スマートシティ推進に関するプロジェクトや実証実験における官民連携の動きが本格化してきた。京都スマートシティエキスポ2019のプログラム「全国自治体交流シンポジウム」では、内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省の4府省担当者がパネルディスカッションを行った。府省が進める連携の概要、現状の課題、今後の取り組みなどに関する発言を中心に紹介する。

パネルディスカッションの様子。右から、内閣府企画官の吉川和身氏、総務省情報流通行政局地域通信振興課課長補佐の吉田智彦氏、経済産業省製造産業局自動車課課長補佐の眞柳秀人氏、国土交通省都市局都市計画課都市計画調査室課長補佐の酒井祐介氏、インターネット協会副理事長の木下剛氏(写真:行友重治)
[画像のクリックで拡大表示]

 スマートシティに関連して、内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省の4府省は、連携していくつかの施策を行っている。

 その1つに、2019年6月閣議決定された「統合イノベーション戦略2019」などに基づいて設立された「スマートシティ官民連携プラットフォーム」(以下、官民連携プラットフォーム)がある。2019年10月7日には公式サイトが開設された。

 内閣府企画官の吉川和身氏は、官民連携プラットフォームを4府省で立ち上げた背景として、「スマートシティやMaaS(Mobility as a Service)の実証実験事業などに取り組む、事業の応募者、採択者、関係府省の担当者が情報交換する場として整備している。NPO、スタートアップも参加できる環境にしたい」と述べた。

「スマートシティ官民連携プラットフォーム」のウェブサイト

 官民連携プラットフォームの会員向けのメーリングリストなどを用意し、情報発信や交流を図る。

 「Webサイトではまずは、日本各地の取り組みが一覧できるようにしたい。会員間のマッチングも進めていく」(吉川氏)。

府省横断で進むスマートシティのアーキテクチャ策定

スマートシティのアーキテクチャのイメージ(資料:内閣府)
[画像のクリックで拡大表示]

 スマートシティのアーキテクチャ策定も府省横断で進めている。

 吉川氏は「これまでは取り組みが個別なされてきたこともあり、スマートシティに関する統一された定義がなかった。そこで各省が参加する共同研究により、スマートシティのアーキテクチャを開発している。スマートシティやMaaS基盤の共通化を目指したい」と述べた。

 また、アーキテクチャを作る上で、ドイツが提唱するIndustory4.0を社会活動や市民生活全般に展開するSociety5.0(*1)をリファレンスモデルなどとして整備を進めていること、将来的に海外のスマートシティと都市間の連携や協力を図ろうとしている点に吉川氏は触れた。

*1 国が提唱するSociety5.0とは、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において日本が目指すべき未来社会の姿を示したもの。

 今後は、アーキテクチャに基づくシステム構築、事業の公募・審査などを含め、各事業の予算要求時点からの府省間連携を深化させる見込みという。

 スマートシティに関連する公募採択案件においても、府省間連携の動きが見られる。

 国土交通省と経済産業省では、2019年度よりMaaSをはじめとする新たなモビリティサービスの社会実装を通じた移動課題の解決及び地域活性化に挑戦する地域や企業を応援する新プロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」に取り組んでいる。

「スマートモビリティチャレンジ」のウェブサイト

 「スマートモビリティチャレンジ推進協議会では、各地で取り組まれるMaaS事例を共有している。地域間のコミュニティを介して、地域を超えて共通する課題やベストプラクティスを分かち合い、横のつながりを広げたい」(経済産業省 製造産業局 自動車課 課長補佐の眞柳秀人氏)。

スマートシティ推進の課題を共有

 パネルディスカッションでは、スマートシティを推進する上での課題や留意点も指摘された。

 「都市の課題を個別ではなく包括的にとらえることが重要だ」と強調したのは、国土交通省都市局 都市計画課都市計画調査室課長補佐の酒井祐介氏。

 「国交省ではこれまでもエネルギーを中心にした個別分野の取り組みがあったが、都市はいろいろな課題を抱えている。分野横断的に対処していなければならない。例えば、地方の道路を拡張すれば交通渋滞は解消するかもしれないが、その結果『車での移動が便利になったから』と住民の歩く習慣が減れば健康上の問題が生まれるかもしれない。全体を考えた政策が必要だ」(酒井氏)。

 2012年頃からICTを活用したまちづくりや様々な実証実験を行ってきた総務省では、センサーを活用した鳥獣被害対策などの成功モデルが得られたという。「2017年からは、これまでの個別の取り組みではなく、それぞれの分野を横断し、より高度なまちづくり『データ利活用型スマートシティ』を自治体と進めている」(総務省 情報流通行政局 地域通信振興課 課長補佐 吉田智彦氏)。「データ利活用型スマートシティ推進事業」には2019年度採択分を含めてこれまで13団体(自治体)を採択している。

