大分県国東(くにさき)市にある大分空港が、早ければ2022年に「宇宙港」となる。ロケットを搭載した飛行機の離着陸場(スペースポート)である宇宙港。実現すれば、産業振興などの効果も見込める。県が検討中のコンセッション(公共施設等運営権)導入も、空港の活性化に弾みをつけそうだ。

大分空港の目立つ場所に、「DREAM PORT OITA」(宇宙港)のイメージ図が掲げられている(写真:中川 美帆)
大分空港の目立つ場所に、「DREAM PORT OITA」(宇宙港)のイメージ図が掲げられている(写真:中川 美帆)
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 2021年7月11日、米国ニューメキシコ州の砂漠地帯にできた「宇宙港」でロケットが打ち上げられ、世界的な話題を呼んだ。飛行機に搭載されたロケットは、上空で飛行機から切り離され、高度約85kmに到達して、宇宙港に戻った。

 ロケットを開発して打ち上げたのは、米国の宇宙関連企業ヴァージン・ギャラクティック。搭乗したのは、創業者のサー・リチャード・ブランソン氏らだ。同社は今回の飛行を、2022年に始める予定の宇宙旅行事業の試験飛行だとしている。

 同様のロケット打ち上げ計画が、日本の大分空港でも進んでいる。最短で2022年に実施予定だ。

ヴァージンに大分空港を推薦

 大分空港からの打ち上げ計画には、目を引く特徴がある。種子島宇宙センター(鹿児島県)のようにロケットを垂直方向に打ち上げる「垂直型」ではなく、「水平型」と呼ばれるタイプであるという点だ。ニューメキシコ州での事例のように、小型人工衛星が搭載されたロケットを母船に積んで、空中で水平方向にロケットを発射する。実現すれば、大分空港は「アジア初の水平型宇宙港」になる。

 大分空港を宇宙港にする計画が浮上したのは2019年。ヴァージン・ギャラクティックの関連企業ヴァージン・オービットがアジアで宇宙港になる場所を求め、一般社団法人スペースポートジャパン(東京都港区)に相談を持ちかけた。スペースポートジャパンは、日本に宇宙港をつくり、日本の宇宙関連産業の振興を目指す団体。代表理事を宇宙飛行士の山崎直子氏が務め、正会員には鹿島や大林組などが名を連ねる。

 スペースポートジャパンはヴァージン・オービットに対し、大分空港を提案した。理由の1つは、宇宙船が離着陸できる長さ3000mの滑走路があること。ロケットを搭載する飛行機としては、ジャンボジェット機「ボーイング747」が想定されているため、十分に助走できる長さの滑走路が必要になるのだ。

 飛行機は、一般的な旅客機と同じく滑走路から飛び立ち、海上でロケットを切り離す予定。海に近く、離陸後すぐ洋上に出られることや、周辺に自動車や精密機械などの産業が集積していることもポイントになった。これらの技術は、ロケットや人工衛星の点検や整備にも活用できる。

 日本有数の温泉地である別府や湯布院が近いこともプラスに働いた。打ち上げとなれば、国内外の技術者らが大勢滞在する。見学者も訪れるだろう。こうした人々に対し、空港以外の魅力も味わってもらえることも決め手の1つになったという。

 これらを踏まえ、ヴァージン・オービットは大分空港を宇宙港に選定した。

3000mの滑走路があり、日本有数の温泉地に近いことも、「宇宙港」の決め手になった(写真:中川 美帆)
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3000mの滑走路があり、日本有数の温泉地に近いことも、「宇宙港」の決め手になった(写真:中川 美帆)
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3000mの滑走路があり、日本有数の温泉地に近いことも、「宇宙港」の決め手になった(写真:中川 美帆)

県民も宇宙にワクワク

 一方、大分県は一連の動きを受けて、2019年夏ごろから宇宙港についての検討を始めていた。そして2020月4月、ヴァージン・オービットと大分県はパートナーシップを結んだと公表。さらに同年9月、内閣府と経済産業省は大分県と福岡県を「宇宙ビジネス創出推進自治体」に選定した。これは、2018年8月の北海道、茨城県、福井県、山口県に次ぐ選定だ。

