経済産業省が主催する「SIBセミナー:介護予防分野等でのソーシャル・インパクト・ボンド活用の展望」(2019年2月8日)の模様をお伝えする。第1部では経済産業省、厚生労働省、内閣府の各担当者が、それぞれの取り組みについて紹介するとともに、介護予防分野などにおけるソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の適用可能性やその期待について語った。

ヘルスケア分野のSIBは伸びる余地がある

経済産業省 商務・サービスグループヘルスケア産業課 課長補佐 高橋正樹氏(写真:近藤寿成)

 セミナーではまず、経済産業省 商務・サービスグループヘルスケア産業課 課長補佐の高橋正樹氏が登壇。同省におけるこれまでのSIBに関する取り組みを概説した。

 経済産業省が、SIB導入に向けた課題整理を始めたのは2015年度から。2016年度からは案件組成支援がスタートし、2017年度からは日本初のSIB事業や県・市町村連携による広域連携モデルの支援も実施。さらに、これらの案件組成などを踏まえて経済産業省のホームページで自治体向けノウハウ集を公開し、「さらなる候補や案件の発掘を進めている」(高橋氏)という。

 2017年度から着手したSIB事業の支援としては、兵庫県神戸市と東京都八王子市の事例を紹介した。神戸市では糖尿病性腎症重症化予防を、八王子市では大腸がん検診受診推奨事業を実施。両事業ともに中間成果評価では目標を上回る成果が確認され、初回の成果連動型支払いを遂行した状況にある。なお、具体的な成果指標としては、神戸市のケースで「保健指導プログラム修了率」や「生活習慣改善率」を、八王子市のケースで「大腸がん検診受診率」を評価した(関連記事:神戸市 八王子市)。

 広島県内で複数市が連携したSIB事業については、2017年度から支援し、2018年度からはオーダーメイドの受診勧奨による大腸がんの早期発見に取り組んでいる(関連記事)。

 そのほか、地方創生推進交付金を活用したSIBに関する取り組みも広がりをみせていることに言及。岡山市では35歳以上の市民や在勤者を対象に、インセンティブとして健幸ポイントなどを付与して生活習慣の改善を目指している(関連記事)。

経済産業省におけるヘルスケア分野でのSIB導入促進に向けた取り組み(当日の講演資料より)
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 このような動きも踏まえて、高橋氏は「ヘルスケア分野は伸びていく余地が非常にある」と見る。

 経済産業省は現在、介護予防分野におけるSIBの可能性を探っている。直近では、福岡県大牟田市で市内介護サービス提供施設の介護度進行を抑制する事業を2019年度開始で検討し、徳島県美馬市でもJリーグクラブと連携したプログラムの実施による運動機能の改善や運動習慣の定着を進めている。

 今後の超高齢化社会に向けた可能性を探求すべく、高橋氏は「引き続き介護予防の分野に注力していきながら、実際のエビデンスや期待できる成果の整理を進めていきたい」と語った。

成果指標の適切な設定が重要

厚生労働省 社会保障担当参事官室 制作企画官 日野力氏(写真:近藤寿成)

 次に登壇したのは厚生労働省 社会保障担当参事官室 制作企画官の日野力氏。日野氏によれば、厚生労働省は2017年度から「保険福祉分野における民間活力を活用した社会的事業の開発・普及のための環境整備事業」の1つという位置付けでSIB事業を推進している。保健福祉分野でSIBのスキームを使って試行的に社会的事業を進め、これを通じて「社会的事業における成果測定のための指標設定」「成果に基づく報酬設定」「行政や民間事業者との契約締結のための環境整備」を行うことを目的とする。

 現在、事業のカテゴリーは、該当課題を有する個人に対して支援・介入する「特定課題型事業」と、個人だけでなく地域に対しても支援・介入する「地域課題型事業」がある。委託費の支払い方法は最低保証分(400万円以内)と成果連動分(500万円以内)の2つに分かれており、支払いの上限は合計900万円以内だ。