データ利活用型スマートシティの概念(資料:総務省)
[画像のクリックで拡大表示]

 「スマートシティアーキテクチャにおける、都市OS(*2)やデータ連携基盤の実装に関する知見を各自治体で共有できるように支援したい。都市OSを実装する取り組みを積極的に採択したいと考えている」と吉田氏。

*2 都市OSとは、スマートシティにおけるサービス(ビジネス)とアセット(データリソース)を標準APIを介して円滑に接続するための共通基盤。相互接続に必要な機能やデータモデルなど体系化したアーキテクチャのこと。

技術の進展に応じたルールの整備

満員だったディスカッションの様子(写真:行友重治)

 スマートシティで利用される新技術も多いが、現状の法律が追い付いていない。これまで想定されていなかった行為に規制をかける新ルールについても意見が出た。

 内閣府の吉川氏は、「今後進展する自動走行や、パーソナルデータの管理・保護などでは新たなルールが課題になっている。どういう法律が必要か、各省庁とスケジュールを含めて検討したい。並行してプロジェクトなどを通じて、実践を積み知見を蓄えることが重要だろう」と述べた。

 経産省の眞柳氏は、走行中の車両から収集可能なデータに言及した。

 「スマートシティでは、コネクト化(つながること)をキーワードにしている。走行中の車両データが取得できれば、それを活用した推奨ルートの提示による渋滞緩和が実現できる可能性がある。ただ、その時、どこまでデータを出すのか、というルールづくりは必要になる」(眞柳氏)。

 総務省の佐藤氏は、「スマートシティにおけるセキュリティ面で留意すべきなのは、サイバー空間における脅威だけでない。あちこちに取り付けたセンサーを故意に操作して異常なデータを与えるという懸念が指摘されている」と述べた。また、総務省内ではスマートシティにおけるセキュリティに関連するガイドラインの整備を開始しているという。

データ活用を持続成長可能な都市運営に役立てるために

 一方、スマートシティのアーキテクチャには、データ活用や相互運用性の向上による高度な課題解決と効率的な都市運営が期待されている。

 国交省の酒井氏は、「国交省では、新しい技術やこれまで手に入らなかったデータをもとにした課題解決をスマートシティで目指している。パーソントリップ調査などで得られた動的データはシミュレーションによる駅前広場の整備や賑わいの創出などに活用できる。『スマートシティでは何の技術を使うか』という問われることも多いが、大事なのはどのような課題を解決したいのか、という課題認識だ。まずは、まちの課題をしっかりとらえる。そして、技術やデータをいかに活用するのかと論考するステップが重要だ」と指摘した。

 スマートシティの推進では、一部ではなく、様々な立場から多くの人に参加してもらうことが持続的な発展において重要になる。特定の誰かが得をする、ということではうまくいかないことがディスカッションから伺えた。この観点から、いくつかの課題も指摘された。

 例えば、バスとタクシーの特性を併せ持つオンデマンドバスのような新たなモビリティサービスは、縦割りの業法ではカバーしにくいことが指摘された。また、交通事業者が保有するデータが事業者を超えて利用ができれば、バス、鉄道、タクシー、シェアリングサイクルなどの移動手段の選択から決済までをシームレスにつなぐ情報提供サービスが可能になることは明らかだが、既存事業モデルとの兼ね合いなどから、すべての事業者が各自保有するデータのオープン化に前向きとは限らないという。事業者側にデータを出すメリットをもたらす、インセンティブ設計やガイドラインの整備の必要性も言及されていた。

 総務省の吉田氏は、「『データ利活用型スマートシティ』では、大企業だけでなく、中小・ベンチャー企業にも参画を促している。マネタイズは常に課題だ。初年度は補助金をつけることができても、いずれは経済的に自立していくことが望ましい姿だ。そのためにはスマートシティを担う地域のコミュニティづくりが重要だと考えている」と述べた。

 経産省の眞柳氏は、「移動サービス単体ではなく、各地域の経済活動や移動先であるショッピングセンター、病院、フィットネスクラブなどと連携したパッケージ全体でビジネスとして成り立つようにしたい。プロジェクトに参画する地域の方やメーカーなど幅広い関係者に参加してもらおうと働きかけている」と述べた。

 パネルディスカッションで司会を務めたインターネット協会 副理事長の木下剛氏は、「バルセロナやトロントが先駆けてスマートシティを打ち出した大きな理由には、財政の健全化という課題があった。日本の各自治体も財政をはじめ、様々な課題を抱える。地域の特性を生かした官民の連携が解決には必要だ」と述べた。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/103100210/