「プールがないとだめだ」の逆を行く

 2016年に、町の水道局から企画財政課へと異動してきた吉岡氏が取り組んだのは、未来から逆算して町の取り組むべき施策を策定することだった。「水道局は、上下水道の投資をし、やった分だけ結果が出る。老朽化すれば、水道料金も上げなければいけない。町も人口減少が進むと、税金を2倍にしなければならない。行政も投資による効果をより意識していく必要がある」

 町づくりの中心に据えたのが、ヘルスケアの強化だった。2060年の町の姿を見据え、それを実現するために今何すべきか、「フューチャーデザイン」あるいは「バックキャスティング」と呼ばれる考え方の下で、「健康でハッピーに生活できる町」は町の発展にも重要という方向性を導き出した。「矢巾町の予算規模は100億円で扶助費が20%になっていたが、2025年には25%になると想定されている。税収が下がる中で、人々の健康を促進することで扶助費を抑え町の発展を進める」

矢巾町企画財政課未来戦略室課長兼室長の吉岡氏
[画像のクリックで拡大表示]

 町は、移転計画が進んでいた岩手医科大学付属病院を大きな契機にウェルネスタウンの実現を目指そうと考えた。その中で浮かび上がったのが、運動習慣をつくる仕組みづくりだった。

 2017年夏、岩手医科大学付属病院の移転に合わせフィットネス施設を開設する案が持ち上がった。実際にフィットネス施設に視察に行ったが、大手事業者からは「プールがないとだめだ」とつれない答えしか返ってこない。吉岡氏は、「どこの施設も、機械設備をそろえて始めようとするが、必ずしもそうではない。本当に、運動をして健康になってもらうことをサポートする。押しつけではない仕組みをつくろうと考えた」と振り返る。

 「プール」に象徴される施設に頼らないフィットネス。吉岡氏の水道局で培った経営感覚が生きたのは、必要最小限の投資によって人々の運動を促す仕組みづくりだ。「運動できる場所は、ここなら、町中にある。施設を作るにしても自分の健康をつくるための拠点として機能してくれさえすればよい」。そうした思いから作られたのが「メディカルフィットネス ウェルベース矢巾」。文字通り、ウェルネスの基地になるもので、矢巾町に関わる全ての人に本当の健康を届けるための「健康発信基地」と位置づけられた。