「Beyond Health」2021年8月16日付の記事より

Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を創る」ためのビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。その一つとして掲げているのが、「Beyond Mobility(未来のモビリティ)」だ。

モビリティの活用により住民の健康促進を図る――。そんな取り組みをフィリップス・ジャパンと青森市が進めている。その取り組みの狙いや実証の様子、今後の展望などをお伝えしていく。

フィリップス・ジャパンと青森市による専用モビリティ(写真:近藤 寿成、以下同)
フィリップス・ジャパンと青森市による専用モビリティ(写真:近藤 寿成、以下同)
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 フィリップスは今、モビリティとの連携による新たなヘルスケアサービス「ヘルスケアモビリティ」の構想を着々と進めている。具体的には、「サービスの移動」と「人の移動」の両面から、ヘルスケアサービスの動的・最適配置の実現をもくろむ(関連記事:フィリップスが目指す「ヘルスケアモビリティ」とは何か?)。

 特に、こうしたサービスのニーズは自治体にあるとフィリップスは見る。様々な自治体との連携を図りながら、用途の具体化やモデル実証を進めている。例えば、伊那市(長野県)とは「次世代ヘルスケアモビリティサービスに係る連携協定」を締結。オンライン診療に対するヘルスケアモビリティの有効性を証明するための実証に取り組んでいる(関連記事:いざ出発! ヘルスケアモビリティ)。

 一方、青森市と進めているのは、オンライン診療ではなく、予防領域へのモビリティの活用だ。2019年2月に締結した「ヘルステックを核とした健康まちづくり連携協定」に基づき、2020年度からモビリティを活用した予防サービス(フレイル/生活習慣病)を開始した。

 これらのサービスの実施拠点として運用していくため、両者は2021年5月末に「あおもりヘルステックセンター」を浪岡病院(同市)内に開設。さらに、青森県立保健大学と連携し、三者での連携協定を締結した。青森市民の健康課題解決においてモビリティがもたらす効果の検証など、産官学連携による成果の創出を目指す考えだ。

青森市立浪岡病院の外観。老朽化に伴い2020年2月から建て替え工事を進めていた。新病院の開院に合わせて、今回の取り組みを開始した格好だ
青森市立浪岡病院の外観。老朽化に伴い2020年2月から建て替え工事を進めていた。新病院の開院に合わせて、今回の取り組みを開始した格好だ
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 今回、2021年6月末に浪岡総合保険福祉センターで実施された、モビリティを活用した予防サービス(フレイル/生活習慣病)の簡易ヘルスチェックと、浪岡病院内に開設されたあおもりヘルステックセンターを取材した。簡易ヘルスチェックにおいては、管理栄養士は浪岡病院の職員が、保健師は青森市役所浪岡庁舎の保健師が参加している。浪岡病院自体が青森市立ということもあり、自治体と病院が連携し「地域一体となって取り組んでいる形」(青森市立浪岡病院 事務局総務管理チーム 主幹の田澤賢氏)である。

 この取り組みにおいて、モビリティを活用する狙いは何なのか。

「ゲリラ的な検査」を構想

 ずばり、予防サービス(フレイル/生活習慣病)においてモビリティを活用する狙いは、「どこでも参加できる仕組みを構築する」(フィリップス・ジャパン Solution CoE ソリューション事業推進部マネジャーの望月佑帥氏)ことにある。高齢者の社会参加の機会や場が少なく閉じこもりがちであることや、特定健診受診率が低迷している現状に対し、モビリティの活用により高齢者や働き盛り世代への簡易ヘルスチェックを提供しようというわけだ。

 実際、予防については個人の意識にかかわる部分が多く、「健康に興味がある人は予防にも気を配るが、興味がない人はほとんど気にしない」(望月氏)。そこで、自治体と連携し近隣の集会所など生活圏内の様々な場所で簡易ヘルスチェックを実施することで、従来健康意識が低かった人たちへの意識改善を目指す。

 例えば、近隣の集会所など、ある程度のスペースを有する場所を借りつつ、そこに機材などを搭載した専用モビリティを併用して簡易ヘルスチェックを実施する、というのが想定する基本スタイルだ。2021年6月末に浪岡総合保険福祉センターで実施された簡易ヘルスチェックは、この方式。約10人の高齢者が簡易ヘルスチェックに参加していた。

浪岡総合保険福祉センターで実施された簡易ヘルスチェックの様子
浪岡総合保険福祉センターで実施された簡易ヘルスチェックの様子
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 ただし、場合によっては「もっとゲリラ的なやり方もある」と望月氏は言う。具体的には、スーパーの駐車場に専用モビリティを持ち込んで検査スペースを設営。買い物目的でスーパーを訪れた人たちに検査を受けてもらうといった手法だ。つまり、もともと簡易ヘルスチェックが目的ではなく、たまたま買い物している人に“偶然の出合い”の機会を与えようというわけだ。現時点ではまだアイデアベースの話だが、「専用モビリティにはテントを設営する設備も装備しており、特別な会場などがなくても実施できるように準備している」(望月氏)という。

専用モビリティを用いた簡易ヘルスチェックのイメージ
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専用モビリティを用いた簡易ヘルスチェックのイメージ
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専用モビリティを用いた簡易ヘルスチェックのイメージ

 なお、専用モビリティが完成する以前の2020年度から、簡易ヘルスチェック自体は先行して青森市の浪岡地区や青森市の青森トヨペット(3つの店舗と本社の計4か所)で実施してきた。基本的に「同じ場所で最低4回は開催する」(望月氏)ことにしており、同一人物の継続的なデータ変化も蓄積できるようにしている。実際、参加者の中には既に2回目の検査を受けた人も出始めているという。

 参加者が検査の回数を重ねていくことも、今回のプロジェクトでは重要なポイントになるとする。「前回や前々回との比較で結果が良くなっていれば嬉しいし、悪くなっていればもう少し気を付けようという気分になるのが人の心理」(望月氏)だからだ。このような仕掛けによって、人の気持ちや行動の変化、すなわち行動変容を促す狙いだ。

「抱き合わせ」で、ついでに検査

 近隣の集会所などで実施する計画的な簡易ヘルスチェックの場合も、コロナ禍により、不特定多数の人が集まるイベントの実施が難しく、事前の告知もできていない状況にある。そうした中で、参加者を集める方法として現在重要なキーワードになっているのが「他のイベントとの抱き合わせ」だという。

 例えば、前述の浪岡総合保険福祉センターでの簡易ヘルスチェックは、同センターで実施されるデイサービスの入浴サービスと組み合わせる形で実施していた。何らかの目的でそこに訪れた人たちに、ついでにヘルスチェックにも参考してもらうという具合だ。

浪岡総合保険福祉センター内にある入浴施設の入口。入浴サービスを終えた高齢者が、簡易ヘルスチェックに参加していた
浪岡総合保険福祉センター内にある入浴施設の入口。入浴サービスを終えた高齢者が、簡易ヘルスチェックに参加していた
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 簡易ヘルスチェックを併設していることをあらかじめ告知こそしているものの、先の「ゲリラ作戦」における“偶然の出合い”に近い効果も期待できる。「健康にあまり興味がない人にもリーチできるだけに、他のイベントとの抱き合わせには大きな価値がある」と青森市立浪岡病院の田澤氏は語る。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/081600281/