2021年5月15日、「集え!全国のシビックテックプレーヤー」を合言葉に「CIVIC TECH FORUM 2021」がオンライン開催された。同イベントは今回が7回目となる。シビックテックとは、市民がITなどのテクノロジーを活用しつつ身近な困りごとや地域社会の課題解決に取り組む主体的な活動のこと。本稿では、プログラムの中から公共と民間が重なり合う領域での活動を紹介した3つのセッションを取り上げる。

市民からのフィードバックがあってこそのシビックテック

 奈良先端科学技術大学院大学 ユビキタスコンピューティングシステム研究室で助教を務める松田裕貴氏は、「シビックテックと情報科学を融合するスマートシティ研究プロジェクト」と題して発表した。松田氏の所属する同研究室では、IoTやAIなどの技術を活用して実世界の情報を収集・分析・応用する研究を行っている。松田氏はまたCode for Ikomaのメンバーとしてシビックテック活動にも取り組んできた。

 松田氏は、「シビックテックのコミュニティはサービスやツールをつくる人だけでは成立しない。市民がそれらを活用してこそ成立する。市民がアプリなどを活用する中で生まれてくる地域に関する情報、またアプリを使ってみた感想などがデータとして開発者側にフィードバックされるループを作ることが大切だ」と語る。

市民のフィードバックで育つシビックテック(当日の松田氏の発表資料より)
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 市民や行政と連携して取り組んだ事例の1つとして松田氏は、新型コロナウイルス感染症の終息への願いを込めて2020年に全国各地の公園など22カ所で実施した凧揚げイベント「大空高くみんなの願いを!2020」(企画・運営:一般財団法人公園財団・平城宮跡管理センター、アートプロジェクト気流部)を挙げる。松田氏はCode for Ikomaのメンバーなどと連携して、参加者が凧揚げの様子を撮影した写真やコメントを共有できるアプリを開発して、参加者の一体感を高めたという。

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イベント「大空高くみんなの願いを!2020」の概要とアプリで共有された画像(当日の松田氏の発表資料より)

 生駒市内の小学校と連携して2021年度進めているのが、小学生がデータクリエーターになって地域のデジタル図鑑をつくるプロジェクト。子供の視点でとらえた町の情報をデジタル図鑑にまとめる試みである。GIGAスクール構想で配布されたタブレット端末を利用する。プロジェクトのキックオフとなる出前授業を5月12日に実施。「生き物」「おすすめの本」「行事」「楽しい場所」など8つのテーマに沿って地域情報を集めていった。今後、1年かけてデジタル化していくという。

小学生が1年間かけて地域のデジタル図鑑をつくる(当日の松田氏の発表資料より)
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 「IoTなどを通じて認識される世界と、人間が認識にする世界にはギャップがある。システムが提示する解決策は必ずしも一致しない」と語る松田氏は、そのギャップを埋める研究を進めている。「利用者である市民から寄せられるフィードバックを通じてギャップを埋め、より人間の感覚に近い仕組みができないか」と松田氏は考える。そこで大切になってくるのがシビックテックの役割だ。例えば、安心・安全な帰宅ルートの案内をするサービスをつくる場合、「単に明るい道だけ選んで提示するだけでよいか。その人にとって<安心>とは何か。利用者の声を反映させることで本質的な課題の解決につながる可能性がある」(松田氏)というわけだ。

システムと人間の認識のギャップを埋める研究を進めている(当日の松田氏の発表資料より)
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自治体の協力を得ながら、いち早くコロナ情報サイトを立ち上げ

 「Code for Fukuoka再スタートから3年を経て-シビックテックだからできること-」と題して講演したのは、Code for Fukuoka代表の德永美紗氏だ。

 Code for Fukuokaでは2020年3月、福岡県における新型コロナウイルス感染症の拡大に際して、福岡県版のポータルサイトを公開した。Code for Japanが開発したオープンソースの東京都のコロナウイルス感染症ポータルサイトをベースに、開発を進めてきたものだ。Code for Fukuokaは、福岡県とこれまでも様々な活動を通じて接点があり、今回も感染症に関するオープンデータの提供を受けるなど、立ち上げ当初から県と連携を図ってきたという。德永氏が代表となり2018年3月に再スタートしたCode for Fukuokaにとっては、ちょうど3年目を迎えるという節目の時期の取り組みでもあった。

 サイトは2020年3月31日にオープンし、Code for Fukuokaが運営を担った。県など自治体が感染症対策に奔走し情報発信に手が回り切らない中、德永氏らは情報を可視化する活動を展開。サイト公開から約1週間後に6万ビューを超えた。市民から多数のコメントがサイトに寄せられるなど関心を集めたという。

