特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会が2022年6月15日にオンライン形式で開催した「スマートエイジングフォーラム 2022」に、シンガポール政府情報メディア開発庁デジタルオフィス所長のダグラス・ゴー氏が登壇した。シンガポール政府は高齢者の情報格差(デジタルデバイド)解消を目指した「デジタルアンバサダー制度」を2020年に開始して、大きな成果をあげている。以下、デジタルアンバサダー制度の概要とその活動実績についての、ゴー氏の講演内容を紹介する。

シンガポール政府情報メディア開発庁デジタルオフィス所長のダグラス・ゴー(Douglas Goh)氏(配信動画のキャプチャー)
シンガポール政府情報メディア開発庁デジタルオフィス所長のダグラス・ゴー(Douglas Goh)氏(配信動画のキャプチャー)

デジタルアンバサダー制度のきっかけは新型コロナ

 ゴー氏によると、シンガポール政府がデジタルアンバサダー制度を始めるきっかけとなったのは、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症だったという。「(感染対策の)自宅待機がいつまで続くか分からない状況で、高齢者の方たちがどれだけ孤独な状況におかれているか、政府はウェルビーイングという観点から非常に心配した」(ゴー氏)。2020年当時、シンガポールの70歳以上の高齢者は、インターネットの利用はもちろん、スマートフォン(スマホ)を持っている人も少なかった。SDOはこうした高齢者を「外」とつなげるために、高齢者のIT利用を支援するデジタルアンバサダー制度に取り組むことになった。

2020年時点シンガポールのスマホやインターネットの年齢別利用率(ゴー氏の講演資料より)
2020年時点シンガポールのスマホやインターネットの年齢別利用率(ゴー氏の講演資料より)
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 また、シンガポールでは高齢者の多くは市内のホーカーセンター(Hawker Center:東南アジアの駅舎などにある廉価な飲食店などの複合施設)で自営業者、あるいは従業員として働いている。新型コロナ禍をきっかけにして高齢者のITリテラシーを高め、ホーカーセンターの小さな店舗でも電子決済やネット販売を利用できるようにすることもデジタルアンバサダー制度の目標に掲げられた。

2年間で15万人の高齢者がデジタルスキルを習得

 デジタルアンバサダー制度は2020年5月に始まった。目標達成度を評価するKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)は「ホーカーセンター100カ所、1万人の店主、10万人の高齢者のデジタルリテラシーを向上させる」。高齢者を実際にサポートする現場担当者であるデジタルアンバサダーは、そのために1つ1つの店舗を回って説得したり、公民館や図書館などの公共施設で様々な宣伝活動を展開することになった。

 2020年に始まったデジタルアンバサダー制度は、2021年末までに15万人の高齢者、9000人の低所得シニアにモバイル環境のデジタルスキルを習得させた。また、ホーカーセンターの1万1000店がトレーニングプログラムに参加したことで、2021年末までにシンガポール中心部の店舗の86%で電子決済を利用可能になり、60%の店舗がネット販売を手掛けるようになったという。

デジタルアンバサー制度の成果(ゴー氏の講演資料〔翻訳:ブロードバンドスクール協会・近藤〕を一部加工)
デジタルアンバサー制度の成果(ゴー氏の講演資料〔翻訳:ブロードバンドスクール協会・近藤〕を一部加工)
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