国土交通省は、まちづくり分野へのソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)導入の意義や可能性を考える「まちづくり×SIB」シンポジウムを初開催した。 2019年3月7日に東京都内で開かれたシンポジウムから、千葉大学予防医学センター 社会予防医学研究部門教授の近藤克則氏による基調講演「まちづくり分野でのソーシャル・インパクト・ボンドの可能性」の概要をお伝えする。

千葉大学 予防医学センター 社会予防医学研究部門の近藤克則教授(写真:赤坂麻実)
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 近藤氏は千葉大学 予防医学センター 社会予防医学研究部門 教授で、国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 老年学評価研究部長と日本老年学的評価研究機構(JAGES)代表理事も務める。講演では、住民の健康増進に寄与するまちづくりを民間企業が推進し、それに対してSIBを適用することで、住民の健康や幸福につながる好循環を生むことができると語った。

まちのハードとソフトは住民の健康に影響を及ぼす

 近藤氏によれば「従来、健康づくりは自己責任と考えられてきたが、実はそうではない側面もある。健康を損なうような環境、社会経済の要因を取り除くことも、病気の予防に有効であることが分かってきた」という。これは「ゼロ次予防」と呼ばれる考え方で、近藤氏は「ゼロ次予防を突きつめると“暮らすだけで健康に過ごせるまち”を作り出せる」と話す。

 近藤氏が愛知県東海市で11小学校区の高齢者1456人について調べたところ、スポーツと健康維持には相関がみられたという。「スポーツ組織に週1回以上参加する人の割合が大きい地区は、2年後に要介護認定を新たに受ける人の割合が小さい」との調査結果が得られた。試算によれば、仮に全国でスポーツ参加者が1割増えると、新たに要介護認定を受ける人が0.8%(24万人)減るといい、介護費の大幅な削減につながる。

 同じ市内であってもスポーツ参加率は地区間で高低差がある。この差を生む要因の一つが、まちづくりであるという。「公園から1km圏内に住む人は、そうでない人の1.2倍の頻度で運動をするという調査結果がある。運動施設の適正配置は住民のスポーツ参加率を高め、結果として要介護認定率を低減できる。都市計画は健康政策でもある」(近藤氏)。

自宅近くに公園があれば運動頻度が上がることが調査で明らかになっている(近藤教授の講演資料より)
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 ハードウエア(運動施設)だけでなく、まちのソフトウエアも住民の健康に影響を及ぼすことが分かっている。「週に1回以上運動する人でも、スポーツ組織に参加していない人は、参加している人に比べて、要介護状態になるリスクが1.29倍だと分かった。運動は一人でするより、仲間としたほうが、より健康にいいといえる」。つまり、地域でスポーツ関連サークルが組織され充実していると、要介護状態の発生リスクを減らせることになる。

東海市内に開設された3つの「健康交流の家」について、週1回以上利用する人と利用しない人を比べると、利用者は施設開設後に外出やスポーツの会への参加が増えている(近藤教授の講演資料より)
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愛知県武豊町では夏祭り(盆踊り)やミニ運動会など、季節のイベントを行う「憩いサロン」活動が始まり、サロンへの参加と要介護状態の発生リスクに相関がみられる(近藤教授の講演資料より)
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