「Beyond Health」2021年6月2日付の記事より

5月10日から14日まで、持続可能な開発目標(SDGs)推進を考える「日経大丸有エリアSDGsフェス」が東京都内で開催された(日本経済新聞社、日経BP主催)。12日の「ヘルスSHIFT100会議」では、「活動量不足のパンデミック、超高齢社会に向き合う 健康増進・疾患制圧に向けた新たな処方箋とは」をテーマにパネルディスカッションを実施。以下の登壇者が、身体活動・スポーツを社会でより実践的に推進していくための具体策について語り合った。

【パネリスト】
・鈴木康裕氏(厚生労働省 顧問(初代医務技監)/国際医療福祉大学 副学長)
・小沼宏治氏(スポーツ庁 健康スポーツ課長)
 ※当初登壇予定だったスポーツ庁 次長の藤江陽子氏は公務のため欠席
・飯島勝矢氏(東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長/未来ビジョン研究センター 教授) 

【モデレーター】
・小熊祐子氏(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科 准教授)

 冒頭に、3名のパネリストがプレゼンテーション。飯島氏からは、ディスカッションへの話題提供として、「コロナフレイル」というキーワードが挙がった。虚弱を意味するフレイルは近年、ヘルスケア領域で注目度が高まっている。身体的な衰えだけでなく、人とのつながりが希薄になる社会的フレイル、心理的フレイルという3つの要素があり、非常に複合的であることが特徴だという。

 このコロナ禍で飯島氏が懸念しているのが、自粛生活の長期化により外出控えや生活不活発が進みフレイルを招く「コロナフレイル」だ。関東エリアの4万9238人の自立高齢者のデータを示しつつ、「身体活動(運動習慣)」「文化活動」「ボランティア・地域活動」の3つを日常的に行っていた人はそうでない人に比べ16.4倍、フレイルになるリスクが低かったと解説した。また、運動以外の残りの2つを行っている人と、運動だけ行っている人を比べると、後者の方が3倍リスクが高かったとも。「NEAT(Non-exercise activity thermogenesis=非運動性熱産生)」と呼ばれる生活の中での活動や社会参加がフレイル予防には重要との考えを示した。

 加えて、人生100年時代のヘルスケアを産学官で支えるためには、個々人へのアプローチと街づくりなど地域環境の整備という2つの視点をバランスよく底上げすること、真の居場所、通いの場の充実や住民活力を生かすことも大切であると語った。

東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長/未来ビジョン研究センター 教授の飯島勝矢氏
東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長/未来ビジョン研究センター 教授の飯島勝矢氏
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 これを受け、モデレーターの小熊氏は、「フレイルに焦点を当て、コロナフレイルというキーワードや高齢者を中心としたコロナ禍でのエビデンスを示していただいた。個々人に加え、環境づくりが重要との視点は、WHO(世界保健機関)が『身体活動に関する世界行動計画(Global Action Plan on Physical Activity 2018-2030:GAPPA)』で重視しているシステムズアプローチにもつながる」とコメント。続いて、鈴木氏には、就労世代における身体活動の問題点を聞いた。

※ システムズアプローチとは、単一の政策ではなく、様々な関連機関を巻き込みながら、全ての関係者があらゆる次元で協力し、一丸となって対策を進める課題解決手法を指す。

日常生活の中で自然に健康づくりができる新しい価値観の創出を

 鈴木氏は「コロナ禍でリモートワーク推奨が続き、通勤の身体活動量が減っている。身体活動のみならず、メンタルへの影響もあるかもしれない」との危機感を示した一方で、「必ずしもマイナスな点だけではない。今まで、家は単に寝に帰るところだったが、コロナ禍で家が仕事をして長時間暮らす場所にもなっている。その点では、若い働く世代の力をいかに地域に活かしていけるかという可能性も生まれている」との視点を提示した。

厚生労働省 顧問(初代医務技監)/国際医療福祉大学 副学長の鈴木康裕氏
厚生労働省 顧問(初代医務技監)/国際医療福祉大学 副学長の鈴木康裕氏
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 小沼氏も就労世代の身体活動量の減少について、鈴木氏に賛同した上で、スポーツ庁が提言しているコンセプト「Sports in Life」を紹介した。生活の中に、散歩やヨガなどのスポーツが自然に溶け込むという造語で、現在、同庁はこの趣旨に賛同する自治体や企業などの関係団体(2021年3月現在、1121団体)でコンソーシアムを構成。スポーツを行うことが生活習慣の一部になる暮らしづくりに向けて支援を続けているという。「コラボへルス、健康経営など企業同士で取り組みを情報交換しつつ、発展してもらいたい。ビジネスパーソンは人口のボリュームゾーン。40、50代から企業ぐるみで健康増進への対策を行うことで、高齢期に入っても健康に過ごしてもらえるのではないか」との考えを語った。

スポーツ庁 健康スポーツ課長の小沼宏治氏
スポーツ庁 健康スポーツ課長の小沼宏治氏
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 小熊氏はこれに対し、「小沼氏のプレゼンテーションでも示された通り、日本でも若い就労世代、特に女性で身体活動が少ないことが分かっている。解決のためには、得意分野を生かした協同が大切」と補足。さらに、超高齢社会に立ち向かう日本で求められる新しいソリューションについて、パネリストに意見を促した。

 飯島氏は「国民が健康増進に“新しい風”を感じられることが重要」と提言。前述のフレイル予防についても、従来のようにただたんぱく質豊富な食事を摂る、運動に気を付けるなどに留まらず、エンジョイ・レジャーのような要素を加え、異業態同士のコラボレーションによって、日常生活の中で自然に健康増進につながるという観点が重要であると付け加えた。

 鈴木氏は、誰ひとり取り残さないSDGsの観点から、買い物難民への対策の必要性について語った。高齢になると免許を返納して公共交通機関に頼らざるを得なくなり、外出しにくくなる。移動コンビニのような街のインフラのように、「人々に出てきてもらう場」をつくることも必要であると指摘した。

 小沼氏は、「日本のスポーツ環境は、学校教育での体育の授業や成人の職域保健など非常に整ってはいるが、より体系化して街づくりとつなげる、ライフサイクルに合わせたスポーツ環境、システムをどう作るかという視点も大切だ」と提言。進行中のスポーツ基本計画の見直しも、そうした観点から進めたい考えを示した。

 小熊氏はこれらに対して、日常生活の中で自然に健康づくりができる新しい価値観を、「今後、(産学官)みんなでつくっていくことが重要。買い物難民は一例だと思うが、誰一人取り残さないという視点や、そのための色々な意味でのシステム作り、連携が求められる」と締めくくった。

慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科 准教授の小熊祐子氏
慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科 准教授の小熊祐子氏
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この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/060300274/