「Beyond Health」2020年7月2 日付の記事より

医療・福祉・介護、そして地域おこし・まちづくりという2つの社会課題を一体的に考える公開討論会が開かれた。「設備面でも人によるケアの面でも優しいまちづくりはどうあるべきか」「自然にまちやコミュニティに溶け込んだケアホームとは」「まちとアートを通じて障がい者や福祉をどうやって知らしめるか」──。トークゲストたちの対話を通じて、少し先にある未来のまちづくりとヘルスケアの姿を見てみよう。

 近年、地域おこしやまちづくりに注目が集まっている。都会暮らしに飽きた30~40代のビジネスパーソンが地方に移住し新しいビジネスを起こしているニュースがメディアでも取り上げられており、それはその象徴と言えるだろう。

 一方、医療・福祉・介護の観点で見ても、地方および地域の在り方は、重要テーマとなっている。政府は少子高齢化を見据えて各自治体と共に、医療・福祉・介護の仕組みを地域ごとに一体的に整備する「地域包括ケアシステム」の構築を推進している。

 そんな中、医療・福祉・介護に関わる人々と産業界を結びつけ、まちづくりとヘルスケアを一体的に考えるための公開討論会が行われた。「Community Roots Forum 2020 ―ONLINE― 〜あたらしい福祉・まちづくりの仕掛け人たち〜」(2019年5月24日、新型コロナウイルスの感染防止のためオンラインにて開催。主催はNPO法人Ubdobe)である。

まちづくりとヘルスケアを一体的に考える公開討論会「Community Roots Forum 2020 ―ONLINE― 〜あたらしい福祉・まちづくりの仕掛け人たち〜」(2019年5月24日、主催はNPO法人Ubdobe)のトークゲスト一覧(写真:公開討論会の画面キャプチャー、以下同)
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 トークゲストたちの発言から、医療・福祉・介護とまちづくりの関係について、興味深い視点や意見をピックアップして紹介しよう。

コミュニティとそれを支える人をどう育てるか

 「まちに住んでいる人たちが、活動し、生活し、人生を構築しようと思うこと。これがまちづくりの原動力」と語るのは、コミュニティデザイナーとして活動する山崎亮氏(studio-L代表/コミュニティデザイナー/社会福祉士)である。山崎氏は建築家およびランドスケープデザイナーとして活動する中、「地域の課題は地域に住んでいる人が解決する」というコミュニティデザインに着目。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントのプロジェクトに関わってきた。コミュニティデザインに関する著書も多数ある。

カンファレンスに登壇した山崎亮氏(画像左下)と東急電鉄の東浦亮典氏(執行役員・渋谷開発事業部事業部長)
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 山崎氏は「ヒーリングガーデナー」の事例を挙げつつ、公園などの施設と福祉・介護の在り方を考える材料を提示した。

 ヒーリングガーデナーは高齢者や障害を持つ人のために、公園散策を手伝う公園案内のボランティア。現在、大阪府の公園事業の一環として運用されている。ヒーリングガーデナーには養成講座が設けられており、講座では住居を出て公園を回遊し、帰宅するまでの一連の流れを支援するボランティアを育成する。府営の公園ではヒーリングガーデナーにより、季節の公園案内やクラフト作りなど様々なプログラムが展開されている。山崎氏がこの例を通じて示唆するのは、施設を幅広く楽しんでもらうためのコミュニティの重要性だ。

 山崎氏は「(専門家が主導者として)コミュニティデザインに入り込みすぎるのは、あまり良くない。そこに住んでいる人たち自身が考えてまちづくりをすることが大切で、それをいかに支援するかがポイントだ」と強調した。「料理に例えるのは適切ではないが、人はまちという”料理”をつくるための、重要な“材料”のひとつ。材料自身が考え行動するように支援していくことが大切」(山崎氏)。

 また、地域で福祉・介護やまちづくりに関わる人々に対して、市民の主体性が求められていると強調する。「過去には、神のようなすごいシェフがすごいことをやってくれる、という時代もあった。しかし今はそうではない。材料である自分たちが、(地域という)“冷蔵庫”の中身を見て、一人ひとりがシェフとなるという時代だ。もう一回冷蔵庫の中をくまなく見てみると、新しい発見があるかもしれない」(山崎氏)。

 東急電鉄の東浦亮典氏(執行役員・渋谷開発事業部事業部長)は、新型コロナウイルス対策を踏まえた「アフターコロナ」の観点から、福祉とまちづくりを展望した。

 東浦氏は「少子高齢化や新型コロナのことを踏まえて考えると、個別の施策に対して潤沢な予算がつくということは考えにくくなってくる。つまり、医療福祉は医療福祉、まちづくりはまちづくりといったような、従来の個別の事業分野や予算区分ごとに施策を考えるのは理にかなっていない」と指摘する。「誰もが住みやすいまちにするためには、複数の分野の人が協力しながらホリスティック(全体的)にアプローチすることが必要ではないか」(東浦氏)。

