「Beyond Health」2021年4月19日付の記事より

 堺市(大阪府)が泉北ニュータウンを中心に進めている「SENBOKU スマートシティ構想」(関連記事:堺市が取り組む「SENBOKU スマートシティ」構想とは)。それに関連して堺市健康寿命延伸産業創出コンソーシアム(SCBH)が2021年3月24日にオンライン開催したシンポジウム「『SENBOKU スマートシティ構想』産学公民未来共創シンポジウム~大阪・関西万博を見据えたまちとヘルスケアの未来~」では、「SENBOKUスマートシティが拓く、まちとヘルスケアの未来」と題したパネルディスカッションが展開された。

 堺市長の藤永英機氏、大阪大学大学院基礎工学研究科の石黒浩栄誉教授、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の宮田裕章教授が登壇。日本総合研究所調査部、マクロ経済研究センター所長の石川智久氏がファシリテーターを務めた。

日本総合研究所調査部マクロ経済研究センター所長の石川智久氏 。ファシリテーターを務めた(写真:オンラインイベントのキャプチャー)
日本総合研究所調査部マクロ経済研究センター所長の石川智久氏 。ファシリテーターを務めた(写真:オンラインイベントのキャプチャー)
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 ディスカッションは約30年後の2050年に向けて技術と世界はどう変わっていくのか、また、それに向けてSENBOKU スマートシティで何ができるのかという2つのテーマで進行した。石黒氏と宮田氏は2025大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーでもあるため、万博にも関連した内容となった。

これからの人口減少時代、行政と民間のあり方を見直しが必要

 石黒氏と宮田氏が共通の前提として語ったのは、これから人口減少が進むということ。それを踏まえて石黒氏は「単純な仕事はロボットなどに置き換わっていく。一方で、人は人と関わるということを求める。人の存在をちゃんと感じられるホスピタリティのあるサービスを受け続けたいと思う」と語り、人と人が交わるための技術の開発や働き方の多様化が重要になるとした。

 宮田氏は「海外ではAIや石黒先生が研究されている『アバター』などによって、仕事が奪われるという反発が大きくある。しかし日本では私の知る限りそうではなく、むしろ期待している面がある。技術と共存することへの許容度が高いと思う」と語った。

 永藤氏は、堺市の人口が現在82万4000人で高齢化率28%のところ、2050年には65万人にまで減り、高齢化率は36%まで上がるという推計を提示した。「こうなっていくと、自分たちの市だけで行政サービスをまかなうことはできなくなる。実はこの動きは既に始まっていて、隣の高石市の消防行政は事務委託を受けて堺市が受け持っている」(同氏)という。今後、日本全体で見ても、国と地方、都道府県と市町村、行政と民間のあり方も見直す必要があるのではないかと指摘した。

大阪府堺市市長の藤永英機氏。堺市の課題はこれからの日本の課題であると位置付け、民間とも連携して課題を解決していくと語った
大阪府堺市市長の藤永英機氏。堺市の課題はこれからの日本の課題であると位置付け、民間とも連携して課題を解決していくと語った
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データの活用で前倒しの介入を

 万博に向けた取り組みとして、宮田氏はデータの活用を挙げる。「これまでは何かが起こってから支えるという形だったが、データの活用によりその手前、困難な状況になる前に支えていけるようになるのではないかと考えている」(同氏)。

慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授の宮田裕章氏。データをつなぐことで人々の生活を支えるという将来像を語った
慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授の宮田裕章氏。データをつなぐことで人々の生活を支えるという将来像を語った
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 例えば、認知症につながりやすいとされるフレイル(虚弱)の状態では、平均歩行速度が落ちる。従来はテストを行わないと分からなかったが、現在はスマートフォンのヘルスケアアプリでこうした変化を簡単に追跡可能だ。平均歩行速度が落ち始めたところで介入できれば、改善が見込みやすくなる。「病気の手前の段階で介入することで、病気そのものを減らすと共に豊かに生きていく時間を支えていけるようになる」(宮田氏)とした。

技術で多様性を実現し、人それぞれの幸せを

 石黒氏は今後のカギとなる視点として、多様性を強調した。「例えば、現実世界で働くということは一つのアイデンティティで、一つの仕事しかしていない状態。だからその一つのことでうまく行かないと立ち直れないみたいなことが起こる。一つの世界でうまくいかなくても別の世界でうまくいけばいい。そうなれば人それぞれ幸せになれる」(同氏)。

大阪大学大学院基礎工学研究科栄誉教授、ATR石黒浩特別研究所所長(客員)の石黒浩氏。これからは働き方の多様性が重要になると語った
大阪大学大学院基礎工学研究科栄誉教授、ATR石黒浩特別研究所所長(客員)の石黒浩氏。これからは働き方の多様性が重要になると語った
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 それを実現する一つの方法が、同氏が研究している遠隔操作ロボット、アバターだ。同氏は子供の集まる場所にロボットを設置し、遠隔地から高齢者など様々な人に操作、会話をしてもらうという実験を行っている。この実験のポイントは2つあるという。

 1つは離れていても対話ができるということ。例えば、これを発展させて泉北ニュータウンで暮らしながらアバターを使って大阪市内で働くということも考えられる。もう1つは見た目が変えられるという点。姿が変わると人は普段と違う自分になれるという。実験では操作側で参加した高齢者が元気になり、喜んでもらえたという。「僕たちは人間の体に縛られすぎている。体に縛られているから差別や不平等といったことが起こる。技術はそういったものを解き放ってくれる」(石黒氏)。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/041900271/