“地域の収益”を測る「地域付加価値創造分析」

 実は私は、以前、民間のシンクタンクに勤務しており、先述の有明アリーナの年間収支の試算に関わりました。他にも自治体のスポーツ事業の計画や評価に関わる中で、「建設費が多いか少ないか」「運営の単年度収支が赤字か黒字か」「経済波及効果が大きいか小さいか」といった一面的なエビデンスを基に様々な意思決定が行われることに対して、ずっと違和感を持っていました。整備費などを負担する自治体(住民)を出資者とみなし、事業を実施したことによるリターンを直接的に評価する方法はないのか?という漠然とした問題意識がずっとあったのです。

 そのモヤモヤを解決してくれたのが、「地域付加価値創造分析」です。地域付加価値創造分析は、主にドイツにおいて再生可能エネルギーの開発が地域にどの程度の経済効果を生むかを評価する手法として活用されています。地域付加価値創造分析では、地域にもたらされる経済的な付加価値は、生産によって地域内に「新たに創出された購買能力」と表現されており、売り上げから中間投入を除いた額、つまり「雇用者の可処分所得」「事業者の税引後利益」「地方税収」の3つの合計として定義されています(諸富、2019)。

(出所:横田ら、2020)
(出所:横田ら、2020)
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 可処分所得が増えれば、住民は好きなものを買うことができます。事業者の利益が増えれば、その事業者は事業を拡大したり、人を雇ったりすることもできるでしょう。税収が増えれば、自治体は地域課題の解決に予算を使うことができます。これはまさに、事業によって新たに生み出された“地域の収益”と言うべき概念です。

 また、再生可能エネルギーの普及・導入の先進国であるドイツでは、自治体が連邦政府を上回るレベルで気候変動対策目標を掲げ、それと同時に地域経済効果を狙った動きが出てきました。そこで、国家レベルや州レベルではなく、自治体レベルでの経済効果をどう測るかが課題となり、開発されたのが地域付加価値創造分析です(諸富、2019)。つまり、国レベルの事業ではなく、基礎自治体レベルの分析に適した手法でもあります。