 またスペインのバスク地方などでは市民主導の食のコミュニティである「ソシエダ・ガストロノミカ(会員制美食クラブ)」を挙げ、「こういう街の活動が増えるといい」とコメント。世界各地における市民の主体的かつ大規模な活動は、ホリスティックなアプローチを進めるうえで追い風になるとの趣旨を述べた。

既存住民と移住者との信頼関係をどう形成するか

 島根県雲南市でコミュニティーナースの事業を展開するCommunity Nurse Companyの中澤ちひろ取締役は、2015年にNPO法人で訪問看護事業の立ち上げに携わった際のことを振り返った。

 中澤氏は「その土地に必要なものだという確信があったとしても、事業を進めるうえでは以前からそこに住んでいる地域の人との信頼関係が重要だ」と述べる。「『いつかここから出ていくんでしょ』と思われている間は、うまくいかない。地域の中で『信頼貯金』をためていき、地域にいる人と一緒につくり上げていくことが大切」(中澤氏)。

島根県雲南市でコミュニティーナースの事業を展開するCommunity Nurse Companyの中澤ちひろ取締役(画像右上)。島根県の離島・隠岐諸島中ノ島にある海士町で、海士町社会福祉協議会の事務局長を務める片桐一彦氏(画像右下)、旅人カップルでユーチューバーの「せかたん」だいご氏(介護福祉士)ともか氏(画像上中央)らと対談した。画像下左は対談のモデレーターを務めた小野裕之氏
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 島根県の離島・隠岐諸島中ノ島にある海士町で、海士町社会福祉協議会の事務局長を務める片桐一彦氏は、コミュニティにおける移住者の重要性を語った。片桐氏は東京都出身。海士町社会福祉協議会のソーシャルワーカーとして働きながら2002年にNPO法人海士人(あまじん)を設立し、定住促進事業など町のIターン推進施策にも携わってきた。

 片桐氏は「地域の価値は外から気づくことが多い。新規移住者と前から住んでいる住民との交流は、その地域ならではの価値を再発見するきっかけとなる」と指摘した。「今はオンラインでもつながれる時代。新型コロナウイルスが、期せずしてオンラインで交流する動きを促している。島を“卒業”して『第2町民』として活動している人ともつながりながら、コミュニティを盛り上げていければと思っている」(片桐氏)。

 「都会の視点で田舎の“いいとこどり”をしようとしてもうまくいかない」と注意を促すのは、モデレーターを務めた小野裕之氏である。都市部の住人の視点では自然環境や食などの良い点が目につくが、「医療・福祉・介護のシステムを含めて、誰がその地域の産業、コミュニティ、文化を維持し、育て、継承していくのかというのが常に課題となる」(小野氏)。それゆえ、地域の持続性を織り込んだ移住促進策を立てることが望ましいとの趣旨を述べた。小野氏はソーシャルデザインやまちづくりに関わる事業開発・再生のプロデュース事業を手掛けている。

「地域のハブ」が自然と「福祉やまちづくりの拠点」に

 Happy代表取締役の首藤義敬氏は、福祉・介護とまちづくりの在り方について語った。Happyは神戸市長田区の六間道商店街で、多世代型の介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」を運営している。「年齢を重ねても人と関わることをあきらめたくない」という人をターゲットにしており、シェアハウスの事業計画から100人以上の地域住民と議論を重ねながら進めたことが特徴だ。首藤氏も家族とともにこのシェアハウスで暮らしている。

多世代型の介護付きシェアハウスを運営するHappy代表取締役の首藤義敬氏(画像下中央)。右下が「福祉実験ユニット」を掲げるヘラルボニーの松田崇弥氏(代表取締役社長CEO)、右上が松田文登氏(代表取締役副社長COO)
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 「実は、福祉や介護に携わることを最初から考えていたわけではない」と打ち明ける。「自分と自分の子供にとって一番いい暮らしは何かな、と考えた。子どもにとっては、いろんな大人に会えたほうがいい」(首藤氏)。

 高齢者らが入居するほか、フリースペースには日々、国籍を含めて多様な人が出入りしており、その数は1週間でおよそ200人にもなるという。通常の介護施設の姿はまったくイメージしにくいところが特徴だ。「シェアハウス自体には看板もないし、ホームページもない。同じ価値観の人が勝手に集まってきているというのが現状だ」と首藤氏は説明する。

 ファシリテータを務めたNPO法人Ubdobeの岡勇樹代表理事から福祉を通じたまちづくりのことを問われると、首藤氏は「まちづくりという言葉を意識しているわけではないが、『まちの関係性』をつくるということは意識している」と回答した。

