2022年3月24日に開催された「PFS/SIB推進セミナー」(主催:内閣府)。前編(関連記事)では国の取り組みを概観した。後編では、各府省庁の支援で実施されたPFS/SIB事業に関わってきた有識者を迎え、先行事例から得た知見についてのディスカッションをリポートする。

登壇者
EY新日本有限責任監査法人 高木麻美氏(画像左上)
日本総合研究所 黒澤仁子氏(右上)
社会変革推進財団 戸田満氏(左下)
<司会>内閣府成果連動型事業推進室 石田直美氏(右下)
オンラインで開催されたディスカッションの様子
オンラインで開催されたディスカッションの様子

 内閣府の石田氏が設定した主な論点は「自治体がPFS事業を実施する際の課題」と「中間支援組織の役割」だ。ディスカッションでは、複数のPFS/SIB事業に関わった経験を持つ3人のパネラーが、まずは自身の経験を踏まえて成果連動型民間委託契約方式(Pay for Success、PFS)とソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)(以下、PFS/SIB)の現状と課題、案件をうまく進めていくためのポイントなどが語られた。

同じ分野であっても成果指標や評価方法は多様

 EY新日本有限責任監査法人の高木氏は、厚生労働省が2017年度から19年度にかけて実施したいくつかのPFS/SIBモデル事業を例に「ここでは、複数の成果指標を設定した事業が目立った」と語る。

 例えば、東京都多摩市の糖尿病重症化予防事業では、生活習慣改善というアウトカム(成果)指標のほかに、プログラム修了率というアウトプット(活動結果)指標を設けた。大阪府池田市のフリースクール事業では、支払いに連動する指標として教育相談件数と登校日数割合を設定したが、これとは別にモデル事業後の本格実施を見据えて、教育相談の利用者数と進路の実現を支払いに連動しない形で指標を設定・計測した。本来であれば「望む進路の実現」がアウトカムとして望ましいが、何をもってそれを測るかが難しく、今回は試行という形を取った。

 一方で、沖縄県浦添市の大腸がん検診受診勧奨事業では、受診者数増加のみを指標とした。これは、目指すべきアウトカムが明確で、期間内に測定が可能だったからだ。

 モデル事業では標準的な指標づくりを目指したが、まったく同じ事業、全く同じアウトカムを横展開するのは難しいと高木氏は現状を振り返る。そのうえで「今後、エビデンスや事例の蓄積が進むことで、特定の課題については指標や評価デザインの標準化が進む可能性はあると思う」と語った。

案件形成段階で関係者が課題を共有する

 日本総合研究所の黒澤仁子氏は、経済産業省のモデル事業で案件形成支援に携わった実績を基に、アウトカムレベルでの質の高いサービスを公共サービスに導入する際に求められるポイントを2つ挙げる。

 1つは、現状と課題と目指すべき成果を、行政とサービス提供者、資金提供者などの関係者が共有すること。福岡県大牟田市の要支援・要介護者自立支援・重度化防止事業では、案件形成の段階で自治体や住民の現状と課題を分析するなどしてレポートを公表。結果として、これらを踏まえたオリジナリティのあるサービスと成果指標が事業者から提案されたという。

 もう1つのポイントは、成果指標と支払い条件の設定だ。本来はアウトカムを成果指標とすべきだが、類似事例が少ない現状では、アウトカム指標の設定だけだと民間事業者が参加しやすい事業にするのは難しいケースもある。アウトプットも成果指標としたり、固定払いと成果連動払いを組み合わせるなど、行政と事業者の双方にとってメリットが生まれるよう、事業ごとに検討が必要になると黒澤氏は指摘する。

 事業者の参入しやすい仕組みも必要だ。マーケットサウンディングで民間事業者の意見を取り入れてアウトプット指標をつくったり、公募の際に民間に指標を設計してもらう完全提案制とするなど、民間事業者の参入を促す例も出てきていると紹介した。

仕様からアウトカムへ「事業の成功」の定義を転換

 社会変革推進財団の戸田満氏は、PFS/SIBではまず「事業の成功の定義を変える」ことが要諦だと述べた。

 従来の委託事業は自治体が用意した仕様を事業者が履行できれば成功とみなされるが、PFS/SIBは目標に据えたアウトカムが達成できたかどうかで事業の成否が決まる。従来は手段そのものが目的化しがちだったが、PFS/SIBは常にアウトカムが起点となる。そして、アウトカム達成のためには「事業期間の確保」「提案の自由度の確保」など、委託事業から発想の転換が必要になると説明する。

 「PFS/SIBには一定程度の経済合理性と事業規模が必要になる」と戸田氏は付け加える。。PFS/SIBには将来の社会保障費削減効果が期待されているが、成果が上がれば行政の支出が増える仕組みでもある。案件組成や評価にもコストがかかるため、ある程度の事業規模がないと成立させるのは難しいと戸田氏は指摘する。PFS/SIB普及の課題といえるだろう。