「日経デジタルヘルス」2019年6月3日付の記事より

 日本は約500万件、エストニアは約10億件――。2019年5月29日、「テクノロジーNEXT2019」(主催:日経xTECH、日経クロストレンド、日経BP総研)の3日目に開催された「デジタル医療 最前線 2019」では、日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会 理事の牟田学氏が登壇。「エストニアで進む医療情報連携、それを支える『X-ROAD』とブロックチェーン」と題して、エストニアが推進するデジタル社会の現状や日本との違いを解説した。

日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会 理事 牟田学氏
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 エストニアはバルト3国の1つで、1991年にロシアから独立。人口・経済規模は日本の約1/100となるが、オンラインによるデジタル社会が非常に進んでおり、例えば、「公営図書館にはインターネット環境の提供が義務付けられている」、「有権者の43.8%がインターネット投票を利用し、国外居住者に至ってはは9割以上になる」、「電子申告サービスは早ければ3分で終わるため、徴税コストはEU加盟国中最安」と牟田氏は説明する。

 これらのサービスの実現にあたって、牟田氏が重要なポイントとしてまず挙げたのが「個人番号」と「国民IDカード」である。とくに国民IDカードの取得は義務となっており、中でも公務員や医師は、住民や患者のデータベースへアクセスする際にこのカードが必要となる。これが非常に重要で、「誰がアクセスしたかというログがすべて記録されるため、何か問題があった場合でもしっかり追跡できるようになっている」(牟田氏)。

 次に重要となるのが「データを公開するシステム」だ。エストニアには「X-ROAD」という仕組みがあり、個別のデータベース間の連携やセキュリティを管理している。これによりインターネットに近い環境が構築されており、「個別に問題が発生しても、全体は存続できる仕組みになっている」と牟田氏は解説する。また、データベースを連携する仕組みは日本にもあるものの、X-ROADを導入しているエストニアでは「処理作業の95%が自動化されている」ため、「日本とはまったく違う」と断言。実際、日本のデータ参照件数は年間で約500万件なのに対して、エストニアでは約10億件にもなるという。

日本もデータを集めやすい仕組みを

 システムとともに法整備も進んでおり、エストニアでは医療情報や疾患情報などのデータ蓄積や利活用も進んでいる。例えば、救急隊員がタブレット端末で患者の基本情報を確認できる「e救急医療」、医師同士が患者のカルテなどを共有してアドバイスできる「e医療相談」、患者が自分の医療データにアクセスできる「患者ポータル」などがすでに実現されいるそうだ。これらのサービスの実現には当然データが重要になることから、日本には「データをどうやって効率的に収集し、安全に運用するかを学んでほしい」と牟田氏は訴える。

 データのセキュリティにおいて、牟田氏は「完全性」「機密性」「可用性」の3要素を挙げる。エストニアでは、機密性や可用性を担保しつつ、より高い完全性のために「ブロックチェーン」を活用しているのが特徴だ。重要なのはリアルタイムでデータの完全性を保障する点にあり、とくに医療においては「最新のデータであることを保証するために、ブロックチェーンが活用されている」と補足する。

 エストニアがここまでの仕組みを構築できた要因はいくつかあるが、牟田氏は日本が同様のレベルになるためには「ある程度の義務化が必要だ」と提言する。例えば現状では、医療データの利活用に本人の同意が基本的に必要となるため、「もう少しデータを集めやすくなるような法整備が求められる」として講演を終えた。

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当初、2ページ目の第2パラグラフで「安全性」と記載していましたが、正しくは「完全性」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。

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