共有財産としてのデータの利活用を検討

■お題2
QoS(クオリイティオブサービス)向上のデータ利活用とそのための市民との合意形成について自治体・市民の観点で考えるべきことは何か?

裾野市みらい政策課係長 長田雄次氏(シンポジウムのオンライン画面より)
裾野市みらい政策課係長 長田雄次氏(シンポジウムのオンライン画面より)
静岡大学サステナビリティセンター教授 朱曄氏(シンポジウムのオンライン画面より)
静岡大学サステナビリティセンター教授 朱曄氏(シンポジウムのオンライン画面より)

長田雄次氏(裾野市みらい政策課係長)
 合意形成というと、自治体と市民が2つに分かれているような形での話になることが多い。だが、裾野市をより住みやすいまちにしていきたいという思いは同じはずだ。自治体と市民が共に考えて行動するためには、現状や将来についての共通認識を持ち、お互いの信頼関係を築くことが重要になる。そのためには、行政側は絶えず市民の側に必要な情報を出し、きちんと説明しなければならない。

 一方、市民側は行政サービスが向上するということに対して、自分の個人情報をどこまで出せるのか・どこからは出せないのかという線引きについての議論がもっと必要だ。例えば、オンデマンド・バスのサービスを行うとしたら、市民は自分の位置情報を渡せるのか・渡せないのかを考える必要がある。公共施設の出入口の通過者データを行政サービスに生かそうとしたときに、勝手にデータを取られることを許容できるのか。そういった1つひとつの事柄について、もっと議論をしていく必要がある。

堂囿氏
 市民が合意形成の議論に主体的に参加してくれることが大事だ。しかし、実際の現場ではどうしても自治体が市民に何かを「持ってくる」傾向になりがちだ。そこを変えていくのは非常に難しいが、スマートシティに限らず、まちづくり全体の中でそうした「市民の主体的参加」の土壌をつくるにはどうしたらいいのか。それをずっと考えている。

朱氏
 最近、データの経済的・財産的価値を認めたうえで、共有的な市民データ権についての議論が行われている。こうした模索が、今後の合意形成に役立っていくと考えている。自治体側は、データ活用によるサービス向上などの可能性をていねいに説明する必要がある。データを提供する市民側は、より豊かな生活を実現するには、共有財産であるデータの利活用について協議をし、使用方法を決めたうえで提供していけば、QoS向上のためのデータ利活用ができるようになるのではないだろうか。

ていねいな説明は不可欠――「匿名化」と言われても分からない市民も多い

■お題3
SDCCに参画する企業が課題解決を検討する際に市民とのやり取りの方法や、両者の間でのデータの扱いを考えたときのルール

浅井氏
 企業の側から個人情報保護法の仕組みを市民にていねいに説明することが大事だと思う。個人情報保護法という言葉自体は比較的知られているが、私から見ても、その内容が正確に理解されているかというと微妙なところがある。例えば、個人情報の第三者提供について「匿名化されていればOK、匿名化されていない情報は提供者の同意がない限りできない」と言われている。だが、「匿名化するから大丈夫」と説明しても、「そもそも匿名化とは何か」「どの程度匿名化してくれるのか」といった疑問や不安を感じる人はたくさんいる。

 一方、データを利用する企業側の事情としては、過度に匿名化してしまうと情報価値が薄れてしまうということもあるだろう。そうすると、(データを利用する側が)匿名化の具体例を示して、きちんと説明することこそが「ていねいな説明」と言えるだろう。また、匿名化せずに第三者提供するための同意書を市民から取り付ける必要がある場合でも、その同意書については、利用目的などを分かりやすくきちんと説明することが重要になる。

静岡大学情報学部准教授 狩野芳伸氏(シンポジウムのオンライン画面より)
静岡大学情報学部准教授 狩野芳伸氏(シンポジウムのオンライン画面より)
一般社団法人シビックテック・ラボ代表理事 市川博之氏(コーディネーター) (シンポジウムのオンライン画面より)
一般社団法人シビックテック・ラボ代表理事 市川博之氏(コーディネーター) (シンポジウムのオンライン画面より)

狩野芳伸氏(静岡大学情報学部准教授)
 (AIの研究では)毎回毎回違ったデータを万単位、あるいは10万以上扱うことがあり、データ提供者の合意を個別に取ることは現実的には不可能だ。そこで匿名化ということにならざるを得ないのだが、匿名化の基準が曖昧で困っている。

 誰かが基準を決めてくれればいいのだが、誰も決めてくれないし、こちらでつくろうと思っても難しい。例えば、音声データがあったとして、どこまで匿名化の加工をすれば個人情報でなくなるのかが分からない。声色で個人を特定できると言われるかもしれないし、音声の中に個人を識別できる言葉が残っているかもしれない。時間はかかるだろうが、こうした基準についての考え方を分かりやすく整理をして、市民の合意を得ていく努力が必要になるだろう。

◇   ◇   ◇

 パネルディスカッションではそのほか、データを有料化した場合のメリット・デメリット、データの不正利用に対する損害賠償、情報銀行による情報価値の担保などの論点が示された。コーディネーターを務めた一般社団法人シビックテック・ラボ代表理事の市川博之氏は、「課題は明確になってきている。考えなければいけないルールがたくさんあることが分かってきた。それを1つひとつみんなで決めていくことで、SDCCはもっと進んでいくだろう」と議論を締めくくった。