 宇宙港化の事業を担当する大分県商工観光労働部先端技術挑戦課宇宙開発振興班の堀政博主幹は「アジア初の宇宙港で、国内では前例がないため、法律関係の調整や手続きなどを進めている」と話す。大分空港は国が管理する空港なので、国土交通省の担当者とも相談や打ち合わせを重ねている。

 先端技術挑戦課のメンバーは15人ほど。宇宙港や衛星データ活用など宇宙関係を総括する宇宙開発振興班と、AI(人工知能)やセンサーなどのIoT、アバターを手掛ける先端技術挑戦班から成る。宇宙関係の法律に詳しい弁護士など、外部の専門家の協力も得ながら進めている。

 打ち上げ予定の2022年には、国内最大規模の宇宙国際会議「第33回 宇宙技術および科学の国際シンポジウム(ISTS)」(主催:日本航空宇宙学会)が別府市で開催されるなど、大分県での宇宙ビジネスを盛り上げる機運が高まってきている。

 県民の期待も大きい。大分県はヴァージン・オービットとのパートナーシップ締結の発表と同時に、大分空港を水平型の宇宙港として活用する計画を明らかにした。以来、先端技術挑戦課には、県民から「どんな仕事でもいいのでやりたい」「掃除などで関われないだろうか」といった問い合わせの電話が相次いでいるという。「こうした電話にはまだ対応できないが、宇宙というのはやはり魅力的なのだろう」(堀主幹)。

宇宙ビジネスの交流拠点がオープン

 民間とも連携する。その1つが、2021年2月に誕生した一般社団法人おおいたスペースフューチャーセンター(OSFC)だ。OSFCは、宇宙港や衛星データの活用といった、宇宙ビジネスに関する調査研究などを行っている。

 衛星データの用途は、インフラのモニタリング、建設機械・農業機械の自動走行、石油備蓄量の分析、ドローンによる無人配送など多岐に渡る。

 OSFCは2021年3月、大分市の中心部、トキハデパートの近くに宇宙ビジネスの交流拠点「スペース・ベース“Q”」をオープンさせた。セミナーを開いて情報を提供するなどしている。宇宙ビジネス参入を目指す会員から、OSFCが相談を受けることもある。

 専務理事を務める高山久信氏は大分県出身。三菱電機とそのグループ会社で、宇宙営業部門の統括などの経験がある。

開放的な雰囲気の「スペース・ベース“Q”」(左)と、おおいたスペースフューチャーセンター(OSFC)の高山久信専務理事(写真:中川 美帆)
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開放的な雰囲気の「スペース・ベース“Q”」(左)と、おおいたスペースフューチャーセンター(OSFC)の高山久信専務理事(写真:中川 美帆)
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開放的な雰囲気の「スペース・ベース“Q”」(左)と、おおいたスペースフューチャーセンター(OSFC)の高山久信専務理事(写真:中川 美帆)

ホーバークラフト復活でアクセス改善

 実現すれば「アジア初の水平型対応の宇宙港」という特徴のある大分空港だが、課題も抱えている。一番は、アクセスの悪さだ。空港には鉄道でアクセスできず、大分市中心部にある大分駅までバスで1時間ほどかかる。これでは国内外から人を集めるのに都合が悪い。この点については、宇宙港の議論とは別に、県では対策を検討してきた。

 検討の結果、県はかつて別府湾を運航していた空気浮揚艇「ホーバークラフト」を復活させることにした。別府湾を横断できれば陸路で遠回りせずに済む。だが、かつて運航していたホーバークラフトは、運営する第三セクターが経営破綻して2009年に運航を終えていた。維持管理費の上昇に加え、2008年のリーマン・ショックに伴う利用者の減少が響いたためだ。

空港アクセスバスは、別府湾に沿ってぐるりと迂回する形で空港と大分市内を結ぶ。大分駅までの大人運賃は片道1550円(2021年9月時点)(写真:中川 美帆)
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空港アクセスバスは、別府湾に沿ってぐるりと迂回する形で空港と大分市内を結ぶ。大分駅までの大人運賃は片道1550円(2021年9月時点)(写真:中川 美帆)
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空港アクセスバスは、別府湾に沿ってぐるりと迂回する形で空港と大分市内を結ぶ。大分駅までの大人運賃は片道1550円(2021年9月時点)(写真:中川 美帆)

