SNSがもたらす功罪

慶応義塾大学 総合政策学部教授 國領二郎氏(写真:柏崎吉一)

 モデレータの國領教授は、「最近はSNS(交流サイト)で情報が手に入りやすくなった分、デマも増えた。悪意のある情報も含まれるかもしれない。どう留意すべきか」と問いかけた。

 防災科研の臼田氏は、「公式の情報をきちんと発信する状況を作るのが大事なのは間違いない。判断が難しいところだが、国や自治体が把握している点だけでなく、把握していない点が何かを含めて、市民に伝えることも不安解消のために大切だ」と指摘した。

 そこで、防災科研では、自治体を支援するために、正確な情報を発信する「基盤的防災情報流通ネットワーク(SIP4D:Shared Information Platform for Disaster Management)」を運用している。また災害時には、内閣府が現地に派遣する災害時情報集約支援チーム(ISUT:Information Support Team)や自治体と連携して正しい情報の流通を支援するという。

 「“善意の流言”も含めて、災害時にはいろいろな情報が飛び交うという認識が不可欠。ICTの普及で便利になった面と様々なルートから情報が入ってくる悩ましさがある。例えば、『入手した情報の7割は信頼できそうだが3割は間違いかもしれない。でも救助に駆けつけなければならない』という場面も現場で増えている」と臼田氏は明かす。加えて、海外では災害時のデマ発信を厳しく罰する法律を定めている国(台湾)があることも紹介した。

「“知らない”をなくす」には、平時からの防災がカギ

 國領教授と櫻井准教授は、「2011年の東日本大震災で被災した地域の現場では、限られた災害対応のリソースや努力が生かされず、支援の身動きが取れなくなった事態を目にした」と振り返った。

 西宮市の石井市長は、災害時に市への電話での問い合わせの対応に奔走する職員の姿を見て、「市民一人ひとりが、日頃から自分の地域がハザードマップでどこに当たるのかなど、いざという時に備えた基本的な知識を持ってくれれば」と感じたという。そして「そうなれば、職員はより重大な問い合わせ対応に手が割けるようになるだろう」と述べた。

 臼田センター長も、「平時の段階で仮に市民の8割が必要な情報を事前に知っていれば、災害時における行政への問い合わせは2割になる。地域にあるリソースをうまく活用するために、平時からいかに市民に知ってもらうかがカギだ」と強調した。

 防災科研は、自治体などが施策を講じる際の参考情報として地域で発生するリスクのある自然現象、高齢化率、財政力指数などを確認できる「地域防災web」(https://chiiki-bosai.jp)を提供している。2018年6月の大阪北部地震では、大阪ガスが公開するガスの復旧情報も取り込んだ。さらに、情報の収集や提供をAI(人工知能)とチャットボットに行わせ、救援団体のマンパワーを増やすことなく、より多くの被災者を適切にケアする研究開発プロジェクトにも取り組んでいる。

神戸市役所での実証実験(2018年12月)で用いられた開発中の「防災チャットボット」のイメージ(出所:情報通信研究機構の発表資料)
[画像のクリックで拡大表示]

ICTありきではなく、まずは首長が目的を明確にする

 西宮市の石井市長は、「研究会のテーマはICTだが、ICTから入ってはいけない。大事なのは市民自ら行動する力、シチズンシップだ。前向きな気持ちを持つ市民の力が強いほど、自治体の防災の対応力も高まる。そのためには何が大切か、研究会を通じて様々な自治体と情報交換し、そのヒントを得たい」と期待を述べた。

防災のための情報伝達の考え方(出所:防災科研のプレゼンテーション資料)
[画像のクリックで拡大表示]

 防災科研の臼田センター長も賛同する。「自治体の首長が具体的に何をしたいのかを明確にすることが大切。避難遅れをゼロにしたい、避難所環境を良くしたい、街の経済を早期復旧したいなど、いろいろな思いやニーズを明らかにして、その上で誰と誰がコミュニケーションするのかを考えていく。例えば、首長と職員、災害で関連する近隣の首長同士、部署を超えた職員同士、市民・企業・団体と役所など多岐にわたる。コミュニケーションをしたいのは平時か、災害の直前か、発災後の避難の段階か。そして連絡を取る場所は首長室か災害本部か。電話か、インターネットか。そこまできて、ようやくICTの話になるのが筋だろう。本研究会の主役は参加する各自治体。そこに防災科研としては培った知見や情報も提供したい」と語った。