 900万円以内と設定した支払いの上限について日野氏は「実際の事業として進める場合にはもっと事業規模を大きくしないと成功しない可能性もある」との見解を示した。

 2017年度には特定課題型で3事業、地域課題型で2事業の計画がスタートし、2018年度は2017年度分も含めて特定課題型で6事業、地域課題型で4事業が進められている。2019年度については、特定課題型事業では成果指標と成果に応じた報酬設定の手法を見出し、その後の事業の実施につなげていく。地域課題型事業では、民間資金の調達方法とそれが容易になる成果指標を検討していく。

 SIBにはまだまだ課題もある。日野氏は、「スキームをもう少しシンプルな仕組みに変える必要がある」「モニタリングに必要なコストが大きい」ことなどを課題として挙げ、「成果指標と報酬を上手くマッチングさせることが必要だ」と語った。さらに、成果指標のバラツキや金銭評価できないコストなどの問題も指摘した。

 さらに日野氏は、成果指標を適切に設定することの重要性にも触れた。というのも、現況では「健康寿命を延伸しても、生涯医療費が下がるとは言い切れないし、下がらないとも言い切れない」(日野氏)からだ。ゆえに、このままSIB事業が普及していったときに、成果について議論が巻き起こる懸念を表明した。

 とはいえ、「うまく進めることができれば、SIB事業は自治体の既存事業を変えるきっかけになる」(日野氏)。厚生労働省としても「まずは2019年度の事業をきっちり進め、その後の展開を考えていく」と語った。

厚労省の環境整備事業および評価・運営事業のスキーム図(当日の講演資料より)
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地方創生推進交付金も活用できる

内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事業局 主査 奥村滉太郎氏(写真:近藤寿成)

 最後に、内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事業局 主査の奥村滉太郎氏が、地方創生交付金を活用したSIBの推進について語った。地方創生の交付金は、地方へ経済効果を波及させる「ローカル・アベノミクス」の浸透をテーマに、自治体が自主性や創造性を持って行う取り組みを後押しする補助金である。

 地方創生に関連する交付金は、2016年度補正予算において地方創生先行型交付金として始まり、2019年度予算では地方創生推進交付金として1000億円(事業費ベース2000億円)、2018年度補正予算では地方創生拠点整備交付金として600億円(事業費ベース1200億円)が決定案となっている。地方創生推進交付金と地方創生拠点整備交付金はソフト事業の経費とハード事業の経費に役割が分かれており、「SIB関連で利用される可能性があるのは地方創生推進交付金となる」(奥村氏)。

 地方創生推進交付金は、地方版総合戦略に基づく、地方公共団体の自主的・主体的で先導的な事業を財政面から国が後押しする。国費を使うため「KPIの設定とPDCAサイクルをしっかり組み込む必要がある」ものの、各省庁の予算を使う場合と違って制限がないため「従来の縦割り事業よりも幅広く利用できる」と奥村氏はそのメリットを挙げる。さらに、地域再生法に基づく法律補助の交付金となり「来年度に突然なくなるということはほぼない」ため、中長期的な計画で事業を実施できる点も特徴となる。なお、資金の流れとしては、半分を国が負担し、残りの半分を地方自治体が用意する。

 地方創生推進交付金を活用したSIB事業としては、経済産業省の高橋氏が紹介した岡山市の事例がある。概要は同じで、この事業では市が予算の半分にあたる3800万円を用意し、国庫から残り半分の3800万円が交付された。奥村氏によれば、国庫からの交付金は「成果連動型の報酬に充てることはできない」とのことで、基本的には「事務局といった中間支援組織の運営経費などに使われる」と説明する。

 また、兵庫県川西市・新潟県見附市・千葉県白子町による広域連携モデルの事業も経済産業省のものと同様となる。この事例について奥村氏は、「交付金を上手く活用し、中小規模の自治体で上手くビジネスモデルを創出した好例」と評価し、「規模の小さい自治体でも、横展開でSIB事業を進められる」と提案した。

地方創生関係交付金の概要(イメージ)(当日の講演資料より)
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この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/040400177/