■【Q6】 近年のフランスにおける動向をふまえた教訓や、日本へのインプリケーション(示唆、影響)は?

■【A6】 最も重要なのは、直営であれ民間委託であれ、事業の透明性をしっかりと確保することであり、そのための体制を整備することである。つまり、公共の側に技術力の高いスタッフなどをはじめとする適切な体制がなければ、いずれにせよ水道の経営はうまくいかないということだ。

 民間委託は、民の強みを活かした効率性向上や新技術導入などに威力を発揮するが、これはあくまで公共サイドに適切なガバナンスやモニタリングの能力・体制があって機能する話だ。日本で今後、民間委託を進める場合は、民間企業の運営に対して、公共側のしっかりとした監視体制が不可欠である。

 フランス各地でも長年の経験の反省から、近年、ガバナンスやモニタリングの能力を取り戻してより適切な官民連携に進化させる工夫を実施中である。具体的には、モニタリングのための民間職員採用や、公共自身での基幹管路更新実施などによるノウハウ維持、民間へのKPI・ペナルティ設定、契約期間の短期化などを行っている。

 日本でも、こうした体制づくりに学び、公共の適切なモニタリング機能の構築、そのために公共に残すべき機能の戦略的検討、官民の責務や強みをふまえた適切な役割・リスク分担設定などが肝要である。また、人材やコストなどの面で、小規模自治体は委託した民間企業の運営を単独でモニタリングするのが難しいのが現実だ。これを補う「第三者機関」を、国レベルで設置検討することも課題となるのではないか。

■まとめ

●フランス・パリの場合、「再公営化」の前でも、後でも、いずれにせよ水道事業の最終責任は公共が負っている。そもそもフランスには、水道事業のすべてを民間企業に委ねる水道の「完全な民営化」という概念はなく、フランスの水道事業で行われているのは(一部)事業の「民間委託」である。

●「コンセッション」という形態にこだわる必要はないが、水道事業の課題解決や効率化を進めるうえで、民間の力は重要だ。とりわけ、長期的な投資のプランニング/マネジメント、効率性向上や新技術導入などの面で、民間企業は強みを発揮する。

●公共の側で、民間に委託した水道事業の運営をしっかりと監視するスキルを持つ職員の継承などの体制整備が不可欠である。パリをはじめフランス各地では、委託した事業に対する「監視力」の劣化がないように、公共の適切なガバナンス・モニタリング力の再構築を進めている。

足立 慎一郎(あだち・しんいちろう)
日本政策投資銀行 地域企画部担当部長
足立 慎一郎(あだち・しんいちろう) 1992年一橋大学経済学部卒。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。内閣官房派遣などを経て現職。同行地域企画部編著「水道事業の経営改革」の一部執筆と編集を担当。官民連携に関する国や地域の取り組み支援に携わる。