 県は、改めてホーバークラフトの採算性などを検討したうえで、県が船舶購入・貸与と発着地の整備などを行い運行を民間に委託する「上下分離方式」で復活させることを2020年に決定。運航事業者は審査の結果、タクシー業を中心に全国展開する第一交通産業(北九州市)にすることが同年11月に決まった。

 大分市側の発着地は、市の中心部に近い西大分地区に設ける。旅客ターミナルを設計する事業者は、藤本壮介建築設計事務所(東京都)と松井設計(大分市)の共同企業体(JV)に決定。県が2021年2月24日に公表した。17事業者が応募した1次審査を経て、2次審査に進んだ6事業者の中から選んだ。

 同JVの提案によると、大分市側のターミナルは、宇宙港のイメージに合わせ、空に向けて緩やかに屋根が高くなるようなデザインにしている。今後、変わる可能性もあるが、提案では1階は物販や待合スペース、2階は郷土料理も味わえるカフェ、屋上は別府湾を望めるようになっていて、県産の木材を使う。ホーバークラフトの乗降客だけでなく、地域住民の日常利用も想定している。

 大分市側と大分空港の両ターミナル、立体駐車場、ホーバークラフトを入れる艇庫(ていこ)の設計委託料は総額約7000万円、建設費は設計内容で左右されるため未定。施工会社は今後決める。

 ホーバークラフトは、早ければ2023年度中に運航が始まる。両ターミナル間の所要時間は約25分間で、バス利用時のおよそ半分になる。県は、ホーバークラフトの利用者を年30万~40万人台と想定。3隻の船舶の購入費や、発着地の整備費などとして、75億~85億円の県負担を見込む。大分県によると、運賃は片道1500円を第一交通産業が提案しているが、現状では未定。運航開始の直前ごろ正式に決まる見通しとのことだ。

バラバラな運営主体をコンセッションで一本化

 加えて県は、大分空港へのコンセッション方式導入を検討している。国は県の依頼を受けて、大分空港のデューデリジェンス(資産査定)を2020年4月に開始。このほど中間報告をまとめたが、内容は「非公表」(国交省航空局航空ネットワーク部航空ネットワーク企画課)としている。また、国交省は2021年8月16日、大分県の要望を踏まえ、大分空港へのコンセッション導入に関する民間事業者へのヒアリングを始めると発表した。コンセッション導入の可能性や事業スキームを検討したり、課題を整理したりするのが目的だ。関心表明書などを9月10日までに提出した民間事業者に対し、守秘義務対象の資料を8月23日~10月15日に開示して、意見を募っている。

 県がコンセッション導入を検討する理由はいくつかある。1つは、空港の施設によって運営主体が異なること。現在、滑走路やエプロン(駐機場)は国、ターミナルは県の第三セクター、駐車場は国の外郭団体である一般財団法人が運営している。これをコンセッションによって民間事業者に一本化することで、戦略的な空港経営をしやすくする狙いがある。

 このほか、航空ネットワークの拡大、駐車場の拡張、二次交通の充実、ターミナルビルの拡張といった、空港活性化に向けた取り組みや利用者のニーズへの対応がしやすくなること、さらに民間事業者の資金とノウハウを活用できることも、県がコンセッション導入を検討する理由だ。

 県は今後、国によるデューデリジェンスや民間ヒアリングの結果を踏まえ、地元関係者の意見を聞いたり、コロナ禍で落ち込んだ航空需要の回復状況を見極めたりしながら、コンセッションを導入するか決める。導入しない場合、運営方法などは現状のままとなる見通しだ。

 国交省から出向している大分県企画振興部参事監兼企画振興部交通政策課長の遠藤健人氏は「民間のノウハウを生かした創意工夫や、自由度の高い運営ができる手法を検討していく」と話す。さらに遠藤氏は「例えば大分空港に到着して熊本空港から帰るルートをつくるなど、九州全体で連携して、お客さんを呼び込むことも大切だ」と指摘する。

