共通課題は庁内の情報共有、住民への発信、ツール使いこなし

 パネルディスカッションでは、AIの導入、ボランティアとの連携や広域連携についての意見交換も行われた。

パネルディスカッションの様子(写真:柏崎吉一)
パネルディスカッションの様子(写真:柏崎吉一)

 モデレーターの国領二郎氏は、「AI技術などを活用して、個人に合った避難情報を個別に提供する時代が来るか」と尋ねた。既にAIを使ったシステムを導入している鎌倉市の松尾市長は、可能だろうという見解を示しつつも「市民が使いこなせるツールでなければいざというときに役に立たない」と指摘した。また、西宮市の石井市長は、AI導入などの前に、日ごろから市民一人ひとりの防災意識を高めることの大切さを強調した。「大雨の際に『うちは大丈夫か』という問い合わせが多数寄せられる。今後、土砂災害特別警戒区域に指定された山などにセンサー設置が進めば、『この山は危険性が高いので避難してください』といった、エリアを絞り込んだ情報発信も可能になるかもしれない。ただ、普段からハザードマップなどを見て、自宅が危険かどうかあらかじめ把握・判断できることが多いはずだ。日ごろから誰もが災害に対する意識、『相場観』を養うことがいざという時に身を助ける」(石井市長)。

 ボランティア活動については、各市長とも災害時にはボランティアによる支援に非常に助けられたと振り返り、NPO団体や社会福祉協議会との情報の共有や連携を今後さらに進めていくと語った。熊本地震の際に市内の国際交流会館を拠点に多言語での情報発信を行った熊本市では、「日ごろからNPO、ボランティア団体の皆さんといっしょに、外国人と積極的に語る機会を設けるコミュニティ活動を続けている」(大西市長)と実践経験を披露した。

 災害の激甚化・広域化が進む中で、県と市町村が行う従来型の垂直連携だけでなく、市町村の水平連携の取り組みも動き始めている。鎌倉市は、隣接する逗子市と連携し、広域ハザードマップの作成を進めている。熊本市は、18の市町村が連携して160万人規模の連携中枢都市圏を形成した。常総市は、2019年5月に鬼怒川・小貝川流域の13自治体で広域避難協定を結んだ。「2019年の台風19号の際には、常総市から避難した住民を近隣の市町村に受け入れていただいた」(神達市長)という。

慶応義塾大学 総合政策学部教授/GLOCOM上席客員研究員 国領二郎氏(写真:柏崎吉一)
慶応義塾大学 総合政策学部教授/GLOCOM上席客員研究員 国領二郎氏(写真:柏崎吉一)
国際大学GLOCOMレジリエントシティ研究ラボ代表 櫻井美穂子氏(写真:柏崎吉一)
国際大学GLOCOMレジリエントシティ研究ラボ代表 櫻井美穂子氏(写真:柏崎吉一)

 モデレーターの国領氏は、パネルディスカッションを総括して、「昨今、災害対応という面で、市民と行政の関係性が書き換わっている。自助、共助、地域との連携を、情報技術がどう支えていけるのか、また自治体が切り開ける可能性と限界は何か、市民一人ひとりが考えるきっかけにしてほしい」と述べた。

 今回のパネルディスカッションにおける議論のベースとなった職員勉強会は、自治体会員と賛助会員で構成される。自治体会員は、北海道室蘭市、仙台市、宮城県登米市、千葉市、神奈川県藤沢市、新潟県南魚沼市、岐阜県東白川村、神戸市、兵庫県西宮市、高知市、佐賀県玄海町、熊本市、茨城県常総市、兵庫県丹波市の14団体。賛助会員は、グーグル、KDDI、セールスフォース・ドットコム、日本マイクロソフト、ヤフー、ascent(東京・千代田)の6社である。

 「職員勉強会では、過去に災害に見舞われた自治体が、当時の対応で苦労したこと、得た教訓や課題に関する講演、意見交換がなされた。また、賛助会員である企業による導入事例の発表などを行った」(国際大学GLOCOMレジリエントシティ研究ラボ代表を務める櫻井美穂子氏)。

 職員勉強会での研究活動を通じて、災害発生前および発生後72時間以内のコミュニケーションについて基礎自治体の視点から今後解決が必要な共通課題を整理したところ、主に3つのカテゴリーに分類できた。まず、災害対策本部や庁内の首長・職員間における情報の収集・共有である。次に、役所から住民(日本人および外国人、また出張や観光客などの一時的な滞在者を含む)への情報発信。3つめが、職員や住民が利用するITツールの選定や使いこなしに関する課題だ。なお、職員勉強会の資料(PDF)は、ウェブサイト上で公表されている。

  災害時コミュニケーションを促進するICT利活用に関する首長研究会は、今後も活動を継続していく。2020年度は、「災害支援・受援のための情報共有リファレンス/参照モデル(仮称)」および「パーソナル情報とローカル情報の組み合わせによる住民意識の向上と危険エリアへの個別情報伝達」に関する共通ガイドライン(仮称)の作成を計画している。