 「シェアハウスに遊びに来る人が、認知症の高齢者と普通に話をしていたりする。後になってそれを知ると、『まじで?普通やん』と、みんなびっくりする。一発目のきっかけをつくることが大事だと思う。こうやって(シェアハウスが)地域のハブとなって関係性を結んでいるのだが、それは外から見ると福祉やまちづくりに見えるのかもしれない」(首藤氏)

 視聴者からのコメントには、「ほかの地域にもあるといい」という声があった。これに対して首藤氏は「同じものを作っても意味がない。いまのシェアハウス(ろっけん)には、この地域の文脈がある。『その地域だからこそ』のものを手掛けることに意味がある」と返した。

 「今までの日本は、属人性がないものを並列化してきた。でも、もうそういうものは必要ない。属人性を上げることが必要で、それが福祉でありまちづくりではないか。もし私がほかの地域で実行するとしたら、今のシェアハウスとはまた違ったものになるだろう」(首藤氏)

障害のある人や福祉の世界を“まちのアート”で自然に浸透

 「福祉実験ユニット」を称するヘラルボニーの松田崇弥氏(代表取締役社長CEO)と松田文登氏(代表取締役副社長COO)は、自社のアート事業と地域の関係性について触れた。ヘラルボニーは全国の知的障害を持つアーティストの作品をプロデュースする事業を展開している。事業の主な柱は、アーティストの作品を配したアパレルプロダクト、住宅や建設現場などの仮囲いにアート作品を飾るプロジェクトなどだ。

 双子の兄であるCOOの文登氏は仮囲いにアート作品を飾るプロジェクトについて、その狙いを説明する。「障害のある人がつくるアート作品には、私たちが普段の生活では見ることのない創造的な表現がふんだんに盛り込まれている。障害者や福祉と接点がない人にも、こうしたアート作品を届けたいと考えた」とする。

 アート作品が飾られた仮囲いを、いわば地域に根ざした「ソーシャル美術館」と見立てている。「障害のある人や福祉の世界と接点がないという人の日常にも、仮囲いを通じてアートがなじんでいき、その結果として『これは障害者が生み出したアートなのだ』という認識が広まることを狙っている」という。「そうすれば、(地域や家庭における)障害のある人の扱い方や育て方が変わっていくはず。障害のある人の生き方が、そのまちを通して変わっていくことを狙っている」(文登氏)

 双子の弟であるCEOの崇弥氏は、最近死去したアーティスト、八重樫季良(やえがしきよし)氏のエピソードを明かした。享年64、入院していた病院でもアートを描いていたという。葬儀には八重樫氏が描いたアート作品を並べ、同氏のアート作品を使ったプロジェクトを実施した岩手県花巻市からは弔電が寄せられたという。親戚は、障害があった同氏がアート作品を描いていたことを知らず、葬式を通じて印象が大きく変わった様子だったと話す。「知ることはとても重要。まちに配したアート作品を通じてそのようなことをさらに促していきたい」(崇弥氏)。

新しいカルチャーをもたらす可能性

 今回のフォーラムには300人強の視聴者が参加したという。なぜ医療・福祉・介護とまちづくりを一体的に議論する場を設けたのか。主催者であるNPO法人Ubdobeで事業推進を担当する萩原頌子氏は、「地域包括ケアの必要性が指摘されていることからもわかるが、これからは医療・福祉・介護の視点を取り入れたまちづくりが欠かせない。具体的で実効性のあるアクションを社会で促すためにも、それぞれの分野で活躍しているキーパーソンを集め、互いに議論する場があるとよいと考えた」と語る。

 本来はリアルイベントとする予定だったが、新型コロナウイルス感染のため、期せずしてオンラインでの開催となった。「ただ、オンラインで開催することで気軽な感覚で視聴する人が増え、結果としてフォーラムで狙ったメッセージが拡散した感触があった。特に開催時間中、SNSでハッシュタグをつけながら感想を述べてくれるユーザーが多く見受けられた」(萩原氏)。

 Ubdobe代表の岡氏は、「トークゲストたちの姿勢を見ると、『何か具現化したい世界がある』という目的を先に持っており、その手段として福祉やまちづくりを据えている」と見る。「そのような姿勢が新しい事業の姿につながっている。これまで個別視されていた福祉や介護を良い意味で意識させない、日常の暮らしで当たり前に福祉や介護が存在している新しいカルチャーづくりにつながっていくのではないか」。

 なお、UbdobeではCommunity Roots Forum 2020 ーONLINE-の録画記録を視聴できるようにしている。Peatixによる販売サイトはこちら( https://crf2020-recorded2.peatix.com/

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/070200243/