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新しい挑戦を阻む行政制度

「建築のチカラ」特別対談 伊東豊雄氏×乾久美子氏

森 清【2017.4.3】

 日経BP社が2月27日に発行した、書籍「建築のチカラ~闘うトップランナー」には、最前線で活躍する10人へのインタビューのほか、建築家の伊東豊雄氏と乾久美子氏による対談を収録。これからの建築の可能性について話し合ってもらった。

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 対談は3つのパートに分かれる。最初は2011年の東日本大震災以降、伊東氏が取り組んできた「みんなの家」について。被災地の住民が集う交流施設だ。2012年のベネチア・ビエンナーレ日本館の展示では、みんなの家をテーマに伊東氏が乾久美子氏ら気鋭の若手3人を束ね、「金獅子賞」を取った。この対談で伊東氏は、「みんなの家が社会的に認知された」と手応えを語った。

 2つ目は、2人がともに携わる東日本大震災の復興や、各人が地方で取り組むプロジェクトの苦心点や課題だ。以下にその内容を掲載する。最後のパートでは、建築家像の変化や設計者教育の現状などを踏まえ、建築の可能性をどこに見いだすかを語ってもらった。こちらは、書籍にてぜひご一読いただきたい。

東日本大震災の復興を進める岩手県釜石市で、伊東氏は復興ディレクターとして尽力してきた。公募型プロポーザル方式で優れた設計者を選ぶといった取り組みを進める一方、行政制度による「壁」を感じさせられたのも事実だ。

伊東豊雄氏(伊東豊雄建築設計事務所代表、左手)と乾久美子氏(乾久美子建築設計事務所主宰)(写真:山田 愼二)
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――伊東さんは岩手県釜石市の復興ディレクターとして「かまいし未来のまちプロジェクト」を構想されました。

伊東豊雄氏(以下、伊東) 私は、小野田泰明さん(東北大学大学院教授)に誘われ、ともに復興ディレクターとして釜石市に関わるようになりました。

 釜石の人と話をすると、都会にはいない非常に魅力的な人たちがたくさんいました。家や昔ながらの商店街が津波で流されてしまった人たちが、「もう1回やるんだ」という強い意志を持っていて、そういう人たちと一緒に何かできそうだという期待感があった。公営住宅や、既存の工場の修復を兼ねたコミュニティーのための空間など、歴史や場所性にしっかり配慮した町の未来像の絵を描くと、地元の人はすごく喜んでくれました。

 ところが、それをやろうとすると予算が付かない。つまりどこの町も同じ復興でないとダメですよと。同じように仮設住宅を建て、防潮堤をつくり、同じようにかさ上げをして、同じような高台移転をする。もう、それに尽きるわけです。

 当初、釜石市役所の人もすごく頑張っていて、行政とのはざまで「それは私たちもやりたいのだけど、もう少し待ってください」と。「とりあえず、上から言われる復興のようにしておいて、少しずつ変えていきますから」と言ってくれました。しかし結局、そう簡単なことではなかった。

 それでも「かまいし未来のまちプロジェクト」を掲げ、学校を中心に公営住宅などいくつかの公共施設をプロポーザルにかけて、若い設計者に頑張ってもらおうとしました。その頃から、建設費の高騰と人材不足が顕著になって、ほとんど崩れていきました。それでも今いくつかはできつつありますから、かなり頑張ったと思います。

伊東氏による岩手県釜石市(東部地区)の未来像のスケッチ(資料:伊東豊雄建築設計事務所)
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乾久美子氏(以下、乾) 震災後のプロポーザルで設計者に選んでいただいた宮城県七ケ浜町の「七ケ浜町立七ケ浜中学校」が2014年に竣工し、2年がたとうとしています。七ケ浜中は、復興のかなり早い段階でしたので、まだ工事単価が上がっていないタイミングで入札でき、比較的順調に竣工までこぎ着けました。

 伊東さんが審査委員長を務め、選んでいただいた釜石市唐丹地区の小中学校は今、建設中です(17年春、部分竣工予定)。このプロジェクトの前に行われたプロポーザル方式の復興公営住宅では、入札不調が立て続けに起こりました。

 そのため釜石市が単なる入札だと実現するのが難しいだろうと判断されて、施工予定者技術協議方式(ECI=アーリー・コントラクター・インボルブメント方式)を小野田さんのアドバイスによって導入しました。通常の入札よりも早い段階から施工者が施工性などを検討し、工事費や工期を短縮するやり方です。結果的に前田建設工業が工事を担当し、厳しい側面ももちろんありますが、協力的にやってくださっています。

乾氏設計の「釜石市唐丹地区小中学校」の模型写真(写真:乾久美子建築設計事務所)
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 実際に苦戦しているのは、行政側のマンパワーが慢性的に不足しているからか、行政側の意思決定が遅いことです。

 震災の直後はいろいろな自治体から被災地の役所に応援職員が駆けつけ、国との交渉をはじめ、プロフェッショナルとして震災の状況を処理してくださる方がとても多くいました。実際、伊東さんにご協力を仰ぐなど「かまいし未来のまちプロジェクト」ができたのも応援職員の方の能力やエネルギーによるところが大きかったと思います。

 しかしその後、数年で応援職員の方は元の自治体に戻らなくてはならず、職員が少なくなっていくなかで、町にとって本質的な問題を検討するエネルギーがそがれ、国が用意したメニューをこなすだけの保守的な体質にどんどん戻りつつある状況だと思います。

――建築家としてその状況に限界を感じる?

 限界を感じるというよりは、その状況の中で最大限、頑張るしかないと思ってやっています。今回の対談に際し、「建築家の役割」「社会と建築家の関係について」といったテーマをいただきましたが、伊東さんを筆頭に建築家は社会との関係を結び直そうと、いろいろなレベルで考えていると思います。

 しかし、特に公共の建築では、制度のほか、行政側が責任を取ることを恐れ、様々な取り組みを阻んでしまっているのが見えます。それに出会う度に、厳しい言い方をすれば、行政側によるプロジェクトの私物化ではないかとすら思う場面があります。

伊東 乾さんが言われるように、官僚は組織の上に行けば行くほど顔を見せない官僚機構の中で物事が決定されていく。この数年間、そのことをいやというほど感じましたね。

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