「Beyond Health」2020年10月28日付の記事より

 高齢化・人口減の進展に加え、折からの新型コロナ禍により、地域が抱えるヘルスケア分野の課題は多様化・複雑化している。それらの課題を乗り切るための一助として、経済産業省関東経済産業局は10月27日、東京都内で「ガバメントピッチ」を開催した。

 同ピッチは、民間企業との連携に意欲を見せる自治体が、ヘルスケアベンチャーに向けて、共に取り組みたいヘルスケア分野の地域課題やニーズを発信するというもの。関東経産局では後日、同ピッチを聴講したベンチャーから、登壇自治体に対する共創提案を受け付け、最適なマッチング先をサポートするとともに、マッチング成立後の実証や社会実装の取り組みを支援する。

 この日、地域課題やニーズをプレゼンしたのは、茨城県大子町(だいごまち)、東京都八王子市、東京都府中市、東京都西東京市の4自治体。以下、登壇順にプレゼン内容を見ていこう。

●茨城県大子町

 茨城県大子町は県北地域に位置し、福島県や栃木県と県境を接する。人口は減少の一途をたどっており、現在は約1万6000人。うち65歳以上高齢者が7400人余りを占め、高齢化率は既に45%を超える。高齢者の15%弱、すなわち7人に1人が介護サービスを利用している。

 大子町にとって目下頭を悩ませるのが介護事業所の人材不足だ。現在、大子町全体で不足従業員数は17人で、全従業員数469人の7%を占める。今でも人手が足りない上、従業員の年齢構成をみると50代以上が半分を超えている。つまり20年後には半数以上が退職を余儀なくされることになる。その頃には少子高齢化の影響で町の就業者数自体が今より半分以下に減少することも明らかになっているため、手をこまぬいていれば間違いなく危機的な人材不足に陥ることになる。

 そこで大子町がベンチャー企業に求めるのは、介護事業所の生産性向上に資するITソリューションだ。高齢化率が県内トップの大子町は、人口密度が県内ワーストワン。そのため訪問介護では利用者宅間の移動距離が長く、生産性の低下につながってしまっている。

茨城県大子町役場福祉課の神長氏
茨城県大子町役場福祉課の神長氏
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 プレゼンを行った大子町役場福祉課の神長充氏が具体的なITソリューションの例として挙げたのは、AIによるシフト(勤務表)の作成。利用者の要望に応えつつ、ヘルパーの勤務帯を考慮し、利用者宅間の移動距離を最小に、かつ利用者・ヘルパー都合による急なキャンセルなどにも対応できるようなシフトを、AIを使って組んでもらう。そんなシステムを求めているという。

 大子町の人口規模は全国的にはほぼ中央値。また町が介護事業所の運営に携わっていることもあり、町と介護事業所の関係は緊密だ。それゆえ「大子町と共創すれば、町のバックアップのもと、高齢化率45%でのIT活用事例として取り組みを全国に横展開できる」と神長氏。ベンチャー企業にとってビジネスチャンスがより広がるメリットを挙げた。

●東京都八王子市

 東京都八王子市の人口は約58万人。都内市町村で最も多い数字だ。それだけの人口を抱えると、様々な行政サービスを手厚く行うには限界もあることから、同市では自分で自分を守る「セルフマネジメント」を介護予防の中核と位置づけている。

 高齢者が自らの力で、これからも自分らしく歩いていけるように、「役所がやるのは自立のきっかけをつくり、持続を後押しすること」と同市福祉部高齢者いきいき課主任の辻誠一郎氏。とはいえ、何をすれば健康でいられるか、例えば、運動や社会参加などが良いことは一人ひとりがある程度分かっていても、そもそも健康に無関心だったり、健康行動が継続しない人が大勢いるのも事実だ。

東京都八王子市福祉部高齢者いきいき課の辻氏
東京都八王子市福祉部高齢者いきいき課の辻氏
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 そこで同市がベンチャー企業に求めるのは、健康無関心層を含む多数の高齢者が「無理なく」「楽しく」「いつまでも」自分の健康を守れる仕組みだという。提案に当たっては、マンパワーを含めたコスト面の合理化を進めるべく、「ICTの活用は不可欠」かつ「2023年度を目途にビジネスとしても『自立と持続』できていること」を要件に課した。加えて、既に実施しているボランティアやイベント参加への共通電子ポイントの仕組みなどもうまく取り込むよう要望した。

 辻氏が事業イメージの一例として挙げたのは、個人の健康管理とポイント管理に加え、市と利用者、利用者相互などでコミュニケーションが取れるツールも一体化されたアプリの開発など。最適なものが登場すれば、市の公認アプリとする方向だ。なお、そうしたものを開発してビジネス化するに当たっては具体的に、①「健康提案」機能でおすすめする高齢者向けサービスからの広告料、②電子商品券の対象となる店舗からの協賛金、③助け合い機能を使う利用者による「課金」といったイメージも示した。

