「世界最速健康百寿トライアル構想」を進める

 田中孝英氏は「立命館大学COIの取り組み」を紹介した。立命館大学COIは、「Active for All」をビジョンに「運動の生活カルチャー化による活力ある社会の実現」を目指している。立命館大学とともに順天堂大学も一緒になって活動しており、従来のフィジカル空間に加えて「コロナ禍の影響を踏まえたサイバー空間への拡大」(田中氏)も進めている。

 運動の習慣化にあたって問題となるのが、「動機づけのハードル」と「継続のハードル」である。このハードルを越えるために、立命館大学COIでは「スマート教材」「ピンスポットオーディオ」「スマートフィットネス」「バイオシグナルアート」の4つを事業化し、世代ごとに位置づけすることでその実現にチャレンジしている。

 事業化にあたって田中氏が着目したのは、アカデミアからのアウトプットである「コア技術(知的財産)」を事業化するためには「バリューチェーン全体のマネジメントが必要になる」という点だ。そこで立命館大学COIは、その役割を担う「スマートアール推進協議会」を2019年4月に設立し、パートナー連携や仕様設計、人材育成、新規事業創出などをサポートしている。

 そういったなかで、最終的な目標の1つとなるのが「スマートアール推進協議会のサポートによって生まれた事業収益の一部を、コア技術開発に再投資する」(田中氏)というエコシステムの構築である。また、ポストCOIに向けた取り組みとしては、スマートアール推進協議会に続く仕組みとして、大学内に「スマートイノベーション基盤構築センター(仮)」を設立する予定だ。

 この2つが一緒になって「社会実装(=技術を価値に変える活動)をサポートする」(田中氏)ような役目を果たすイメージである。田中氏は、これまでのCOIでの活動を通じて「アカデミアの研究では、常に伴走する形で価値と社会実装を検討すべき」と痛感したそうだ。それゆえに、「そのようなチームが大学内にもあるべき」と提案した。

 最後に田中佑治氏が、「山梨大学・長寿コホート COIとの連携への期待」を語った。田中氏によれば、日本の健康寿命が世界トップレベルであるなか、山梨県の健康寿命は男女とも日本1位とのこと。そこで、その要因を調べるにあたって、山梨大学の山縣然太朗教授が2003年から現在に至るまで続けている「健康寿命実態調査(Y-HALEコホート研究)」に注目。スタートから1年後と8年後の中間解析を調べると、山梨県の文化の1つである独特の飲み会「無尽」を楽しみに感じる高齢者は「1年後のADL(身体機能、認知機能)が維持される確率が高い」や、郷土料理「ほうとう」を高頻度で食べる人も「ADLが高い」ということがわかったそうだ。

 しかし現代は、コロナ禍や仲間の死去、若者の地元離れから「無尽ができない」、共働きや核家族化、1人暮らしの増加によって「ほうとうが作れない」という課題が出ている。そのため、いま求められるのは「多様化した個人生活に適した健康長寿ライフを自在にデザインできる社会」であり、その実現には「より多くの健康長寿要因が必要になる」と田中氏は説明する。

 このような背景から、田中氏は改めてY-HALEコホート研究を見直し、まだ解析されていない多くのデータがあることや「スーパー健康長寿な高齢者がいる」ことに着目。そこで、スーパー健康長寿な高齢者に対して岩木健康増進プロジェクトと同様の手法で幅広いデータ取得を行い、他事業のバイオリソースと比較する「山梨健康長寿バイオバンク構想」を立ち上げ、研究プロジェクトをスタートした。さらに山梨大学は、大阪大学との連携によって「Society 5.0のサテライト研究拠点」に追加されたことで、集めたパーソナルデータの共有も進めている。

 ただし田中氏は、「山梨大学の真の目的はデータの取得や共有ではない」とし、真の目的は「住民との信頼関係を構築する」ことや「地元の高齢者がより健康に長生きする」ことにあると補足。さらに今後は、さまざまなヘルスケア事業の住民介入研究を行い、効果が出たものは地域に定着させていく「世界最速健康百寿トライアル構想」を進めていく考えだ。