地域付加価値創造分析の自治体事業への活用

 事業に伴う業務を地域に内製化すれば、地域経済循環がおきて経済的な効果が高まる。これは、当たり前のことです。分析しなくても分かります。しかし、それを定量化することで、様々な活用可能性が見えてきます。また、地域付加価値創造分析は、事業着手前の実施判断、事業期間中の事業改善、事業終了後の評価など、事業の様々なフェーズにおいて活用することが可能です。

①事業着手前に実施判断に活用する
 事業実施前の段階において、事業期間を通じた“地域の収益”を試算することができます。スポーツ施設であれば、設計、施工、運営の全期間が対象となります。地域付加価値創造分析によって算出する経済付加価値は、その地域に確実に帰着するキャッシュですから、極めて現実的で、適切な実施可否の判断材料となるでしょう。幅広い波及的な効果やみなし費用を含む「経済効果」は、どちらかというと事業を前に進めることを前提としたエクスキューズとして用いられることが多かったと思いますが、地域付加価値創造分析を活用することによって、「投資」という視点からの現実的な実施判断が可能になります。

 また、スポーツ施設の指定管理者の選定時にも活用が可能です。都市部に本社があり実績豊富なA社と実績ではA社に劣る地元企業のB社の競争になった場合、技術点ではA社が優位となるでしょう。一方で、B社が指定管理者になることによって地域経済循環が高まることは何となく想像はできますが、地域付加価値創造分析を活用すれば、「B社が指定管理者になることによって増加する“地域の収益”」を定量的に示すことができます。つまり、“地元企業をどの程度優遇すべきか”について、経験論や感情論ではなく、「地域にもたらす収益」という極めて客観的な物差しを提供することができるのです。

 ただし、事業着手前の分析については、事業計画のデータがベースになりますので、実態と若干の乖離が生じることは念頭に置く必要があるでしょう。

②事業の途中段階で事業改善に活用する
 地域付加価値創造分析が優れているのは、事業の途中段階でも活用が可能なところです。例えば、すでに運営が開始されているスポーツ施設を対象に、市外在住の運営スタッフのうち2名を市内在住者に変更した場合、あるいは、運営事業者を市外企業から市内企業に切り替えた場合などの条件を設定し、事業期間中を通じて生じる地域の収益を可視化することができます。さらに、その増加分を下回る範囲の助成金・補助金を使って地域内でスタッフを育成したり、将来的に運営を担う市内組織を育成したりすれば、支出した助成金・補助金以上のリターンを生み出すことが予め想定できます。これは、助成・補助ではなく、立派な、しかもかなり確実な「投資」と言えるでしょう。このように、地域付加価値創造分析を活用することによって、既存の事業に対する適切な投資と事業改善を行い、地域にもたらす経済的な付加価値を中長期的に高めることができるのです。

 また、事業途中段階での分析は、それまでの実績値がベースとなりますので、事業着手前の分析と比較するとかなり精度が高まります。

③事業終了後の評価に活用する
 もちろん、自治体の事業には欠かせない事後の事業評価にも活用は可能です。この場合は、事業期間を通じた実績をベースに分析を行うので、地域に確実に帰着した収益をかなりの精度で算出することができます。また、単なる評価だけではなく、類似事業に対して、事業計画レベルでかなり具体的な示唆を与えることができるでしょう。

(出所:筆者作成)
(出所:筆者作成)
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投資効果から目をそむけない

 これまで、地域付加価値創造分析の優れた点について述べてきました。地域付加価値創造分析は、「雇用者の可処分所得」、「事業者の税引後利益」、「地方税収」の合計であり、地域の収益を直接的に算出することができます。一方で、分析の必然として、産業連関分析で算出するいわゆる「経済効果」よりもかなり小さな数値が出ます。このことが、地域付加価値創造分析の最大の欠点であると言えるでしょう。「経済効果」を主な指標としてきた自治体からすれば、見た目の数字(効果)が小さく出てしまう地域付加価値創造分析は、非常に使いにくい分析なのです。

 しかしながら、これからの自治体の事業において、「投資に対するリターン」という直接的でシンプルな視点を持つことは極めて重要です。その視点から目をそむけずに向き合うことによって初めて、「助成・補助」を「投資」に変えることができるからです。

 これからの人口減少社会では、自治体の財政が飛躍的に良くなることはないでしょう。限られた予算を効率的・効果的に活用して地域を活性化するためには、「投資」の視点を持ち、戦略的に事業を展開することが不可欠になるのです。

■引用文献
・諸富徹(2019)『入門地域付加価値創造分析』,日本評論社.
・横田匡俊・稲垣憲治・庄子博人・岡田真平・佐藤照友旭・荒井宗武(2020)「スポーツ施設の整備及び運営に伴う経済効果の検証:スポーツ関連事業への地域付加価値創造分析の適用」『スポーツ産業学研究』第30巻第4号, pp.357-367.
横田 匡俊(よこた・まさとし)
日本体育大学スポーツマネジメント学部准教授
横田 匡俊(よこた・まさとし) 主な研究テーマは、「まちづくりとスポーツ」、「地域経済循環」。1975年栃木県生まれ。三菱総合研究所(スポーツ事業リーダー)を経て現職。三菱総合研究所では、スポーツを通した地域活性化、スタジアム・アリーナの収支試算等、スポーツビジネス、スポーツ政策に関する多岐に渡る業務を担当。連絡先メールアドレス:m-yokota(アットマーク)nittai.ac.jp