●東京都府中市

 東京都のほぼ中央に位置する人口約26万人の府中市が掲げるヘルスケアテーマは、介護予防の自主グループ化で市民同士が「つながる」介護予防だ。市には介護予防推進センターや地域包括支援センターのプログラムも存在するが、もっと幅広く介護予防に取り組んでもらうために市民が主体的に取り組む自主グループの活動が増えていくことを目指している。

東京都府中市市民協働推進部協働推進課の本田氏と福祉課高齢者支援課の石川氏
東京都府中市市民協働推進部協働推進課の本田氏と福祉課高齢者支援課の石川氏
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 もともと社会参加(人とのつながり)がある方が、身体活動が多いことが知られる。同市が高齢者の年齢別にグループ活動への参加意欲について調べたところ、65~74歳の前期高齢者はとても意欲的であることが判明。だが、新型コロナウイルス感染症の影響で、介護予防の取り組みは、教室の人数を減らして実施せざるを得なかったり、自宅でできる宿題に切り替えたり、そのほかYou TubeチャンネルやLINEを活用しての情報発信などに努めたりするものの、参加者の減少は避けられず、このままでは高齢者の健康が大幅に低下し、高齢者QOLの低下のみならず、社会保障費の増大が懸念される事態となっている。

 そんな状況を打破したいというのが府中市の願い。介護予防はリアル実施だと3密の回避、オンライン実施だとデジタル格差の問題が立ちはだかるものの、ベンチャー企業にはこれら二つの課題をクリアするソシューションを求めている。同市市民協働推進部協働推進課主任の本田奈織氏と福祉課高齢者支援課石川紹子氏が具体的に例として挙げたのは、リアルで実施する場合には、公園など3密にならない場所でできるトレーニングン指導や、3密にならないレクリエーションイベントの開催サポート。また、オンラインを活用する場合は、デジタル格差にも配慮した上での、自宅で友人と励まし合いながら運動ができる健康ポイントアプリや、友人同士でオンライン上のミニレッスンを開催できるサービスだ。

 府中市の市民主体の介護予防を目的とする通いの場への参加人数は2019年度時点で9451人。同市によると、この数字を2022年度までには500人増やして1万人にする目標だという。

●東京都西東京市

 2001年に東京都の旧・田無市と旧・保谷市が合併して誕生した西東京市は都心のベッドタウンとして発展してきた。現在、人口は20万人。65歳以上人口は今後一貫して増加し、特に85歳以上高齢者は増加率が高い。市民の居住継続意向が高く、2017年に行った市民意識調査によると、「住み続けたい」と回答した割合が60歳代で79.2%、70歳以上で80.8%だった。

 そんな西東京市は以前から東京大学高齢社会総合研究機構と連携して高齢者のフレイル(虚弱)予防に力を入れてきた。特筆すべきはその活動の推進役を担うのが市民サポーターである点。高齢者に自らがフレイル状態であることを早めに気づいてもらうために実施するフレイルチェックならびにその結果説明を、地域の元気シニアが担っているのだ。彼らは「フレイルサポーター」と呼ばれる。

 こうしてフレイル予防に積極的に取り組んできた同市だが、折からのコロナ禍で、外出自粛が求められ、フレイル予防の3要素のうち、特に運動の機会や人と話す機会が減ると、高齢者の運動量の低下や栄養の低下が顕著に認められるようになった。そこで様々な対策を実施するも、その後、外に出始めた高齢者と、コロナ感染を恐れまだ外に出られなかったり既にうつ傾向などの心身の低下が表面化している高齢者との間には大きなギャップがある。

東京都西東京市健康福祉部高齢者支援課在宅療養推進係の徳丸氏
東京都西東京市健康福祉部高齢者支援課在宅療養推進係の徳丸氏
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 そんな課題を解決するべく西東京市が求めるソリューションは、①コロナ下でも外に出たくなる、②出られない人には室内でフレイル予防できるorしたくなる――というもの。求めるソリューション例として同市健康福祉部高齢者支援課在宅療養推進係主任の徳丸剛氏が掲げたのは、VRなどを活用した高齢者の外出意欲を高めるミニ講座の実施や、アプリで高齢者同士やサポーターと繋ぎ、交流手段や地域で見守り体制を構築する仕組みだ。

 現在、西東京市のフレイルサポーターは119人。「ベンチャー企業による新たなソシューションは、地域のインフルエンサーでもあるフレイルサポーターとの連携で、地域にしっかり浸透するのでぜひ提案をお待ちしています」と徳丸氏は締めくくった。

 さて、今回のガバメントピッチの登壇自治体に対するベンチャーからの提案の募集締め切りは11月6日(金)13時まで。関東経産局ウェブサイトから提案用紙(Ecel)をダウンロードの上、ガバメントピッチ事務局(有限責任監査法人トーマツ)宛てにメールで提出する(詳細はこちら)。

 関東経産局によると、ヘルスケアの課題解決に向け、自治体からベンチャーにニーズを投げかけるこうしたガバメントピッチの開催は今回が初めてとのこと。今年の冬には、介護事業者が抱える課題に対してベンチャーがソリューションを提案する形式のピッチも予定している。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/102900251/