鎌倉市:市民から寄せられる情報を人海戦術で整理

神奈川県鎌倉市の松尾崇市長(写真:柏崎吉一)
神奈川県鎌倉市の松尾崇市長(写真:柏崎吉一)

 鎌倉市では2019年9月、台風15号により市内各所で崖崩れや倒木が相次いだ。孤立した住居もあり、市として初めて自衛隊の派遣を要請した。「市の災害コールセンターでは当時、1153件の連絡を受け付けた。多い時には20人ほどの職員が対応に当たったが追いつかなかった」と、松尾崇市長は振り返った。

 市民から電話やメールを通じて寄せられる問い合わせや救助要請のなかには、災害の全体像の把握につながる情報が含まれる。ただ、次々と入る情報には重複などがある。鎌倉市では職員6人からなる情報整理班を編成し、分担して情報をPCに入力。一覧化して災害対策本部に提供し、対応策の検討に活用した。

 庁内での情報共有には、ビジネス用のグループウエア「LINE WORKS」を使った。職員が市内各所を巡回した際に、現場の写真を撮影してアップロードすると関係者間で即座に閲覧・共有できる。日ごろLINEの操作に慣れていれば使いやすい。現在は、同市の幹部職員を中心に約150人が利用している。「情報の集約は基本的に人海戦術だった。ほかの方法も模索したが、当時はそれが精いっぱい。より効率的な方法があれば、もっと迅速な状況の把握、対応につながった可能性もあるので、他自治体の優れた取り組みを学びたい」と松尾市長は語った。

 市民向けの情報提供の手段としては、スマートスピーカー(AIスピーカー)を配布する取り組みを行った。「防災無線が聞こえないときも、『いま防災無線で何を言っていたの』と声で尋ねればよく、PCやスマホの操作が苦手な人でも使いやすいと考えた」(松尾市長)。高齢者宅を中心に無料で配布したところ反響は上々という。数千円のスマートスピーカーがあればサービスを利用できるため、利用者が広がっている。

 鎌倉市は、同市も参画するAI防災協議会で開発された「AIチャットボット」も導入した。市民から問い合わせの多いよくある質問(FAQ)をあらかじめ登録しておくことで、市民がLINEのトーク画面で質問するとAIが適切な回答を選択して表示する仕組みだ。2019年10月の台風19号で運用した。

市民からの問い合わせ対応と災害情報収集の一環として鎌倉市が導入したAIチャットボットのイメージ(出所:鎌倉市)
市民からの問い合わせ対応と災害情報収集の一環として鎌倉市が導入したAIチャットボットのイメージ(出所:鎌倉市)

 海水浴や初詣を含め国内外からの観光客が多い鎌倉市は、地元の商店街と協力し、オレンジフラッグ(旗)も市内各店舗に配っている。旗には「避難誘導(EVACUATION GUIDE)」の文字が記されている。「市民には逃げる際にオレンジフラッグを掲げて、土地勘のない観光客など一時滞在者にもどちらに逃げればよいのか、方向を示すように協力を呼びかけている」(松尾市長)。

 そのほか、鎌倉市では見守りあいの仕組みを平時から構築している。「おじいちゃんの姿が見えないので心当たりがあれば教えてほしい」といった近所での声かけを、スマホで支援する仕組みだ。「日ごろのつながり、ツールの普段使いが災害時にも生きてくる。住民が互いに助け合えるまちづくりを目指したい」と、松尾市長はツールだけに頼らない防災の仕組みの重要性を強調した。

鎌倉市が取り組む「みまもりあいプロジェクト」のイメージ(出所:鎌倉市)
鎌倉市が取り組む「みまもりあいプロジェクト」のイメージ(出所:鎌倉市)