負った上での「民間委託」であった。また、フランスにおいては水道事業の「民間委託」と言っても、経営全般の委託は少ない。「投資は公共が担当、運営は民」や「川上は公共が担当、川下は民」など、民間にどの部分を委託するかについての形態は様々である。

 同様に、「再公営化」についても100%の直営化はまれで、民間に何らかの形で委託を実施しているのが一般的だ。 パリ市の再公営化もこのパターンであり、元々3者に分かれていた水道事業運営の民間担い手を市100%出資の1公社へと統合し(*注1)、そこから民間(世界的水メジャーのヴェオリアとスエズ)へ一部業務委託している。

*注1: 水道事業のうち、送配水業務(取水堰~配水場)については、1985年以降パリ市・Veolia(ヴェオリア)・Suez(スエズ)の資本が入った第3セクターのEau de Paris(オー・ド・パリ)社によるコンセッション形式で行われ、給水業務(配水管~料金徴収)については、セーヌ川を境としてCEP(Veoliaの子会社)とEFPE(Suezの子会社)によるアフェルマージュ方式で行われていた。2010年以降は、上記の2つの業務(取水~料金徴収)を統合し、パリ市100%出資の商工公社(Eau de Paris)が業務を実施している。

 これらを踏まえると、単に「料金収受のありか」をボーダーラインとして「民営」か「公営」かという短絡的議論をすることには意味がない。むしろ問題の本質の正確な理解を大きく妨げる。「再公営化」後のパリ市の水道事業も、実際には民間企業に一部業務委託しているのに、その部分は日本では知られていない。重要なのは、事例ごとの様々な官民の役割・リスク分担の実態を、正確に理解・評価することである。

 なお、既述のとおり、フランスにおける民間委託の形態として代表的なのは、上に掲載した図(フランスにおける 公役務の委任〈DSP〉の類型)中の上段の2つ(コンセッションとアフェルマージュ)であるが、フランスで言う「コンセッション」は、施設の整備・維持管理・運営・料金収受まですべて民間企業が担当する。一方、「アフェルマージュ」は、施設の整備は公共が担当し、維持管理・運営・料金収受を民間企業が担当する。このように、用語の使い方が日本と若干異なっていて、日本で言う「コンセッション」は、設備の更新投資を民間企業にどこまで担当させるかにもよるが、フランスのコンセッションとアフェルマージュの中間に位置する手法と言える。