「健幸ポイントプログラム」のインセンティブで医療費抑制

 健康づくりへの無関心層を動かせれば、国民全体の健康レベルを底上げして、医療費の抑制に貢献できる――。そう考えたSWC首長研究会は、無関心層を動かす3つの戦略を実施してきた。

 1つはインセンティブ制度だ。一定以上の歩行量や運動などに応じて、寄付や地域商品券に交換できる「健幸ポイント」がたまっていくというインセンティブ制度の社会実験「健幸ポイントプログラム」を6市(福島県伊達市・栃木県大田原市・千葉県浦安市・新潟県見附市・大阪府高石市・岡山県岡山市)が連携して実施。2014年~16年度の3年間で1万2500人が参加した。参加者に対する調査の結果、74%が健康づくり無関心層だった。そして、無関心層ほど、参加後の1日当たりの歩数が大きく増えるという結果となった。

「健幸ポイントプログラム」参加者層と、参加後の行動変容(歩数増加)の結果(資料:筑波大学久野研究室)
[画像のクリックで拡大表示]

 久野氏によると、ポイントプログラムによって参加者1人あたりの年間医療費を約5万円、70代に限ると約20万円も削減できることが分かったという。「これまでは、『ある予算の中で何ができるか』という発想で事業が組み立てられてきた。だが、例えばこうした活動量と医療費の関連を示すような実績データがあれば、『医療費をX億円削減する』という目標を設定して『そのために何をどのくらいやるか』という事業計画を立てられるようになる」(久野氏)。つまり、データヘルスの実践が可能となるのだ。

 ただし、このときには無関心層に対するインセンティブだけでなく、医療費の削減成果に応じて国が自治体にインセンティブを与える仕組みも必要になる。現在の制度では、自治体が商品券の交換コストなどを負担して医療費を削減しても、「国や県の負担が減るだけで、国民健康保険や協会けんぽの自治体負担分に財政的なメリットが発生しない」(久野氏)ためだ。

 2つめはまちづくり。無関心なままでも「住んでいるだけで健幸になる」まちづくりの仕掛けである。例えば、まちの中心部へのクルマの乗り入れを制限して快適な歩行空間をつくる道路構造物「ライジングボラード」(昇降式の突起物)を、新潟市に導入するなどの取り組みを行った。

 そして3つめが、SWC協議会による、無関心層に健康情報を届けるインフルエンサー(健幸アンバサダー)の養成である(詳しくは後述)。

 久野氏は、こうした健康づくり無関心層への働きかけ戦略は、大学が持つ「科学知」と自治体が持つ「経験知」を融合させた「課題解決知」によって導き出されるとする。「大学は科学技術の開発に特化して、それを社会で活用するための『社会技術』に取り組んでこなかった。だが、社会技術は大学がこれから取り組むべき重要なテーマだ」(久野氏)。