 ただし、コロナ禍が長引いた場合、コンセッションにどれだけの事業者が参画するかは未知数だ。同じ九州でコンセッションを導入した福岡空港や熊本空港は、コロナ禍に見舞われて赤字にあえいでいる。今後、民間事業者のアイデアなどをうまく生かすことができれば、宇宙港化とホーバークラフト運航と相まって、大分空港の魅力アップになるだろう。

 なお大分県は、打ち上げ開始後5年間で県内に波及する経済効果が102億円に達するとの試算を2021年3月にまとめている。世界中の打ち上げ記録を基に、5年間で18回打ち上げると想定(1、2年目に1回ずつ、3年目に3回、4年目に5回、5年目に8回)。102億円の内訳は、射場(打ち上げ施設)の運営効果が約31億円、建設投資効果が約15億円、観光消費効果が約56億円だ。

大分空港の展望デッキ(写真:中川 美帆)
大分空港の展望デッキ(写真:中川 美帆)
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政府の成長戦略も宇宙港を後押し

 宇宙港の整備は世界中で進みつつある。OSFCによると、既に稼働もしくは計画が具体化しているのは米国、ブラジル、英国、イタリア。さらに、ポルトガル、エクアドル、マレーシア、シンガポール、オーストラリアが宇宙港の開設を検討中だ。

 日本政府も宇宙事業を進めている。2021年6月18日に公表された成長戦略の実行計画には、米国宇宙産業との協力なども視野に入れながら、宇宙港の整備などによって、アジアにおける宇宙ビジネスの中核拠点化を目指すことが明記されている。

 さらに、政府が6月30日に閣議決定した新たな「宇宙基本計画」によると、日本の宇宙産業の規模(約1兆2000億円)を2030年代の早期に倍増、つまり約2兆4000億円にすることを目指している。

 順調に計画が進めば国内第一号となる大分空港で計画されているのは、前述の通り飛行機に搭載したロケットを上空から射出する「水平型」だ。水平型の場合、空港施設を活用できるので、大規模な設備の建設が不要だ。射場周辺の天候にあまり影響を受けないというメリットもある。垂直型だと、例えばカミナリ雲が発生して打ち上げが延期になるといった事態も起こりうる。

 水平型は米国では実績があるが、アジアでは例がない。現在、国内でロケット打ち上げを予定している地域のうち、水平型を本格的に検討しているのは、大分空港と下地島空港(沖縄県)の2カ所だ。

 PDエアロスペース(愛知県)は2020年9月11日、有人宇宙旅行の実現に向け、機体開発と並行して、下地島空港における宇宙港の整備に取り組むと発表した。下地島空港にも、大分空港と同じく3000mの滑走路がある。ちなみに下地島空港は民営化され、三菱地所などが運営している。

「水平型」を予定する下地島空港にも3000mの滑走路がある(写真:中川 美帆)
「水平型」を予定する下地島空港にも3000mの滑走路がある(写真:中川 美帆)
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 一方、和歌山県串本町で打ち上げ計画が進んでいるのは垂直型だ。主導するのは、キヤノン電子、清水建設、IHIエアロスペースなどが出資する事業会社スペースワン(東京都港区)。太平洋に面した本州最南端の町の串本町に、小型ロケット発射場「スペースポート紀伊」を建設している。

 北海道大樹町では、町や同町に本社を構えるインターステラテクノロジズ(IST、実業家の堀江貴文氏らが参画する宇宙ベンチャー)などが出資して、事業会社SPACE COTAN(大樹町)を2021年4月20日に設立。射場や滑走路などの複合施設を本格稼働させた。ISTはすでに大樹町から観測ロケット「MOMO」を打ち上げている。今後は、新たな射場を建設する計画や、滑走路の長さを現在の1000mから1300mに延ばす計画もある。

 国内では人工衛星をロケットで打ち上げられる場所が足りない。そのため、米国やカザフスタンから打ち上げた日本の企業もある。大分空港を皮切りに国内で宇宙港が整備されれば、こうした問題の解消にも一役買いそうだ。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/092800290/