「Beyond Health」2020年4月27日付の記事より

 神戸市が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下新型コロナ)対策として、スタートアップと組んだ施策を矢継ぎ早に打ち出した。

 まずは2020年4月20日、「Urban Innovation KOBE」×「新型コロナウイルス」と銘打ち、日本全国のスタートアップを対象に新型コロナ対策となり得るテクノロジーや提案を広く募集することを発表。発表日当日から募集を開始した。

 Urban Innovation KOBE(以下UIK)とは、スタートアップと神戸市の行政職員が一丸となって課題解決に取り組む官民連携のプロジェクトであり、2018年から本格運用が始まっていた。自治体が抱える社会課題をテーマとして提示し、スタートアップが解決に資するサービスを提供するもので、2018年上期には6件、同年下期には7件を採択した。そのうち9件が課題解決に結びつき、サービスの継続利用率は53%と一定の成果をあげている。今回打ち出した新型コロナ対策の募集は、このスキームを応用したものとなる。

 これまでのUIKは行政が課題を提示してスタートアップを募る方式を主としていたが、緊急性を鑑みて今回はスタートアップからの提案を吸い上げる形とした。すべてをオンライン審査とし、2営業日以内に審査が完了。実験に協力する部署との調整はおよそ1週間以内、実装については最短で即日。およそ自治体とは思えないスピード感で進めるという。

「Urban Innovation KOBE」×「新型コロナウイルス」の募集ページ(出所:神戸市)
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 神戸市もできる限りバックアップする。技術開発に向けた支援金は1件につき上限50万円、所管課による支援・補助は上限なしとした。募集テーマは、困窮している事業者支援、市民生活の支援、感染状況確認、データ解析のための技術など。専門的な医療分野に踏み込んだものではなく、生活・経済支援が中心である。例えば飲食店への先払いによる事業者支援ツール、スマートメーターと連携した在宅状況やオフィスの営業状況の可視化、混雑する融資手続き窓口でのサーモグラフィによる体温検知などを想定する。

「Urban Innovation KOBE」×「新型コロナウイルス」での想定提案例(出所:神戸市)
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米VCとの共同プロジェクトも始動

 2つめの施策は、4月23日に発表した「500 KOBE ACCELERATOR」(以下500 KOBE)の取り組みだ。500 KOBEは、米シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)である「500 Startups」と神戸市が共同で毎年開催してきたスタートアップ育成プログラムで、2016年からスタートしていた。第4回の2019年はヘルステック領域に特化し、「神戸医療産業都市」との相乗効果を図った。募集ターゲットを日本に限定しないのが特徴で、申し込み数174社のうち、海外勢が半数を超えるなど世界のスタートアップ界隈でも存在感を高めていた。

 前回の成果を踏まえ、今年は新型コロナ対策のみにテーマを定めた。500 KOBEに当初から関わってきた神戸市 広報戦略部長兼広報官の多名部重則氏は、「元500 Startupsの幹部であるザファー・ユニス(Zafer Younis)氏とディスカッションする中で、逆風を追い風にするプログラムはどうかとひらめいた。それが3月19日のこと。3月30日には、久元(喜造)市長に『ピンチをチャンスに変えましょう』と相談した。わずか1カ月でここまでたどり着いたことになる」とその経緯を振り返る。

500 KOBEの施策は久元市長の定例会見で発表された(写真:YouTubeライブ配信から)
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 対象となるのは、ウイルス感染にまつわる予防、公衆衛生などに関する正確な情報発信、健康教育、リモートワーク・学習、食品物流、オンラインイベントほか。これまで同様、国内・海外は問わない。ただし、治療、創薬、高度な医療機器など事業化までに数年を費やすものは対象外となる。神戸市医療・新産業本部 新産業部 新産業課長の武田 卓氏は「現在、治療の領域では、多くの企業が全力で注力している。500 KOBEでは進行形のWithコロナに加え、Afterコロナを重点的に募集していきたい」と話す。

500 KOBEにおける新型コロナ対策の対象領域(出所:500 KOBE)
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 募集期間は2020年6月から7月を予定。審査を経て約20チームを選考し、8月から10月にかけてプログラムを実施する。通常の500 KOBEは参加チームが神戸市に足を運んで密なメンタリングや講義を受けるが、こうした状況とあって今年は完全オンラインでの開催となる。最終発表会であるデモデイの開催方法は、状況を見て検討するとしている。

「意思決定のスピードが非常に速いことも強み」

 2つのプログラムの目的は同じではあるものの、500 KOBEは海外VCとの共同プロジェクトだけに調整に時間がかかる。そこで土壌が完成しているUIKを活用して最速で対応することにした。「神戸市としては1日でも早く動きたかった。そして市民のため、ひいては国民のために役立てたいとの思いがここまでの素早い動きにつながっている。意思決定のスピードが非常に速いことも強みだ」(武田氏)。

 また4月21日には、神戸市、UNOPS(国連プロジェクトサービス機関)、ソニーが共同で「Global Innovation Challenge」での協業を発表。「テクノロジーを用いた気候変動への対処強化」をテーマに、SDGsに取り組むスタートアップやIT企業の募集を開始した。神戸市では世界で3番目となるUNOPSのインキュベーション施設「Global Innovation Center」(以下GIC)を2020年夏に開設予定で、ここでもまた新たなスタートアップ育成をサポートする。

 「これまで500 KOBEとUIKで培ってきた実績が国内外で認知され、神戸市とスタートアップとの信頼関係が構築されていることも大きい。そこにGICを加えた3つが今後のキラーコンテンツになる。今回の新型コロナ対策でも良質なスタートアップがたくさん挑戦してくれることを期待している」(多名部氏)

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/042700236/