 このポータルサイトは2021年4月末にクローズした。「県が新たにコロナ対策サイトを立ち上げ、そちらの情報が拡充されてきたことで当初の役目を終えた」(德永氏)と判断したためだ。福岡県とも協議した結果、サイト終了告知後1カ月間の猶予を設けた上でポータルサイトを閉じた。

いち早く福岡県の新型コロナウイルス感染症の情報ポータルを構築。一定の役割を果たし、クローズした(当日の德永氏の発表資料より)
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 コロナ情報サイトをいち早く立ち上げた経験を踏まえ德永氏は、「シビックテックのよさは、災害などが起きた時、身を守るための情報を集める仕組みや、こういう市民サービスがあればいいなという思いからお試し版を自分たちの手で素早く作れることだ」と語った。そして、行政との信頼関係を育みつつ、シビックテックはスピード感のある対応ができるように、いつでも身軽にしておく重要性を指摘した。今後Code for Fukuokaでは、公園アプリの開発再開や教育関係、文化財保護活用など視野を拡げつつ活動を進めていきたい考えだ。

德永氏が考えるシビックテックの役割(当日の德永氏の発表資料より)
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Code for Fukuokaの今後の活動(当日の德永氏の発表資料より)
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市民への無料サービス提供を継続するためのビジネスモデルを工夫

 ガッコム(東京都港区)代表取締役社長の山田洋志氏は、「学校をデータで見える化! -ガッコムの取組・統計のご紹介 -」と題して発表した。

 同社は、「Open Data & Open Choice for Children」というミッションを掲げて事業を展開している。学校情報サイトのガッコムのほかに、不審者や治安に関する情報を発信する「ガッコム安全ナビ」、全国の子ども食堂の地図を配信する「こども食堂マップ」などを提供している。

 社名にもなっているガッコムは、全国の保育園・幼稚園・小学校・中学校の情報を無料で提供するデータベースサイトだ。提供する学校情報は、自治体からの情報提供などに基づいている。そのほか、利用者がアンケート形式で投稿できる機能も用意している。たとえば、ガッコムに掲載される約1万ある中学校の93%で利用者からの投稿がある。中学校1校当たりの投稿数は平均99件に上る。

全国の学校情報を集める「ガッコム」。利用者からの投稿も多い(当日の山田氏の発表資料より)
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 投稿されるのは、「校庭は土か芝か、部活動はどんなものがあるかなど、外部の人からはなかなか分からないけれど入学している人は分かっている、というような情報だ。それらの投稿によって学校情報が次第に拡充されている」と山田氏。ガッコムを利用する児童の保護者含む当事者の声が、子供たちが学校を検討するための情報を充実させるうえで欠かせない点を強調した。

 なぜ、ガッコムは利用者に無料でサービスを提供できるのか。山田氏は同社が持つデータを企業に提供することで収益を得ている取り組みをいくつか挙げた。例えば、LIFULL(ライフル)が運営する不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」の賃貸物件情報をガッコムのサイトに掲載している。ガッコムのサイトであるA小学校の情報を開くと、そのA小学校の通学区域(学区)内の不動産物件も掲示される仕組みだ。「このようなサービスが提供できるのは、住所から学区を自動で判定するアルゴリズムを当社が独自に開発しているため」だと山田氏は説明する。

住所から学区を自動で判定できるようにした(当日の山田氏の発表資料より)
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 ほかにも、リスクマネジメントに関するコンサルティングサービスなどを提供するMS&ADインターリスク総研と連携して、教職員向けの安全研修(児童・生徒の登下校時の安全確保支援)などデータ提供を中心としたサポートも行っている。

校則、修学旅行先など様々な学校のデータを集積(当日の山田氏の発表資料より)
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 「学校に関する客観的データを用いて1人ひとりに合う学校選びをしてほしいと考えて開発している」と語る山田氏は、最後にガッコムへの利用者からの投稿情報などから算出した統計データとして、中学校における校則や修学旅行先、小学校の運動会が開催される季節の傾向などをいくつか紹介してセッションを締めくくった。

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 CIVIC TECH FORUM 2021では、約50組の発表者が活動を報告した。運営側では登壇者と視聴する参加者が交流できるオンライン上の質問コーナーや交流スペースを設けたり、YouTubeLiveのコメント欄にその場で書き込んで参加者同士がやりとりしたりする工夫を凝らしていた。当日のプログラムは「CIVIC TECH FORUM 2021」のサイトから動画視聴が可能だ。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/062200275/